アンコール まだ、夢の途中
奏たちの「その後」のひとつの形。
これは誰もが望むハッピーエンドの形。
そんな気持ちで書き上げました。
「音宮中学校合唱部のアンコールです!」
アナウンサーが高らかに言う。
ああ、私たちは、本当にとれたんだ。
金賞が、とれたんだ。
♪~いつの間にか、歩いてきた
君と僕の青春の1ページ
きっと、忘れられない、そうだよね
「あっ───!」
なんだ、夢か。
私は、音宮中学校合唱部、1年の星永奏。
朝、夏の日差しに飛び起きて、窓を開け放つ。
「んーっ!!」
大きくひと伸びして、服を着る。
かばんの中にコンクールの楽譜をいれて、ご飯をかきこんで、顔を洗って、学校に行く。
この半年で、髪はちょっとだけ伸びた。
「七歌ちゃん、おはよう!」
「奏ちゃん、おはよう」
途中で、みんなと合流してから学校に行く。
そんないつも通りの毎日が、本当に幸せに思える。
「発声します!」
「はい」
響先輩が一層熱を込めて言った。
そうだ、次もまたあるんだから。
「次も頑張らないとね」
「はい!!」
元気よく飛び上がって立ち上がる。
一通りの発声をしてから、新たな楽譜を手にとって、自らの音を響かせていく。
♪~大きな虹の彼方
僕らは見つけたんだ
まだ、夢の途中
入部してからの5カ月間、色んなことがあった。廃部になりかけて、凛先輩と心音先輩のわかだまりがとけて、七歌ちゃんや律歌先輩が入部して、私がソプラノ、響先輩がアルトに移動して、絃先輩は思いをぶつけて、琴先輩はそれをずっと見守って自分の思いを伝えてくれて…
「私だって歌いたい!」
「私は知ってるよ」
「コンクール、出る?」
いっぱいいっぱいぶつかった。笑った。
それが今、私たちが奏でる今の合唱に…全部活きてる。かけがえのないこの日々が全部。
♪~始まるときは、知らない気持ち
始まりたくて、仕方がなくて
やっと見つけた歌があった
思い切り駆け抜けたその日々に
私たちはどんな名前をつけようか?
虹はどこにあるんだろう
今なら、何にも負けずに言える。
私は合唱が大好き。この8人が大好き。なによりもこの9人で歌えることが、大好き!!
♪~大きな虹の彼方
僕らはまだ見つけてない
大きな輝きの先に
見えるものはなんなんだろう?
精一杯探してみよう
きっとみんなが待ってるから
「私、響に憧れてた」
「奇跡、起こせるかな?」
「音宮中学校合唱部───!」
夏休みになって、もっともっと練習した。
まだ、まだ歌いたい。もっともっと歌いたい。ずっと奏でていたい。このまま、時が過ぎなければいいのに……
♪~青空よりも高く青く
夕日よりもきらきら輝いて
まだまだ続く道の先には
時には辛い雨が降り注ぎ
虹よりも大きく架かって
僕らになにが待ち受ける?
それでも時が巡っていくのはどうしてなんだろう?音宮中学校合唱部は、いつまでも此処にあり続けるのに。
♪~大きな虹の彼方
僕らの駆けた日々はきっと青春
一ページ目をそっと開いたら
大きな希望の先に
見えた輝きはきっと歌なんだね
精一杯手を伸ばそう
その先にきっと虹がかかるから
大きな虹の彼方
諦めないことを僕は知ったよ
夢の鼓動が大きく高鳴って
奇跡は、起こったね
♢♢♢
「これで、合唱部の練習を終わります
ありがとうございました!!」
「「ありがとうございました!」」
「さようなら!」
「「さようなら!」」
ミーティングも終わって、私たちは廊下に出た。まだ、お昼の13時。太陽が照りつけきて、学校の中は蒸し暑い。
「ねえ…みんな」
琴先輩が、そっと言葉を発した。
「私たちはもうすぐ、引退になる。部員は9人から、5人になって、来年も廃部の危機にさらされることになる。だから───ちゃんと、決めてほしい。合唱部を存続させるのか……ここで、9人で綺麗に終わりにするのか。それを決めるのは私たちじゃない。でもね…奏ちゃんがいなかったら、きっと今年で廃部になってた」
それは、重みのある先輩としての言葉だった。きっともう、これからを考えて行かなくちゃいけないのかな…なんて。
でも、私たちの答えは、たったひとつで。
「私は、続けたい」
律歌先輩が真っ先に発した。
「七歌と歌えて、みんなと歌えて、私とっても楽しい。来年、もしも部活が無くなってしまうとしても───最後まで、私はやりたい」
「私もです。凛ちゃんたちがいなくなっても、ここで過ごせる時間は、紛れもない宝物だから」
心音先輩が続ける。音葉先輩もぱっと笑顔を作って言った。
「合唱って、楽しいから。来年入ってくる1年生にも、私はそれを伝えたい……です!えへへ」
「私も、お姉ちゃんと、先輩と、奏ちゃんと……こうやって歌えて、すごく楽しかったです。だから、もっともっと歌ってたい、先輩がいなくなっても、先輩の存在は残り続けるから」
最後に、先輩は私のほうを向いた。
「奏ちゃんは?」「奏は?」「どう?」
そんな風に、聞かれた気がした。…ずっと一緒にいると、なにも言わなくても伝わってくるみたいだった。
それがどうしようもなく、心地良くて。
だから私は…思いっきり笑った。太陽より明るい笑みを浮かべて笑った。
「───やりたい!だってだって、私は合唱が大好きだから!奇跡が起こらなくても、廃部になったとしても………私は、どこまでも広がる歌を信じたい。この「音宮中合唱部」で歌いたい」
その言葉で、3年生の先輩が私を見る。
「音宮中合唱部」、その言葉を先輩はまるで、宝物みたいにして、なぞるように私たちに語りかける。
「あの日、奏ちゃんがいなかったら。きっと音宮中合唱部は、ここまで来られなかった」
絃先輩が、私を見つめる。
「3年生は、もう引退してる部がほとんどだから、きっと、こんなに頑張れなかった」
琴先輩が、ふわりと茶色い髪を揺らす。
「虹は、まだまだ大きく架けられるね」
響先輩が、笑う。
手を伸ばして、あの日のように。
「まだ、夢の途中」
開きっぱなしだった部室の扉を閉める。その壁には、一枚の新しい紙が貼られている。
部室に飾られた額縁。その中に入った賞状は、きらきらと輝いていた。
『地区コンクール』
『音宮中学校合唱部』
その右側にある文字は───。
『金賞』
ありがとうございました。
これは、本編というよりは「番外編」というのが作者の認識です。あくまでも「if」の形
続編はもしかしたらやるかもしれません
その時にはまたお会いしましょう(*^^*)




