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第五ダンジョン


 ボグとペルと合流し……商売で当分忙しくなるらしいネイはそのままにして、俺達だけで組合屋敷に向かった。


 その途中でボグが食べたがった寿司の出前の注文なんかも済ませて、それから屋敷へと入り居間へと向かい……そうこうしているうちにポチ達もやってきての全員集合だ。


 俺、ポチ、シャロン、クロコマ、ボグ、ペル、の順で囲炉裏を囲っての円を描いて座り込み……祝言を済ませたことの報告や、再開の挨拶を済ませていく。


 俺達が祝言を挙げるということはボグ達も察していたというか、分かっていたことで……良かった良かったと祝福の言葉をかけてくれて、今日の寿司は祝いを兼ねての奢りだということになり……そうこうしているうちに出前が届き、何人もの配達人の手によって、何枚もの出前桶が居間に積み上げられていく。


「お、おいおい、注文を任せはしたが、こんなに頼んだのかよ。

 いやまぁ、ボグ達の奢りだから文句もねぇんだが……こりゃぁ店中のネタを買い占めちまったんじゃねぇか?」


 その光景を見やりながら俺がそう言うと、ボグとペルはにっこりとした笑みを浮かべる。


 楽しみだったんだからしょうがないじゃないか、大江戸の寿司はひと味違うんだよ。


 とでも言いたげなその笑みには有無を言わせぬ迫力があり……それを受けて俺はしょうがねぇなぁと笑ってから出前桶に手を伸ばして引っ掴み、祝いも兼ねてるんだから好き勝手に食うぞと、用意した箸と小皿を構える。


「それじゃぁ早速馳走になるぜ……っと、カニにカワハギ、イカとはいかにも旬で豪勢じゃねぇか」


 そろそろ冬、冬になれば美味しくなるそれらのネタに俺がそう唸ると、ポチもシャロンもクロコマも、当然ボグもペルももう待ちきれないとばかりに手を伸ばし、全員で一斉に、


『いただきます!』


 と、声を上げての寿司の食べ放題が始まる。


 カニの芳醇な旨味、カワハギのじんわりと広がる甘味、イカのたまらない歯ごたえ、そのどれもが素晴らしく、たまらず俺が「うんめぇなぁ」なんて声を上げると、それに続いて他の面々も声を上げ始め……全員の箸と口が激しく動いていく。


 それからしばらくの時間が経って、全員の腹が良い具合に膨れた頃に、誰よりも早く満腹となって寝転がっていたペルが声を上げてくる。


「そう言えば兄弟、次のダンジョンには向かったのかい?」


「いや? ボグやペルが合流してからと思って情報収集をしただけだな」


 俺がそう返すとペルはむくりと起き上がって、興味津々といった様子で言葉を返してくる。


「それでそれで、次の……第五ダンジョンか、それは一体どんなダンジョンなんだい?」


「あー……これがまた厄介でなぁ、驚くことにかつてのエルダードワーフ達が攻略を断念したダンジョンなんだ。

 エルダーエルフ達にとっては楽勝だったそうで、調査の方はそっちで済ませたらしいんだが……まぁあれだ、エルフ達が詳しい植物の魔物が現れるダンジョンらしい」


「植物……? 植物の魔物って……植物が動くのかい?」


「ああ、動くらしい。

 動く上に強敵だそうでな……ちょっとやそっと斬りつけたくらいじゃぁ、あっという間にその傷をきれいさっぱり治して……再生しちまうそうなんだよ。

 ドワーフ連中がいくらその斧を振るっても、斬り裂いても叩き潰しても再生しちまって、どうやっても倒せなかったとかなんとか。

 アメムシもまぁ似たようなもんだったが、こいつはアメムシよりも更に頑丈で再生速度も早くて厄介で、挙句の果てにこの植物は蔓を伸ばしての攻撃をしてくるそうでな……今までの魔物とは比べ物にならん厄介さらしい」


「げぇ……そいつはまたひどいなぁ。

 ……あれ? でもエルフ達はそいつに楽勝だったんだろ? 一体全体どうやってエルフ達はそんな厄介な魔物を倒したんだい?」


「魔法らしい。

 エルフ達の魔法で、エルフ達の知る植物の弱点を的確に突いたとかなんとか」


「魔法……魔法ねぇ。

 あっ、さては炎で焼き払ったな!」


 ぽんと手を打って、得意げに人差し指を上げてそう言うペルに俺は、顔を左右に振って否定の意を示してから言葉を返す。


「それがなぁ、ドワーフ達も燃料をばらまいて火を放つって手に出たそうなんだが……駄目だったそうだ。

 生木が燃えにくいのと一緒で、樹液……と言ったら良いのか、体液と言ったら良いのか、とにかくそんな液体が中にたっぷりと詰まってるこの魔物は燃えにくいんだそうだ。

 ただ燃えにくいだけじゃなくて蔓を器用に使っての消火や……燃料をたっぷりと染み込ませた己の体の一部を、切り離した上で投げつけてくるなんてこともしてくるとかで、それでドワーフ達は逆に火攻めにあっちまったらしい」


「ど、どうしようもねぇ!? そんなのどうしようもねぇじゃんかよ!?

 っていうかエルフもよくそんな相手に楽勝出来たな!? もうエルフを連れていったほうが楽なんじゃねぇの!?」


 するとペルはそんな悲鳴を上げて……両手を投げ出しながら横になって、まるでふて寝でもしているかのような格好となる。


「ま、気持ちは分かるがな……だがまぁ俺達の組合にいるエルダー達に頼るのはまず俺達の方で出来ることをしてから、になるだろうな。

 まずは俺達で斬り合って、シャロンが用意したアレを試してみて……全てはそれからだ」


 俺がそう声をかけるとペルは、寝転がったまま面倒くさそうな表情をし……そうしてから声を返してくる。


「えー……まぁ、やれと言われればやるけどさぁ……。

 っていうか、シャロンちゃんが用意したアレって何さ? シャロンちゃんは薬師でしょ?

 植物に効く薬があるの? それとも効く毒が?

 流石のシャロンちゃんでも植物は専門外なんじゃない?」


 するとずっともくもくと、寿司を食べ続けてきたシャロンがぴくりと反応し、腰に下げていた小さな袋を手に取って、ペルの方へとそっと投げる。


 するとその袋は寝転がったペルの目の前にぽとんと落ちて、ペルは思わず「毒薬なんかをこちらに投げて寄越すな!」と、そんなことを言いたげな表情をするが、シャロンはけろりとした「問題ないですよ」と言いたげな表情を返すだけで取り合わない。


 そんなシャロンを見てペルは、その袋の中身に興味を持ったらしく、そっと手を伸ばして口を縛っていた紐を解き……その中身を確認する。


「ん? あれ? これってもしかして……」


 中身を確認したペルはそう言って袋の中に手を伸ばし……中に入っていた粉をちょいと指先につけて、それをぺろりと舐め取ってしまう。


「あ、やっぱ塩じゃん! これ塩じゃん!

 塩で植物を倒すってそんな……そんな……あ、そっか、塩害か」


 舐め取って勢いよく声をそう上げて……その途中で腑に落ちたことがあったらしいペルは、一人で結論を口にして、そうして俺達に視線を向けてくる。


 異界の魔物に効くかは分からねぇが、相手が植物だってなら試してみる価値はあるはず。

 他にも色々と植物を枯らすって言われてるもんは山のようにある訳で……第五ダンジョンはそれらを使っての攻略になりそうだと、ペルに向かって頷いて返した俺達は……まだまだ残っている出前寿司へと手を伸ばし、旬の味をこれでもかと堪能するのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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