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化け物蕾


「ああもう、おぞましかろうがやるしかねぇか!」


 しばらく硬直した後に、そんな声を上げたならボグと二人、化け物蕾へと向かって足を進める。


 すると化け物蕾は目も耳もねぇってのに俺達の気配を感じ取ってか、その蕾から生えた、一体何本あるのかも分からねぇ蔓を動かし、俺達を迎撃しようとの構えを取る。


 そう、この化け物蕾には目がねぇ、耳もねぇ、だってのにどういう訳かこちらの気配を感じ取ることが出来るんだそうで……その感度というか精度はそこまで高くはないらしい。


 動きを見ているのか、体温を感じているのか、あるいは吐き出す息を感じ取っているのか、エルフ達が出した仮説はいくつもあり、今の所結論は出せていねぇそうだ。


 結論は出てねぇが精度に関しては何度かの実験でどの程度かが分かっていて……大きい物や大きい動きは感知出来るが、小さい物や小さな動きは感知出来ねぇことが多いらしい。


 つまりは俺とボグがすべきは、大きな体で大きく動いて敵の注意を引きつけることで……その間にポチ達がこっそりと小さな動きでもって流し針を刺し……刺して刺して刺しまくり、化け物蕾がどうなるかを観察する、というのが今回の作戦ということになる。


「おらぁ! 自慢の再生力を見せてみやがれ!!」


「ペル達に手は出させねぇぞぉ!!」


 まず俺が声を上げ、次にボグが声を上げ……俺は黒刀を蠢く蔓に向かって振り下ろし、ボグは両手を振り上げ、その鋭い爪をぐわりと構えてから、まるで駄々っ子がそうするかのように両手を出鱈目に振り回す。


 するとざくりざくりと、そんな感触と共に蔓があっさりと斬れる。


 ある程度の硬さはあるのだが木の枝というよりも、花の茎を斬っているかのような感触で……蔓が斬れる度にぬるぬるとした、樹液のようなものが周囲に飛び散る。


 いや、樹液よりはもう少し水っぽいか……アロエの液に近いかもしれねぇ。


 なんてことを考えながら黒刀を振るって振るって……息する間も無く振り続けるが、蔓は次から次へと、無尽蔵といった有様で現れて、俺達の前でうねうねと蠢く。


 しばらくはそうやって蠢くだけだったのだが、蠢きながら力を溜めていたのか、それとも何かの機を待っていたのか、突然何本かの蔓が鞭のようにしなって横薙ぎに振るわれ、俺達の方へ凄まじい勢いで持って襲いかかってくる。


 蔓は長く、何本も同時に振るわれていて、避けるというのは現実的じゃねぇ。

 ならばと黒刀を振るって襲いかかる蔓を斬るしかねぇかと二度三度と振るうが……蔓の数は無尽蔵、黒刀を振り下ろしたちょっとした隙を狙って俺の胴へと蔓が命中する。


「いってぇなぁ!! この野郎!!」


 鞭というよりもよくしなる木材で殴られたような衝撃で、骨にヒビが入ったかと思うような威力で、思わずそんな声が漏れちまう。


 今の装備は異界の糸を編み込んだ着物で……斬撃には革よりも強いが、衝撃には革よりも弱いというようなものとなっている。


「くっそ、革鎧の方にしときゃぁ良かったか! だがあれだとこの湿気はきついしなぁ!!」


 なんて声を上げながら、俺の胴を打ち据えた蔓を……そのまま巻き付いて獲物を捕獲しようとしている蔓を斬ったなら、そう何度も貰う訳にはいかねぇぞと、気合を入れ直しての構えを取る。


 そんな中ボグは、あいも変わらず両手を駄々っ子のように振り回していて……手数が多いおかげか、蔓のほとんどを防げている。


 たまにボグの両手をすり抜けて胴や頭を打ち据えることに成功している蔓もいるようだが、ボグの分厚い毛皮はその衝撃を全く受け付けないようで……ボグは気にした様子もなく、ただただ両手を振り回し続けている。


「爪の切れ味は刀並、皮が分厚く、肉もたっぷりでほとんどの攻撃を受け付けねぇ。

 俺達の中で最強はボグなのかもなぁ」


 恵まれた体格と、生まれ持った武器防具と。

 ボグも一応、牧田が用意してくれた、特別性の着物を身にまとってはいるのだが、あれが普通の着物だとしても全く問題ねぇんだろうなぁ。


 それでいて体力はたっぷりとあって、嗅覚聴覚に優れていて、コボルト達なみに早く駆けることが出来て……いやはや、さすが熊の力を持った人というか何というか、仲間としてこんなに頼りになる奴はいねぇのかもなぁ。


「狼月! ぼさっとしておるとまた食らうぞ! どうしても休憩したいなら弾力の符術を張ってやるから、そう言えば良い!」


「狼月さん! 骨折くらいなら痛み止めでなんとか誤魔化せますから、必要だったら言ってくださいね! 口の中に投げ込みます!!」


 と、背後からクロコマとシャロンのそんな声が響いてきて……こっちはこっちで頼りになるなぁってのと、薬を口の中に投げ込むのは勘弁してくれねぇかなぁって、そんなことを考えていると……こそこそと動くポチが右から、ペルが左から大きく回って動き……その手に構えた流し針をきらりと光らせる。


 化け物蕾は今の所、そんな二人の動きには気付いていねぇようだ。


 それよりもがむしゃらに両手を振るうボグへと意識というか、狙いというか、蔓を向けているようで……俺もまたそんなボグの負担を減らすために懸命に黒刀を振るう。


 そうして何度も何度も、何十回も黒刀を振るっていると、こっそりと化け物蕾への接近に成功したポチとペルが、左右から同時にざくりと流し針を刺し……化け物蕾に気付かれないまま、二本三本と、次から次へと刺していく。


 痛覚がねぇってのは、痛みで怯まなくて良いから便利かもな、なんてことを思ったこともあったが……あんな風にこっそりと、結構な長さの針を刺されても気付けねぇってのは、生き物として致命的な気がするなぁ。

 

 刺された流し針からは、だくだくだくとまるで血のように樹液が流れていて、ポチ達の足元にちょっとした水たまりのようなものを作り出していて……ポチ達はそんな中でも怯むことなく、流し針を次から次へと刺し続けている。


 そうして手当たり次第に刺し続けて……もう刺せる場所が無くなったらしいポチとペルが移動をしようとした―――その時。


 ポチとペルの足が水たまりの中でぽちゃんと音を立てる。


 すると化け物蕾はそれに反応して、俺達の方へと向けていた蔓を引き上げ、ポチとペルに向けようとして……そこで俺とボグが同時に声を上げる。


「てめぇこの野郎!! 打ち合いの最中に逃げんじゃねぇよ!!」


「ペルとポチに手ぇ出したら許さねぇぞぉぉ!」


 そんな声を上げながら俺とボグは、化け物蕾を引きつけるために一気に前に踏み出し……そして化け物蕾の本体、大きく膨らんだ蕾そのものに斬撃を加える。


 すると化け物蕾は蕾を震わせ、蕾の下の方から今までの二倍三倍もの量の蔓を生み出して、それでもって俺とボグを出鱈目に、先程までボグがやっていた駄々っ子のような感じで上下左右、あらゆる方向から打ち付けてくる。


 避けられねぇ! 刀での迎撃もできねぇ!!


 俺はとっさに黒刀を手放し、両腕で顔をかばい、出来るだけ身を縮めての防御姿勢を取り……同じような格好となったボグ共々、とんでもねぇ数の蔓の連続攻撃を全身で受ける。


 一撃一撃はさっきよりは痛くねぇが、何しろ数が多くて、気を失う程に痛くて、そうして吹っ飛んだ俺とボグは、クロコマが上手い具合に張ってくれていた弾力の符術に受け止められ……そうして床に落下し、しばしの間痛みで悶える。


「いってぇなぁぁ! こんちきしょう!!」


 しばし悶えてからそう声を上げて、立ち上がると、先に立ち上がっていたボグが唖然としたような表情を化け物蕾に向けていて……一体何があったのやらと俺も視線をそちらに向けると……さっきまで大きく膨らんで、元気に暴れていた蕾と蔓が、しおれてひなびて、まるで紙風船を叩き潰したかのような状態ででろんと、床に広がっている光景が視界に入る。


 その死体? と言ったら良いのか、蕾の残骸と言ったら良いのか、とにかくその側には無傷のポチとペルの姿もあり……二人が手にした流し針でもってつんつんとそれを突くと……それをきっかけに化け物蕾の姿が薄くなっていき……しゅんっと消えて、ころころと何かが何処かから落ちてくる。


「ドロップアイテムか……。

 ってことはこれで倒したってことなのか……。

 にしてもちくしょう、雑魚相手にこれだけやられたのは初めてかもな」

 

 ポチとペルが落ちてきたドロップアイテムを拾い始める中俺がそう言うと……俺を心配して駆け寄ってきたクロコマとシャロンが、俺の顔を見上げるなり同時に、


『ぷはっ』


 と、吹き出す。


 それに続いて駆け寄ってきたボグもまた「ぶはっ」と吹き出し……何事だと訝しがったは、痛む顔にそっと触れて……そうして今自分の顔がどうなっているかをなんとなく察する。


 蔓に打たれてミミズ腫れ、それも縦、横、斜め、色んな角度でいくつも出来上がっていて……こりゃぁ当分痛みに苦しむことになりそうだなと、そんなことを胸中で呟いた俺は、げんなりと脱力しその場に座り込み、そうしてがっくりと項垂れるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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