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70話 レヴィン・ウォーカー

「レヴィンです。宜しくね。猫サマ、リリサマ♪」


 そういって私達の前に現れたのは……女装したオカマさんだった。


 結局あのあと、コロネを休ませることには成功したのだが――休んだ事で疲れが一気にきたのか、風邪で寝込む事になってしまった。

 一日寝込んで大分よくはなったが、とりあえず安静にとアルファーに見張られている。

 急ぎ解決しなければいけない魔素溜の問題だけでも、私たちで解決しようと、リリと私で行動することになったのだが……

 コロネが信用できる人物と私たちの案内役につけたのが、このオカマさん、レヴィンさんなのである。


 顔はなかなか美人なのだが、野太い声とたくましい身体が男だということを物語っている。


 うん。この世界、エルフの国王といい、女装趣味の人はわりと結構いるのだろうか。


 とりあえず鑑定してみれば


□□□□


[種族]竜人


[名前]レヴィン・ウォーカー

[職業]隠密


[レベル]95


□□□□


 と、でる。


 私たちからすればレベル95というのは激弱だが、この世界ではプレイヤーを除けば最強の部類だろう。

 てか、竜人なのか。コロネの知り合いだからエルフなのかと思っていた。

 しかも耳は人間の耳だ。魔道具か何かでごまかしているのだろうか?


「ああ、宜しく。こちらの地理はよくわからないから頼りにさせてもらうよ」


 と、手を差し出せば


「任せてください♪手とり足取り説明するわ」


 と、両手でぎゅっと握り返され、軽くウインクされ、そのまま腕を組まれる。

 ……うん。アニメとかではよくこういうキャラいるけど……リアルで遭遇するとどう対応していいかわからないもんだね……。

 どう対応していいかわからずに、私がなすがままにされていると


「ベタベタするのよくない!」


 私にスリスリと頬をすりつけてくるレヴィンにリリがぷくぅっと頬を膨らませた。


「あら?リリちゃん嫉妬してるの!?きゃー可愛いっ、じゃあリリちゃんにも!!」


 と、リリに抱きつこうとして


「ヤダっ!!」


 と、軽くリリにかわされる。


 うん、リリちゃんに嫌われたな。このオカマさん。

 ……というか、何故コロネはこれを信用しているのだろうか……。


 △▲△▲△▲△▲△▲


「猫様、すでに三人に後をつけられています。

 魔道具で空からも偵察されているようです」


 リリが魔素を吸う予定の農地に向かう途中。

 少し休憩しようと、喫茶店によったところでレヴィンがべたべたくっつきながら耳元で囁いた。


 私が慌ててレヴィンにパーティーを申し込めば、コロネから聞いていたのか、あっさりとパーティーに入る。


『つけられてるって……全然わからないけど。

 これでも殺気とか読み取るのは自信があるのに』


『一応相手はプロですから。それに殺意はありませんよ。

 むしろ、猫様に取り入りたくてスキを伺っているのですから、殺気は読み取れないでしょう。

 ほら、窓辺に座ってコーヒーを頼んでいるいる女性がいますよね?

 あれも尾行の一人です。鑑定してみてください』


 私の問いに、レヴィンはオカマ口調をやめ、パーティーチャットを普通に返す。

 うん、どうやらこの人普通にまともな人らしい。

 オカマはベタベタするための偽装なのだろうか?

 私がレヴィンに言われて、女性を鑑定してみれば


□□□□


[種族]人間


[名前]ソニカ・ファルス

[職業]シーフ


[レベル]12


□□□□


 と、でる。

 うん、もろシーフですね。どう見ても尾行です。ありがとうございます。


『本当だ。でも取り入るってどういことだ?』


『はい。いまの貴族はプレイヤーに取り入っていた連中ですから。

 かなり非道な事をしていますからね。コロネ様がお許しにならないでしょう。

 新たな王がつけば、同時に粛清されると思います。


 そうなる前に、コロネ様にも顔がきく、猫様とリリ様に取り入って、今の地位を失わないようにしたくて必死なのですよ』


『うっわ。なんだか一気に貴族の争いに巻き込まれました的展開だな。

 苦手なんだよな、そいういの』


 と、私。うん、本当勘弁してほしい。頭の悪い私に高度な貴族間の争い(キリッ)とか言われてもこまる。


 ……まぁ、コロネが人間領を自分に任せてほしいと言ったのはこういう事含めだったんだろうな。

 私とリリをこういったドロドロした争いに参加させたくなかったのだろう。

 いままでだって、コロネが、そういったエルフや人間など私やリリに近づいてこようとする人たちから守っていてくれてたのは知っている。

 だからこそ、人間領に私たちを連れてきたくなかったんだろう。


『出来うる限りサポートしますのでお任せください。

 ちなみにこれから向かう農地に、貴族の手のものの少女が一人スタンバッテますので』


『ん?その少女が何をする気なんだ?』


『筋書きではこうですね。

 少女が困っている所を、猫様に助けてもらい、そのお礼に偶然を装って貴族連中が猫様にお礼をする手はずになっています』


 レヴィンの言葉に私はげんなりした。

 なんだよ人の好意を最初から利用する気満々かよ。


『そんなのリリ心読めばわかる!』


 リリちゃんがドヤ顔で言うが


『あちらもなかなか手がこんでいますよ?

 少女は何も事情を知らされていませんから、本当に困っているだけですし。

 少女が親の治療のためにとりにいく花は『月光花』

 ドラゴン種が酔う効果のある花です。

 その花を親の治療のために必要といって、猫様とリリ様をつれてとりにいかせるつもりです。

 月光花の花畑に一度いけば、リリ様の心を読み取る能力も格段に落ちるでしょうね。


 それにリリ様、いままで尾行にも気づいていませんでしたよね?

 流石にリリ様が本気になれば心を読まれてしまいますが

 こういった雑踏の中に紛れるくらいならそれなりにごまかす術はいくらでもあるのですよ?』


 と、レヴィン。その言葉にリリがぐぬぬという表情になり


『人間……汚い。前コロネ言ってた人間狡猾の意味 なんとなくわかった』


 と、ぼそっと呟く。



『ええ、そうですね。

 コロネ様が今回騎士団ではなく、私一人をつけたのもそのためですよ。

 いまの騎士団はプレイヤー連中に尻尾を振っていたものばかりですから。

 殺されはしませんが……コロネ様がそれなりの事をするでしょう。


 ですから猫様達に取り入ろうと必死になるはずです』


 言って、ウィンクしてリリを挑発してる振りをする。


『……と、いうわけでして、一度あいつらを巻きたいと思います。

 昼間は目立ちすぎるので、昼間は寝ておき

 夜に一気に竜化したリリ様が、魔素をすっていく方向で行きたいのですがよろしいでしょうか?』


 レヴィンの問いに、私とリリは頷くのだった。




 △▲△▲△▲△▲△▲


『にしても、夜行動するなら最初からそうすればよかったんじゃないか?』


 宿屋の一室で休みながら、私は窓辺に佇むレヴィンにパーティーチャットで尋ねた。

 すでに尾行は瞬間移動を駆使して、まいている。

 夜に備えてリリはもうスヤスヤと昼寝をしているのだが……。


『一応、猫様にもリリ様にも、ご自分の立場を自覚していただこうと思いまして。

 実際体験してみなければ、油断していたでしょう?

 コロネ様は女、子供には甘いですから、あまり注意してなかったのでは?』


 にっこにこ笑顔で言うレヴィンに、私はうっとなる。

 確かに、ああして実際尾行されていなければ、自分なら気配でわかると思っていたかもしれない。


 ……っていうか。


『コロネは自分が女ということまでレヴィンには言ってあるのか?』

 

 私の答えにレヴィンはにっこり笑い


『私は竜人ですから。魂の色で性別はわかります。

 プレイヤーが肉体と魂が別の性別の事があるのを報告したのも私ですから。

 コロネ様が言わなくてもわかりますよ?』


 うん。コロネがレヴィンが優秀だと言っていた理由がなんとなくわかった。

 この人優秀だわ。


『……それにしても猫様。

 プレイヤーの方は総じて、ちょっと騙されたくらいでこの世界は酷いと言い出すのは何ででしょうね?。

 ご自分の世界がどれほどご立派だったかは知りませんが、人間である以上、騙し騙されは普通だと思うのですけれど。

 被害者顔して、力をふるって弱者を痛めつけるのは、日本という世界では普通なのでしょうか?

 猫様はどうなのでしょうかね?』


 言って、鋭い視線をこちらに向ける。

 確かに神威といいマナフェアスといい、最初はいい人キャラだったのに、ちょっと気に食わなかったからといって豹変したから、その可能性を心配するのはわかる。


 にしても、これは喧嘩を売られてると受け取っていいのだろうか。


『つまり、私もそうなると言いたいわけか?』


『ちょっと騙されたくらいで、キレられたら困るのでお守りいたしますよ、と言いたいわけです』


『……その言葉にキレる可能性は?』


『これくらいでキレるなら、遅かれ早かれ、世界を滅ぼすでしょうね。

 それならそれで、コロネ様をあなたから引き離さないといけませんから。

 私を殺すような人間なら貴方を崇拝しているコロネ様も目が覚めるでしょう』


と、鋭い視線でいうレヴィン。格好はオカマのくせになぜか凄みがある。

 ってか何故こうもいきなり敵対心バリバリなのだろう?意味わからん。


『なんだか随分信用されてないな』


 私が肩をすくめながらいうと、レヴィンは妖艶に笑い


『それはもう、些細な理由で豹変していくプレイヤーを何人もみていますからね。

 基本力をもったプレイヤーほど信用できません。


 貴方は他のプレイヤーのようにならないと言い切れる自信がありますか?』


 いたずらっ子のような笑を浮かべて聞くレヴィンの問いに私は答えにつまる。

 いや、だって自分の中でずっと自問自答していることだし。

 ……正直、自分の中でも、狂う要素はあると思っている。


 もし、リリとコロネや守護天使達を救うために、水知らずの他人の命を犠牲を払うことになるという選択があるなら、迷うことなく仲間の方を選ぶだろう。

 私の最善は世界にとっては決して最善とはいえない。


『さぁ、ならないように気を付けているつもりだけど、正直わからないな。

 リリとコロネ達の命と見知らぬ大勢の人の命と比べてどっちをとると言われたら迷わずリリとコロネ達をとるし。

 仲間のためなら、世界を敵にまわすこともあるかもしれない』


 私の答えにレヴィンはしばし沈黙すると――


『0点ですね』


 と、点数をつける。

 うん、まぁそりゃそうですよね。

 身内にだけ甘いって結局他のプレイヤーとかわらないし。


『自ら、弱点を告白してしまっては足元を見られますよ?猫様。


 駆け引きにおいて正直すぎて致命的です。

 ですが、私個人的には猫様の答えは百点満点ですけどね』


 と、今までの険しい顔から一転しにっこりと微笑んだ。


『へ?』


『私もコロネ様優先ですから。世界など二の次ですよ。

 貴方の答えを聞けて安心しました。

 失礼な事ばかり言って申し訳ありませんでした。猫様』


 言ってレヴィンはひざまずく。


『改めてお願いしますね♪猫まっしぐら様』


 言って可愛い笑顔でウィンクしてみせるのだった。

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