ブタは、友と出会う。
クロノスとアイリーンは、ジュリアの育児に追われていた。私は自然と森で遊ぶようになっていた。それも、狩りや生薬採集も兼ねているので家計的には助かるのだ。
そのため、いつものように探索をしている時であった。この頃になると、未開地を探索する事が多くなり、色々な魔物に遭遇するのであった。
その中でも、目を引いたのが、スライムであった。最初見つけた時は、1人で大騒ぎをしていたものだ。なぜなら、彼が前世でお世話になったローションそのものが生きているからだった。
そんな貴重な出会いから、数日が経ち、私は外でスライムを飼う事にしていた。一緒に何となく過ごすうちに、ある日、声が聞こえて来るのであった。
(ねぇ、聞こえる??僕だよ。)
『テレパスか!?』
私は、声が聞こえる方に目を向けると、飼っているスライムが話しかけてきていた。
『うぉっ。話せるのか!?』
(うん。なんか、君の使い魔になった恩恵か。魔力が上がって魔法も使えるようになったみたい。)
相手が音魔法『テレパス』で話しかけるので、私も音魔法『テレパス』を使用し話した。
(使い魔!?私は、そんな事をしていないが。)
(いつも、ご飯くれるから、僕が君に心を許したせいかな。気が付いたら、使い魔になってたんだよ。)
(そうなのか。でも、私の使い魔とは、響きが悪いな。どうせなら、お前も女王様の使い魔になりたかったであろうに。私では、そうはいくまい。それなら、友になってくれ。私は、どうも村人の同年代に恐れられている気がするのだ。つまり、友達がいない。)
(いいよー。君がそれでいいなら。ロー、これからよろしくね。)
そこから、2人で森を散策するようになっていた。
スライムは、どうやら私の魔法の恩恵を受けているようであった。威力は落ちるものの同じ魔法が使えていた。そして、私もスライムからの恩恵を受けていた。それは、スライム魔法『酸』・『分離』・『濃縮』・『溶液』の四つの魔法が使えるようになっていたのだ。
私は、驚愕し、久しぶりに涙を流していた。こんなに、感動したのは、妹が生まれた時と同じくらいだった。
彼が、感動したのはスライム魔法『溶液』であった。これは、スライム特有の溶液を出す事ができ、それは、まさに天然のローションといっていいのであった。
彼は、他のスライム魔法の有用性を、まだ知らない。
『なぁ、そういえば、スライムって、あんまり見ないけど、仲間とかいないのか?』
『そうだね。僕らは弱っちぃから、すぐに食べられちゃうんだよ。僕は、ローのおかげで他のスライムより強くは慣れたけど。』
スライムは、音魔法『共鳴』を使用し、普通の会話も可能となっていた。
『そっか。悲しい事だな。』
私は、スライムが如何に希少であるか悟るのであった。彼は、この森がどういう所かを知らない。
そして、スライムが外界では、そこら中に存在する事も。
『まぁー、僕たちの世界は、弱肉強食だからね。しょうがないんだよ。』
スライムは、知識にも恩恵が受けているのか、とても魔物には見えないほど理知的であった。
この頃になると、連携もとれ、狩りも普段より効率が良くなっていた。
以前、捕獲した事のあるグラトニーベアだけでなく、アイアンバイソン、緋色鳥などの魔物も楽に仕留める事ができるようになった。
特に、アイアンバイソンの場合は、スライム魔法『酸』が役に立ったのだ。
アイアンバイソンは、攻撃が単調であり、そこまでの危険性はない。その皮膚の硬さから、素材として人気があった。Aランクの討伐対象の魔物であり、初めのうちはローも色んな魔法を試すが、簡単に弾かれてしまった。そのため、急所である目や関節部位にも攻撃を行うが、何度か傷をつけても、相手の再生能力がそれを上回っていた。仕留めようにも決め手がなかったのだ。
その時、スライムが自身のスライム魔法『酸』によりアイアンバイソンの皮膚を溶かすのであった。そのおかげで、皮膚から露見した所にトドメの一撃を入れるのであった。
アイアンバイソンを、村へ運ぶと、とても驚かれただけでなく、素材も売れるとの事で村人からは感謝されたのだ。
そして、残った肉は分配するのであった。その肉は、食べた事がないほど柔らかくジューシーであった。スライムのおかげなので、一部を食べさせに行くと、余りの美味しさに、溶けてしまったのだ。元々、溶けたような身体であるが。
それから、村の人からも森に出かけると、期待の眼差しをされるのである。どうやら、持って帰る獲物が、どれも珍しい魔物であり、村ではちょっとした英雄視されるのであった。
彼は、その事には、気が付いていなかった。元々、幼い時から森か研究室に籠っていたので、村の様子には、目が向かないのだ。
スライムに危険性がない事から度々、空間魔法『収納箱』に入ってもらい帰宅する事が多くなったのだ。いつも通り研究室に、スライムを置き、狩りで仕留めて使わない素材をスライム魔法『酸』で処理してもらっていた。ご褒美に一番おいしい所を料理しあげるのであった。
そのため、野生の魔物と違い、人を襲うという考えなかった。むしろ、一緒に過ごしていくうちに、どんどん理知的になっていくのだった。
翌日も、スライムと森へ行こうと、研究室へ向かうと、そこには数本の瓶が出来ていた。
スライムに話を聞くと、一つずつ説明するのであった。
『ローが、いつもくれる素材とか森で薬草を食べていて、そのままにするのは勿体ないから、使えそうな物を濃縮しておいたよ。左から回復薬・毒消し薬・麻痺消し薬・ダシ汁・岩塩だよ。』
『凄いな。ちょっと、見ていいか。無属性魔法『鑑定』。』
鑑定結果をみて、驚くのであった。どうやら、不純物もスライム魔法『分離』により取っているので、最高級の物が出来上がっていた。折角なので、その効果を試す事にしたのだ。
研究室には、集めた生薬がいっぱいあり、その中には、ちゃんと処理をしないと毒性や麻痺性が残る物があったのだ。
半夏
サトイモ科の根茎の外皮を除去し乾燥させたもの。色が白く硬く綺麗な物が良品。
そのまま使うと、中毒が起こり舌咽の痺れ・灼熱感などの症状が起き、酷い場合は呼吸困難・窒息をおこすことがある。
そのため、通常3週間ほど冷水に浸し、その後煮て処理したものを用いる。
痰・めまい・咳・嘔吐に用いる。
使用上の注意は、処理を忘れるべからず。
附子
キンポウゲ科の塊根を乾燥したもの。大きく、暗褐色で表面が艶がるものが良品。
毒性が著しく、使用には注意が必要。使用前に、加圧・加熱処理が必須。それでも、生のものから1/2000の毒性があるので、使用量は過多にしない事とする。
中毒症状としては、四肢のしびれ・動機・脈の乱れ・意識障害がある。
神経痛・痛み・麻痺・冷えなどに用いる。
この二つであった。
どちらも、まだ未処理の物を持っているので、それに先ほどの毒消し薬と麻痺消し薬を混合し漬けてみる事にした。それを、無属性魔法『鑑定』により観察を続けるのであった。
すると、漬けてから数秒で効果が現れた。鑑定結果により、どちらも無毒化されているのだった。
『おぉー凄いな。これなら、処理も簡単だな。バリバリ。』
私は、前世から少しM気質である。それゆえ、自分の身体で実験を始めたのであった。
彼は、自身が極度のMである事を知らない。
数分も経つと、四肢はしびれ始め、意識が朦朧とするのであった。そのため、先ほどの毒消し薬と麻痺消し薬を直ぐに服用した。
(ふぅー、附子はこのような症状がでるのか。なかなか、面白い。しかし、この薬の効果は、凄いな。)
私は、実験結果に満足するのであった。
『スライムさ。他にも作れそうな物はあるのか。』
『素材によるけど、大体できるよ。それは、全部スライム魔法で作ったから。初めに、身体に取り込んだ素材を『酸』で溶かし不純物を『分離』して、使える所を『濃縮』。そして、最後に『溶液』で希釈したんだよ。』
『それなら、ここにある生薬も全部同じことが出来るな。これなら、部屋もかさ張らなくていいな。また、生薬も採取も出来るし。』
私は、兼ねてから溜ま過ぎた生薬をどうするか悩んでいた。それが、今解決した事に、喜びに満ちていた。
彼は、この発見がとんでもない事だとは知らない。