68話 脳筋宣言
「あ、コロネおかえりー」
連日のお菓子屋めぐりを終え、私とリリは寝るために軽装に着替えた所で疲れた顔のコロネとアルファーが部屋に戻ってきた。
時刻はもう22時くらい。
コロネはそのままボスンとベットに倒れ込む。
「なんつーか、大丈夫か?」
本当はもっと、猫様と一緒の部屋なんて!?と抵抗されるのかと思ったが、どうやら疲れには勝てなかったらしい。
グロッキー状態でそのままぴくりとも動かなくなる。
まぁ、いろいろ過密スケジュールだったしね。ここ三日くらい徹夜で、プレイヤー連中の後処理やってたし。
「ええ、すみません……思っていた以上に問題が山積みで……身体がおいつきません」
と、横たわったまま答える。
「コロネ様、流石にあれは無理をしすぎかと……いくら【並行思念】のスキルが使えるからといって、
同時に4人から話を聞いて、全てに適切な処置を返答していれば精神の消耗が激しいのは仕方ないかと」
と、アルファーが帝国兵士用の鎧を脱ぎながら呆れたように言う。
「ちょ、そんな事してたのか!?」
「はい。熊のぬいぐるみを4体置いて、それに報告をさせ、自分はまた別の人物に指示を出すという事をしていました」
と、アルファー。
「なんつーか、なかなかシュールな図だなそれ」
「……そうでもしないと間に合わないといいますか。
ここまで酷い状態だと、正直申し上げまして何から手を付けていいのかすらわかりません」
「そんなに酷いのか?」
「魔素溜になってしまった地域が多すぎて……街道のコースから、魔素溜の村に囲まれてしまって孤立してしまった街やらを至急対策を講じないといけません。
ああ、それに農作物も酷い有様になっておりまして。
無理やり魔力で土地を肥えさせ農作物を育てたせいで、農地が魔素溜になりかけていたり……このまま放置すれば全域が……
それに奴隷制度などと勝手なものも出来上がっていまして……こちらも至急手を打たないと……」
言いつつ、ウトウトしだす。
うん。これはもう一回休ませた方がいいだろう。
状態異常無効の腕輪をはずし
『睡眠』
魔法をかければ、あっさりコロネは寝てしまう。
コロネが寝たのを確認し、コロネ用のベットの天蓋のカーテンをしめてやる。
私はいつもの鎧姿になったアルファーの方を向き
「所でアルファーも寝てないはずだけど、大丈夫なのか?」尋ねた。
「守護天使は睡眠は必要ありません。
深夜1時に疲労が自動的にリセットされます」
「なんつーか、守護天使はかなりゲーム時代のシステム引き継いでいるんだな」
「そうですね。どうせならNPCを殺す命令も不可だった縛りも残してくれれば嬉しかったのですが」
と、ため息をつく。
うん。望まない殺戮は嫌だもんね……って、でも……。
「どうかなさいましたか?」
考え込んだ私にアルファーが問う。
「うーーん。この世界ってどういう世界なんだろうなぁって。
中途半端にシステム残したり、かといってゲームとは別の事も多々あったり。
守護天使だってこっちの世界にいないわけだろ?
なのにシステムを残したり残さなかったりしてちゃんとシステム周りをいじってたりするし。
いないならシステム全部そのまま残っててもいい気がするんだけど。
ちゃんとシステム周りをいじっているということは、守護天使もこの世界を探せばいるのか?」
「……どうでしょうか。
もしくは……こうやって召喚されてこの世界に我々が来る事も神々は想定済みだった可能性も」
私はアルファーの言葉にはっとする。
……ああ、そうか。
その可能性も十分あるのか。
もしかして、この召喚されてプレイヤーがこちらの世界に来る事も考慮してシステムをいじっているなら……
神々は召喚を歓迎しているのだろうか?
もしくは、召喚させるために、私達の世界でVRMMOのゲームを始めたのだろうか?
「だとすると、目的はなんだろう?」
「神々のお考えになることは下々の私たちには理解りかねます」
と、アルファーはあっさり思考を破棄する。
うん、コロネと違ってこういう議論はあまり好きではないらしい。
「……それに」
「……それに?」
「猫様、私は考える事は得意ではありません
頭より身体が先に動くタイプです」
きりっと真顔でアルファーが告げる。
……うん。その自ら脳筋宣言するスタイル嫌いじゃないわ。
「ネコ そろそろ寝ようよー」
私とアルファーの会話が一区切りついたのを見計らってリリがあくびをしながら言ってくる。
「では、私は窓辺で待機していますので」
「うん。アルファーも無理しないようにな。
それじゃあおやすみ」
「はい。よき夢を」
言ってアルファーは微笑んだ。
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「ああああ!?寝過ごしました!!
3時間ほど仮眠をとるつもりだったのに!?」
翌朝。コロネが慌てた様子で、起き上がる。
まだ時刻は日本時間でいえば朝の4時くらいだ。
バタバタと部屋を出ていこうとするコロネに
「ちょっとおちつけ!」
と、襟首を引っ張った。
「ネ、猫さま!?」
「こんな時間じゃ、まだ他の文官達だって来てないだろう?一体仕事ってなにするんだよ」
「指示書をつくらなければなりません!
今日の朝には渡し、私は現地視察に視察に行って、そのあと魔素を軽減する魔道具をつくらないと!?」
「コロネ様、焦るのはわかりますが……一日くらい休憩なさっては?
ろくに食事すらしてないでしょう?」
「しかし、他の事は置いておくにしても、農地の魔素溜化は深刻です。
いままで魔素溜にならなかったのが不思議なくらいです!
これは至急手を打たなければ、帝国領に住める地がなくなってしまいます!
今日中に全ての地に魔力石の使用を禁止する伝令をし、魔素を中和する魔道具を配布しないといけません!」
「何で農地が魔素溜化なんてしてるんだ?」
私の問いにコロネは、ため息をついて
「プレイヤー達が、農地にダンジョン産の魔力石をくだいたものを肥料として農民に渡していたのです。
確かにこの世界の農作物は魔力を大量に与えれば、短時間でよく育ちます。
一見、賢い方法に見えますが、そのような方法を何年も続けていれば、土地が魔素を含みはじめてしまうのです。
実際、ここ最近は魔力過多で、農作物があまり育たなくなっていたようです。
それで焦ったプレイヤー達が更に土地に魔石をくだいたものを大量に投入したようで……。
魔素濃度が一気に跳ね上がってしまいました。
本来なら、そういった方法は禁止していたはずなのですが」
「よく事情のわかってないプレイヤーが推奨しちゃったと」
「はい。
過去に進言した人物はいたらしいのですが……。
推奨派の意見を鵜呑みにしたプレイヤーに殺されてしまったと聞いています。
魔石投入を推し進めたせいで城内の土地も魔素溜になりかけてる場所があります。
花々の飼料にまで魔力石を使っていたようですね。
土地が魔素溜になりつつあるせいで、農民や領民の体にも健康被害が出ている状態でして。
国中に病気が蔓延してしまっています」
なんつーか、やってたプレイヤー達は、内政チート!知恵と発想で能作物育てちゃう俺すげぇぇぇくらいの気でやってたんだろうけど。
結局長い目でみれば、現地に迷惑しかかけてなかったというわけか。
尻拭いする羽目になる現地の人も大変だな本当。
「コロネ。魔素溜 魔素がたまちゃて固まりができる事?」
ねぼけまなこでリリがコロネに問う。
「はい、魔素が一度貯まると、そこから新たな魔素溜が発生し、モンスターが発生します。
こうなってしまっては、人間が住める地ではなくな……」
言いかけたコロネに
「それならリリ 浄化できる」
と、あっけらかんと答えるリリ。
「………はい?」
リリの言葉に、コロネが思いっきり間の抜けた声をあげるのだった。
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「もう、ダンジョン化してたり、長い年月をかけて魔素溜が育ったところは無理。
最近できたところならリリ、食べちゃう事できる」
リリがあくびをしながら普通の事のように答える。
「い、いや、でもリリ様。魔素溜ですよ……?
そのようなものを体内に取り込んでリリ様は大丈夫なのでしょうか?」
「うん。できたばかりの魔素溜は美味しい!
カルネル山でもよく出来たばかりの魔素溜たべてた!
でも土地に定着しちゃってるのは無理
食べようとしても食べられなかった。
精霊化しちゃってて、干渉できない」
ああ、そういえばリリ、山での生活の時は魔素食べてたっていってたっけ。
「このお城でもちょっと魔素たまってるところあったからちょっと食べた!
そのあとネコとお菓子食べるからちょっとだけにしておいたけど。
人間体型だとそんなに食べられない」
「魔素溜も魔道具もなしで判別できるのですか!?」
「うん、リリ視る事できる!」
「さ、流石リリ様……規格外…で………」
と、コロネは引きつった笑を浮かべるのだった。




