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ビショビショな猫  作者: ミニト
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 その猫は誰からも愛されませんでした。というのも、猫はお世辞にも見た目が可愛いというものではなく、夏にはダラダラと汗が、その短い毛をぐしょぐしょに塗らし、あまつさえ異臭がし、同族の猫ですら気持ち悪がり、猫に毛づくろいを、してあげようとする猫はいませんでした。

 猫には異常なほど汗をかく不思議な体質だったのです。

 他の猫たちは口々にささやき合い、猫と仲の悪い犬たちなぞ、吠えることも威嚇することもなく気持ちが悪い、変なやつだ、きっとあれは猫のふりをした化物なのだと避けて通るほどです。

そういった理由なので、猫には人間でいう友だちというものはなく、孤独な一匹猫で、友だちというものがどんなものかと思いを膨らませながら、町で親しげに仲良く歩いている猫たちを見るたびに羨ましく思っていました。

 町に星空が浮かぶ日には、古い廃屋の瓦づくりの屋根から空を見上げ、猫は友だちがほしいと、涙で顔をぐしょぐしょにしながら、星空に向かって願いを乞うのでした。

「神様、願い星様。僕には友だちがいないのです。それどころか、猫のみんなに、毛づくろいすらしてもらえません。僕は孤独で、今日は何も食べることができませんでした。でも今日はまだマシです。昨日は人間がオッドアイの白い毛並みの猫のためにあげた、黒い缶に入った柔らかい餌の食べ残しを食べました。白い猫はわざと僕に残したのです。蔑み笑うために。何も食べられない今日よりも死にそうな気持ちでした。でもそれはいいのです。蔑まれてもいいのです。僕はこんな蒸した夏の暑さで、毛がビショビショになり、いつも汗を弾くために、ブルブルと体を震わせています。もし僕が僕を見たら、気持ち悪いと思うでしょう。何せ本当に気持ちが悪いのですから。しかも、今は涙でグシャグシャです。でも、こんな僕でも友だちが、僕を愛してくれる存在が欲しいのです」

 猫はいつものように願いを終えると、目をあけて空をまじまじと見上げ、この星のようにきれいになれたらなぁ、輝く星になれたらと、涙がこぼれました。しかも、今日は蒸すような暑さで、猫には空気も何もかもがぼんやりとしており、ただ星空だけがくっきり見え、いつも以上においおいと、いつも以上に涙を流しました。

ふと、猫が屋根の下を眺めると、こんな草花もない町並みに、小さい光が無数にキラキラと輝いています。それはホタルの光でした。

 この草花もない町中にどうしてホタルがいるのだろうと、猫は訝しがりながらも、光に照らされた町の景色に見とれました。ホタルが放つ光は小さなものでしたが、道を悲しそうに背を曲げて歩く人々や、小さく、害獣と呼ばれ、ドブやゴミの中で生きる動物たちをも優しく照らしていきます。

 屋根の上は決して高くはありませんでしたが、ホタルの光で照らされた地上の生き物はとても小さく、猫にはすべてのものが、ウスバカゲロウに見えました。

 猫はホタルとウスバカゲロウの中にひときわ目立ち、そして美しく羽ばたく蝶を見つけました。

 黄色と桃色の体をした蝶は、ホタルの中を踊るようにくるくると円を描き、空を踊りながら舞うように飛ぶその姿は、美しさという言葉そのものでした。

 猫は時間が止まったかのうように蝶に見とれました。蝶が飛んだ後には体の色と同じ黄色と桃色の鱗粉が、空気にふわりと舞って、ホタルの光に反射し輝く道を作っているかのようです。

 猫は我に返ると急いで蝶々の後を追いかけました。見失うまいと焦り必死で追いかけたので、屋根から地面に飛び降ろうとすれば着地に失敗して体から落ち、屋根から屋根に飛びうつるのにも失敗し家のあちこちに体をぶつけるありさまでしたが、不思議と猫は痛みすら感じませんでした。

 猫は蝶を見失いたくない一心でした。

 そんな猫の事を知りもしない蝶は、星の下を自分は空から落ちてきた星の一部かのように自由気ままに空をスイスイと飛びます。

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