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大江戸コボルト【WEB版】  作者: ふーろう/風楼


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新しい日々


 黒船や祝言のことが片付いて俺達は……鍛錬の日々を送っていた。


 次のダンジョンの攻略はあえてせずに、既に攻略したダンジョンに向かうか、道場で鍛えるかして……たまに深森の調査を手伝うなどして、小遣いを稼いで。


 そうしていた理由は一つとして仲間となったボグとペルが不在だということにあり……そしてもう一つはポチがどうにもこうにも落ち着いていねぇということにあった。


 伴侶を得たことが嬉しいのかふわふわと浮ついて……地に足がついていねぇと言えば良いのか失敗を繰り返して。


 そんなポチの気持ちを引き締めるためにと鍛錬の日々を送っているのだが……何しろ祝言相手がすぐ側にいるせいか、訓練相手でもあるせいか、中々上手く引き締めることができねぇ状態にある。


 まぁ、ポチがどうあれ次の攻略をいつにするかだとかは、ネイが試験航行させている黒船で近々こっちに来るというボグとペルと相談して決めるということになっていたんで、それまではそんな状態でも構わねぇと言えば構わねぇんだが……そうだとしても、もうちょっとこう、ぱりっとしねぇもんかねぇ。


 ……と、そんなことを組合屋敷の道場で、腰を下ろしての休憩をしながら口に出すと、道場の中央で符術の符を張ったり投げたりと、繰り返し練習をしていたクロコマがこちらにやってきながら言葉を返してくる。


「……ワシからしてみるとお前も大概だと思うんだがのう。

 いや、ま……新婚なんだからそれで当然、仲が良い事自体は素晴らしいことだとは思うがのう」


 そんな事を言ってクロコマは、俺の隣にちょこんと座り……腰に下げた符束を、練習用の魔力も何も込めていねぇ、形だけの符の束をめくったり何だりと休憩しながらの手すさびをし始める。


「いやいや、俺は違うだろ、ポチとシャロンとは全然違うだろ。

 そりゃぁまぁ新婚相応に仲良くはしてるけどよ、家の外じゃぁいつも通り、変わんねぇはずだぜ? ぱりっとしてるはずだぜ?」


 そんなクロコマにそう言葉を返すと……クロコマは半目になりながら言葉を返してくる。


「そうは言うがな、狼月……お前の手が今掴んでいるそれは一体何だ?」


「あん? こいつはネイが作ってくれた握り飯だが……」


「そうだのう、つまりそれは愛妻弁当って訳だのう。

 今は特に黒船だなんだと忙しいんだろうに、わざわざ愛妻弁当を作ってくれているって訳だのう」


「いやまぁ……俺はいらねぇと言ったんだが、アイツが昔から作ってみたかったと言って聞かねぇから……」


「狼月……お前達は未だに別居しておるというか、それぞれ実家と店とに住んだままなんだろう?」


「まぁ……そうだな。

 いずれはポチ夫婦と一緒に屋敷を建てようとは思ってるんだが、黒船を買ったばかりでは流石にな、財布の状況的にもまだまだ先の話って感じだな」


 大江戸では人間の家族とコボルトの家族が一緒に住むことが当たり前となっていて、実家を出て新しい家を建てて住むとなった場合も、当然そのつもりで家を建てることになる訳で……家を建てたならこれまた当然、親父とポチの親父達がそうしたように俺達とポチ達で暮らし始める訳で。


 弟妹達はポチの弟妹達とそうするんだろうし、もし仮にそういう相手がいないのなら親戚を頼って良い相手を探してもらうんだろうし……ネイやシャロンとも既にそうする前提での話し合いが行われていたりする。


「お互い元々の家に住んでいる別居状態にも関わらずネイさんは、わざわざ朝早くから起きてお前の実家に来てくれて、飯の世話だ何だとしてくれていると?」


「まぁ……そうなるな」


「そうして作ってもらった握り飯をだな、そうやって美味そうに……幸せそうに緩んだ笑顔で食っている時点で狼月、お前さんも似たようなもんじゃないかのう」


「ぐ……。

 そ、そんなつもりはなかったんだがな」


「ポチ殿もそんなつもりはなかったんじゃないかのう?

 まぁ、止めろだとか無粋なことを言うつもりは無いがのう、同じ穴のなんとやらだっていう自覚は持った方が良いだろうのう。

 ……まぁー……ワシもいつかはそんな風になるのかもしれんし、その時はワシも気をつけんといかんのう」


 と、そう言ってクロコマは、道場の窓を見やっての遠い目をする。


 その遠い目でもってミケコのことを想っているのか何なのか……なんともクロコマらしくない横顔を見せてくるクロコマに、俺は少しだけ悩んでから……応援の意味を込めた言葉を口にする。


「ま、もしそうなって、家を建てるとなって……一緒に住む人間に心当たりがねぇようなら俺に言えよ。

 弟妹かあるいは親戚か、クロコマに合いそうなのを探しておくからよ」


 コボルトはその小さな体を活かし、人間は大きな体を活かし。

 そうやってお互いを支え合うことが前提となっている大江戸において、クロコマのように生まれがちょいと複雑なコボルトは、一緒に住む相手が中々見つからねぇこともあるという。


 特にクロコマはしばらくの間、都の方に行っていたこともあり、人間の知り合いが少ねぇようで……それを気遣っての俺の言葉にクロコマは、もじもじとし、うつむりたりし……、


「お、おう、頼む」


 と、小さな声で呟いてくる。


 それはなんともクロコマらしくねぇというか、今までに見たことがねぇというか、そんな様子となっていて……笑ったら良いのか、からかったら良いのか、どうしたもんかと頭を悩ませていると……パタパタと聞き慣れた足音が道場に続く廊下から響いてくる。


 その足音のすぐ後に、扉が開かれ、ネイが顔を出し……俺とクロコマを見つけると、弾む声でもって言葉を投げかけてくる。


「シャクシャインに行ってた船が帰ってくるわよ!

 けが人も病人もなしの積荷は満載! あの二人も乗せてきての上首尾に終わったって連絡が入ったわ!

 ポチ達も既に港に向かっているし、アンタ達も汗流して着替えたらさっさと港に向かいなさい!」


 その言葉を受けて俺とクロコマは、お互いの顔を見やって笑い……そうしてからお互いの汚れ具合を認識し、湯だ何だを用意している暇はなさそうだから、さっさと水を被っての大着替えだなと、そんなことを無言で、目線でもって語り合う。


 そうしたなら二人で同時に立ち上がり……俺は握り飯を口の中に押し込み、クロコマはそこらに散らかった符をかき集めてから、井戸へと向かって駆け出すのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回からは新ダンジョンについてになります

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