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5話 猫まっしぐら

「お前、何者だ!?

 なぜ俺の邪魔をする!?」


 大事な事だったのか、二度同じ事を聞き、プレイヤー君がこちらを指さす。


 何故邪魔をするって言われても、ゲームのレイド戦で、いつもコロネを守ってきたせいで、無条件でコロネは守るもの!と身体が勝手に反応してしまっただけなのだ。

 

 実際は私は無関係だ。

 たんなり通りすがりでした。 

 と、本当の事を言っていいものか私は迷う。


「……は、そうか!?

 お前が邪神に召喚されたという、女神に逆らうプレイヤーか!?」


 青年が一人納得し、よくわからない答えを導き出す。


 ……はい?

 なにそのRPGよくありそうな、お約束設定。

 オタク時代の私だったら泣いて喜びそうな設定だが、どうやら私は正義の味方ではなく邪神に呼ばれた悪い方のプレイヤー設定らしい。

 なんだよ、うちの可愛いリリちゃんが邪神なわけないじゃないか。

 いや……ないよね?

 うん、あるわけがない。カワイイは正義。私のカンがそう告げている!

 とりあえず、日本で遭遇したら、絶対近づきたくないタイプの青年だが……話を聞いてみる必要はあるだろう。


「……一体、君は何の話をしてるんだ?

 私はたまたま、ここを通りかかっただけだ。

 見知った人物が戦っていたから守ったにすぎない

 君の方こそ、神の結界の守り人であるエルフを殺しているようだが。

 これはどういう事なのか説明してくれないだろうか?」


 私の言葉に、青年は


「はっ、図星だったから焦っているようだな。 

 だが、邪悪なプレイヤーとわかれば、話ははやい! 

 俺の切り札を使う時がきたようだな!」


 一人テンションがあがっていく。

 え、質問の仕方悪かった?何でその返事が返ってくるのか。

 会話成り立ってない。

 意味わからんよ。

 もしかして、この子、話聞かないタイプ?

 やだわー、一人結論だして、自分がだした結論以外の答えは認めないタイプとか苦手だわー。

 ゲームだったら愛想笑いしつつ、適当にあしらって逃げ出すのだが、ここで逃げ出してしまったら、コロネや他のエルフたちの命が危ない。


 ちなみに他のエルフ達は状況が掴めていないのか、遠巻きにしながら、こちらの様子を伺っている。


 青年が青黒い色のオーブを取り出し、邪悪な笑を浮かべた。

 

 どうやら、あれがプレイヤー君の言う、切り札らしい。


「この俺、神威様に喧嘩を売った事を後悔するがいい……」


 オーブから禍々しい気が溢れ出し、周囲の木々がざわめき出す。


「こ、これはっ!?」「一体何が!?」

 周りのエルフ達も、異変を察したのだろう、驚きの声をあげ、あとずさった。


 ゴォォォォォ

 闇がオーブを中心に巨大な闇がうずまき周りの木々をなぎ倒し始める。

 なんかいかにも巨大な何かを呼び出しますという雰囲気だ。


 そして――


「さぁ、いで……」


 プレイヤー君が邪悪な笑を浮かべ高らかにオーブを天に掲げようとし……




 そして



 ……。


 ………。





 しーーーーーん





 広がる静寂。


 ……。


 ………。


「…………へ?」



 身構え、目をつぶっていたエルフの一人がすっ飛んきょんな声をあげた。

 エルフの前には、間抜けな笑を浮かべたまま、オーブ片手に化石化した、プレイヤー君の姿があったのだ。

 ポカーンという表情のエルフ達。


 

 私が背後に【瞬間移動】して、【石化】の呪文で石化させたのだ。


 当たり前である。

 

 なんで切り札使うとか宣言しちゃったものを使わせてもらえると思ってるのかね。

 させるわけないじゃないですか。

 この子プレイヤー対プレイヤーのバトルPVPとか、やった事ないのだろう。

 PVPプレイヤーだったら、あんな間抜けな事するはずないんだけど。

 なかなか見ている分には楽しい子だが、絶対関わりたくないタイプの子だ。

 若気の至という言葉を全力で再現している。

 これでプレイヤーの中身が私より年上だったら泣くよ。


 とりあえず【石化】はその気になればいつでも解除できるので、プレイヤー君には固まってて貰う事にする。

 この子の相手、正直しんどい。


 ……それにしても、なんとか片付いたのかな?

 

 などと思っていると


「あの、

 た、助けて頂きありがとうございます。

 そ、それで、あの……

 プレイヤーをあれほど見事に倒せるとは

 貴方はどういったお方でしょうか……?」


 遠巻きに見ていた、気の弱そうなエルフがオズオズと近づいてきた。

 他のエルフは、まだ警戒しているのか、適度な距離を保ちつつ、近づいてこない。


 私は名を名乗ろうとして、はっとする。

 本名は橘楓だが、ゲーム上の名前は『猫まっしぐら』などというふざけたプレイヤー名なのである。

 

 いや、私だって最初はまともな名前にしようとしたんだよ?

 好きなゲームやアニメのキャラクターとかカッコよさそうな名前とか。

 でも、ネットゲームでよくある 他のプレイヤーが名付けた名前は、使えない縛りで、使いたい名前が全部ダメだったのだ。

 何を名付けても


 『すでにこの名前は他のユーザーが使っています』


 という、メッセージに頭にきて、たまたまTVでやっていた猫のCMを参考に適当につけたのがこの名前である。

 やばい、ゲームの中では結構ふざけた名前のプレイヤーなんてたくさんいたので気にならないが、リアル(?)でこの名前って酷くない?

 別の名前を名乗るべきか?

 などと考えていると……


「おおっ!???

 そのお姿はっ!???

 間違いない!!『猫まっしぐら』様ではありませんか!???」


 と、復活したコロネが感極まった表情で叫んだのだ。


 え?何?

 コロネもゲームの時の事覚えてるの?リリと同じタイプ?




 ってか、名前いいやがったコイツ……




 こうして、私の、カッコイイ偽名を名乗ろうという目論見は、「即死のコロネ」の一言で、簡単に崩れさったのだった。




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