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大江戸コボルト【WEB版】  作者: ふーろう/風楼


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いざ第五ダンジョンへ


 深森から流し針という武器のことを教わって俺達は、具足師の牧田の下へと、流し針の量産とどう使うかの相談をしにいった。


 すると牧田は、


『量産自体は可能だ、何日かあればそれなりの量を用意してやるよ。

 ただまぁこれを弓矢やら槍で刺すってのは止めた方が良いだろうな。

 弓矢にせよ槍にせよ、これと一緒に持ち歩いたら荷物になるだけだろうよ』


 との助言をしてくれた。


 実際弓矢も槍も扱えるのは俺くらいのもんで……前に立って敵の攻撃を防ぐ俺がそんなもんをこれでもかと抱えて、それに夢中になっているようじゃぁ困ったもんで……量産をするだけしてもらって、そんでもって主にポチとペルに持ってもらって、体が小さく小回りの効く二人に、相手の隙を突いてもらうのが一番だろうということになった。


『だがまずはその前に、本当にそれが有効なのか試してみたほうが良いだろうな。

 量産ってもそれなりに手間がかかる上に、かかる銭も安くはねぇんだ……大昔の情報だけを頼りに量産ってのは気が早すぎらぁ。

 こんなに古いもんを錆びさせることなく手入れしてた深森ってのは中々大したやつのようだし、こんなもんを用意してまで嘘を言ってるって訳でもねぇんだろうが……それでもまぁ、銭と命がかかってんだ、確かめとくのは大事だと思うぜ』


 更に牧田はそうも言ってくれて……それもそうだと納得した俺達は、翌日……つまり今日、深森から預かった流し針が、ちゃんと魔物に通用するのかの試しをすることに決定し……そういう訳で俺達は、朝から江戸城北側にある、富士見櫓側へと足を運んでいた。


 富士見櫓の側、というか脇にそこまで大きくはない小屋があり、そこかしこを鉄板で補強したその小屋には、大きさには不釣り合いな頑丈そうな鉄扉がはめ込まれていて……その鍵は当然のように吉宗様が管理していて。


 吉宗様直属のコボルトに頼んでその扉を開けてもらうと、いつも通りの裂け目が姿を表し……しっかりと装備を着込んだ俺達は、その裂け目へと触れてダンジョンの中へと入っていく。


「うぉぉぉ、なんだってんだよ、ちくしょう!!

 真夏かってくらいにじめじめしてやがんな!!」


 まず視界に入り込んだのは一面に広がる苔と、苔を避けるかのように生えているぐねぐねと曲がった背の低い木で……苔も木も無い場所は、どこもかしこもが泥でぬかるんでいて、じとじとと濡れていて、まるで真夏かと勘違いしてしまう程に湿気が凄まじく、思わずそんな声が漏れる。


 初冬の冷たく乾いた空気からいきなりのこの湿気への変化は中々きついものがあり……冬毛のポチ達とボグなんかは、その毛をしっとりとさせて、ぺったりのっぺりとその体に貼り付けてしまっている。


「気温はそこまでじゃぁないはずなんですが、湿気のせいで暑いと勘違いしてしまっているというか、汗が止まりませんねぇ……。

 日の本中を探し回っても、ここまでの湿気が溜まりこむ場所は無いんじゃないですか……?」


 と、ポチ。


「だ、ダンジョンにあるのかは知りませんが、湿地帯では毒草や毒虫なんかの病気の原因になるものが多いので、気をつけてくださいね」


 と、シャロン。


「ふ、符が! 符術の符が湿気てしまう!?」


 と、クロコマ。


「オラ……オラ、もう屋敷に帰りてぇ」


 と、ボグ。


「オイラはこういうの全然平気かなー」


 と、ペル。


 そんな風に一通りの感想を口にした俺達は、足を進める前にまず、周囲に壁や天井があるのかを確かめていく。


 小鬼のダンジョンでは森の中ながら壁や天井があったし、猪鬼のダンジョンでは壁も天井もなかったし……さて、ここはどっちだとの疑問の答えは……。


「む、横にも縦にも広いようだが、一応壁や天井があるんだなぁ。

 段々と人数が増えているこっちにとっちゃ動きやすくてありがたいが……ダンジョンが広い分だけ魔物もでけぇってことなんだろうなぁ」


 というものだった。


 黒刀でそこらをつつきながらそんなことを言った俺に対し、湿気でよれよれになり始めた紙束を見やりながらポチが言葉を返してくる。


「資料によればかなりの大きさのようですね。

 猪鬼よりもかなり大きく……大体牛五頭か六頭程の大きさだとか。

 植物だからか、大きさの割には重くないようですが、それでも中には水分が詰まっている訳ですから、それなりに重く、きつい一撃を放ってくるようです。

 ちなみにですが、普段は植物らしく根を張っているようなんですが、普通に動きます、動くっていうか移動します、根を地面から引き抜いて。

 そんな状態で植物がどうやって移動するかと言えば、何本もの蔓を手足のように器用に動かし、蕾のような本体を引きずるようにして動くようです。

 それと蕾の中に獲物……つまり僕達のことですが、僕達を蕾の中に引っ張り込んでの捕食行動も取るようです。

 植物の中には虫を食べる食虫植物と呼ばれる種類が存在していますが、まぁそれと似たような生態なんでしょうねぇ」


「そいつはまた……とんでもねぇなぁ。

 蔓でぶっ叩いて、捕食しようとしてきて……その上攻撃してもあっさり再生しちまう訳か……そりゃぁドワーフ達が苦戦するのも当然だわなぁ。

 ……そしてそんなやばい奴がこの先に陣取ってる訳か」


 ポチに対してそう返した俺は……ボグと共に一行の前に立ち、抜刀したままゆっくりと……固く平らな地面を歩いていく。


 傍目には苔まみれで、泥でぬかるんだ地面となっているが、それでもここはダンジョンのようで、他のダンジョンがそうであったように、目に見えない平らな床が存在していて、足を泥や苔にとられたりするようなことは一切ねぇ。


 そういった部分はありがたいんだが、何故か湿気なんかはしっかりと体にまとわりついてきて……その湿気のせいで、ただ歩いているだけで体力が奪われていく。


 普段の着流しならそこまで体力が奪われることもなかったんだろうが、しっかりと装備をし、ついでに病を警戒をしてのマスクをし、挙げ句に背負鞄やらの重荷があると格別で……特に冬毛に覆われているポチ達の消耗はひでぇものとなっているようだ。


 その表情や息遣い、足取りからもそれは明白で……こいつは厄介なことになりそうだと、そんな事を考えていると……歩く道の先に、大きな……緑色と紫色を悪趣味なまでに混ぜ込んだような色をした、大きな何かがでんと構えているのが視界に入り込む。


 丸く大きく、上の方が少しだけすぼまっていて……確かに蕾のように見えなくもない。


 そしてそれはまるで呼吸をしているかのように膨らんだり縮んだりを繰り返していて……そんな動作を繰り返しながら、何処から生えているのかも分からない何本もの蔓をゆらゆらと揺らしている。


「……こいつぁ参ったね……」


 その姿は異様としか言いようがなく、その大きさも度肝を抜くもので……そんな化け物を前にした俺達は、しばらくの間一歩も動けなくなってしまうのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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