ブタは、両親の過去を知る。
今日は、久しぶりにクロノスに呼び出されたのだ。
最近は、子育てで忙しかったので、何事かなと思うのだった。そんな彼も、31歳となり立派な父親になっていた。クロノスは、ローを自分の書斎へ入れると、座るように促すのであった。
『お父さん。話って、何ですか??』
『ロー、今日は今後について話をしようかと思う。ローは、これから何かしたい事はあるかい??』
『そうですね。今は特に考えていませんでした。まだ、森も探索しきっていないので、その辺からですかね。』
『実は、10歳になると、祝福の儀を行う事になっているんだ。これは、昔は10歳まで生きる事が出来ない子も多かったため、昔からの風習なんだ。
そこで、『神托』を受ける事になるんだよ。それにより、初めて自分自身に備わっている力や加護を知る事が出来るんだ。『鑑定』みたいなものだね。ステータスが分かるんだよ。
私もアイリーンも、それで可能性を見出されて、学校へ行き出会ったからね。来週が誕生日だから、きちんと伝えておかないといけないと思って呼び出したんだ。』
『へー、そんな風習があったんですね。それに、学校があるんですか?』
『ローは、森へ籠ってる事が多かったから、他の子の祝福の儀は見ていなかったね。それに、狩りとか魔法とかは教えたけど、この世界については話していなかったからね。
さっき言った『神託』により、自分自身に合う職業や未来を見据える人が多いんだ。その方が、食べていけるからね。
ただ、別にそれを重要視はしなくてもいいんだよ。能力に関係なく、好きな事をして生きている人もいるから。それが、私達だね。この森で、穏やかに暮らしている。それで、幸せだからさ。
知っていると知らないのでは、また話が変わるんだよ。
もし、夢があり、それに伴う能力があるなら、学校に行くことをお勧めするよ。見分が広がるし、専門の書物も多いからさ。好きな事を専門にするのが幸せな場合もある。
また、近い歳の友達が増えるのも良い事なんだ。刺激を受け、切磋琢磨する事は大人になると中中出来るものではないよ。』
『そうですか。ここでの暮らしが、日々発見があるので、考えた事もなかったです。ちなみ、お父さん達は、何で、この森で暮らす事を選んだのですか?』
『それは、私のせいかな。私とアイリーンは、駆け落ちしてきたんだ。当時の私達は、一緒のパーティで、冒険者として働いていたんだ。そこで、少しばかり有名になり、安定したお金も出来たから結婚を申し込んだんだ。
でもね、アイリーンの両親は、許可してくれなかったんだ。
理由は、私が孤児院育ちで、身分が低いからだったんだ。アイリーンは、特に聖女と呼ばれていたから御両親も期待していて、許可が下りなかったんだ。私も頑張って、賢者とか言われるようになったんだけどね。
その後、アイリーンの方も政略結婚の話が出てきてしまって、一緒に逃げて来たんだよ。』
(母さんが性女なのに、不能と言われる賢者なら、相性が悪いから反対したのかもしれん。孫の顔が見たいのもあるだろう。身分は良く分からないが、まー色んな考えがあるしな。)
『そうなんですか・・・。』
『でもね、ローが生まれ、ジュリアが生まれた此処が気に入っているのも確かなんだ。
迷い込んだ人達を助けたりしていく内に、ちょっとした村になったけどね。
こんなに、穏やかな所は、中々ないんだよ。それも、アイリーンのおかげでもあるんだけど。前に、森で境界を決めていただろ。あそこまでなら、アイリーンが張った結界魔法で、魔物が滅多な事じゃ入らないようになってるんだよ。
でも、ローはまだ若いから、色々な経験をして欲しいのがあるんだ。ローが望むのであれば、このまま此処で暮らしでもいいし、もっと世界を知りたいのであれば、一度見て来るのもいいと思うんだ。』
『それなら、お父さんの言う通り。学校や世界をみてみたいですね。少し気になったのですが、この森は、世界のどの辺なのですか?駆け落ちしたとなると、相当、母さんの故郷から遠いのではないですか?』
(お父さんとは言え、師匠だ。武道を習ってきた時も、夜の街へ先輩が連れて行ってくれた時も、助言に従って損をした事はない。)
彼は、前世の行動に後悔はなかった。
『そうだね。それなら、この地図をあげよう。
本当は、10歳の誕生日に渡そうと思ったけど、学校へ行くなら、また違う物を考えておくよ。』
クロノスは、そう言うと地図を広げるのであった。
『見てごらん。これは、魔法の地図だよ。この赤い点が、私が居る所なんだ。』
『えっ?この赤い点ですか?それじゃあ、この周りは森だけじゃないですか。』
『そうなんだ。ここは、辺境のソゾン大樹海だよ。この森は険しく魔物も強いから追手も入って来ようとはしなくてね。それで、逃げれたんだよ。
それに、住んでみたら食料も薬も豊富で暮らすには何も問題がなかったからね。それとこの森は、少し特殊でね。奥へ入るのは、簡単なんだ。ただ、出る事が難しい森で、死の森とも言われているんだ。』
『それじゃあ、学校も世界も何もないじゃないですか。』
『それは、大丈夫だよ。ここへ逃げ込む前に、違う所へ転移が出来るように仕掛けを作っておいたから。たまに見かけない村人達もいるのは、それを使い故郷へ帰ったり、ここでの素材を売って、調味料とか此処にはない物を買ってきてくれてるんだ。
まっ、今のローの実力なら、時間をかければ普通に森も抜けられると思うよ。』
『そうですか。なら安心しました。その転移の装置は、どこにあるのですか?』
『それなら、10歳になったら、一度街へ行こう。
その時に、その装置の場所も教えるよ。学校へ行く前に、ある程度の世界の常識を学ばないといけないからね。そうだ、あと一つ言い忘れてたよ。後で、その魔法の地図に自分の魔力を込めなさい。そしたら、自分の居場所を示してくれるから。』
『はい。ありがとうございます。後でやってみます。』
私は、魔法の地図を『収納箱』に入れ、クロノスの書斎から出るのであった。そして、また研究室に籠っていた。
彼は、スライム魔法を駆使して、様々な物を濃縮エキスにしていた。
それは、前に捕まえたスッポソもそうだが、マムシに似たマムツ・夏に採取していた蝉の抜け殻など多岐に渡っていた。
彼の『収納箱』には、多くの濃縮エキスが保管されるのであった。また、この村では、お酒があまりない事に嘆く村人のために、アルコールも多く作り出していた。スライム魔法で、アルコールの不純物を『分離』し、果実を『濃縮』したものを混ぜて熟成させたり、思いつくままに実験を繰り返すのであった。
そのため、スライムと一緒に森へ出る事は減り、実験を繰り返す毎日であった。
『ねぇー、たまには森へ行こうよ。僕は最近、この部屋で過ごすのも飽きて来たよ。息抜きに森で狩りをしようよ。』
彼は、それも確かだと思い、その案に乗る事にした。
この時、彼はこの判断が大事になるとは、まだ知らないのであった。