62話 神様の恩恵
「猫様、死霊都市に向かう前に一つお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
これから別行動ということで話がついた所でレイスリーネが深刻な表情で言ってきた。
「うん?何だ?」
「一発マナフェアスを殴らせていただけないでしょうか?」
と、真剣な顔で言われてしまう。
あー、そりゃ、意に沿わない命令受けてて鬱憤もたまってたんだろう。
一発くらい殴りたい気持ちもわかる。
「私たちからもお願いします」
と、アルファーとファルティナも頭を垂れる。
「……いや、別にそれは構わないんだけど……。
今レイスリーネのレベル913だから殴ったら一撃で死ぬんじゃないかな……」
「……913ですか!?
猫様はレベルが913もあるのでしょうか!?」
驚くレイスリーネに、何やら魔道具で自分のレベルの確認をはじめる他二名。
うん、そういえば言ってなかったっけ。
「強いとは感じていましたが……まさかレベルが900台とは」
言ってアルファーが自らの剣を召喚すれば、私たちが会った時とは比べ物にならないくらい強そうな剣に変化していた。
基本、守護天使はドロップした武器・防具は装備できないが、自らの装備がレベルアップとともに進化するのだ。
「……これなら……一撃で殺れますね」
何やら怪しげな笑を浮かべるアルファー。
うん。アルファーもやる気満々らしい。
まぁ……ちょっと前の私なら止めたかもしれないが……、既にコロネのカタキをとる気満々の私に止める権利はないわけで。
それにアルファーの記憶もみちゃったせいで止めづらい。
マナフェアスは殺されても仕方ない事をやってしまっているし。
ああ……でもどうなんだろう。
こうやって認めてるうちに自分も感覚おかしくなっていくのかなぁ。
法で裁くならともかく私刑だし……。
でもなぁ……。
「わかった……。3人に任せるけど、でも最終的に処罰を下すのは死霊都市の人間達に任せるから。
裁判の前に殺すのはよくない。ちゃんと生き返らせておいてくれ」
「はっ!!ありがとうございます!!
……これであの子達の無念も少しだけ晴らす事ができます」
言ってレイスリーネが少し悲しげな顔をする。
……うん。かなりひどい事してたもんねあいつ。
てか、やっぱりレイスリーネ達も嫌なことをされてしまったのだろうか。
私の思ったことが思いっきり顔にでてしまったのか、レイスリーネが私の顔を確認し
「猫様。断っておきますが、私達は手出しされてませんので」
と、ジト目で睨まれてしまう。
「あ、いや、別にそんな事考えてたわけじゃ!?」
「それならいいのですが。
それと猫様にも最初に断っておきますが、そういった性関係の命令は守護天使は一切聞くことができません
ご了承ください」
「え?そうなのか?」
「はい。ゲーム時の縛りがそのまま、こちらの世界に適応されています。
そういった命令は聞くことができません。
そうですね。実際試してもらったほうがはやいかと。
猫様私の胸を触ってみてください」
言ってレイスリーネが自分を指さす。
ああ、そういうことか。ゲーム上でも、そういえばそういう行為は禁止で、やろうとすると、触れなくなるんだっけか。
「わかった」
私は言われた通り、遠慮なく胸に手を伸ばし――
むにゅ。
もろに胸が触れてしまう。
っていうか、どうせ弾かれるだろうと思いっきりつかんだせいで、鷲掴み状態だ。
ゲームでは同性でも胸触るとか無理だったのに、何故かこっちの世界では触れてしまった。
うん。柔らかいし、でかいね。
って、触れちゃったよどうしよう。
……。
………。
…………。
一瞬訪れる静寂。そして――
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レイスリーネが乙女な悲鳴をあげて、慌てて私の手を払いのけて、うずくまる。
「な、ななななな!?なんで触れるんですかっ!???」
顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけるレイスリーネちゃん。
やだ。可愛い。気の強そうな女性の涙目顔ってそそるよね。
私、中身女だけど。
にしても、なんで触れるのか、私の方が聞きたい。
「い、いや、悪い。弾かれると思って思いっきりいってしまった」
「そ、そそそそいういう問題じゃなくて!?何故触れるのでしょうか!?
本来なら男性は触れないは……」
言いかけて、レイスリーネがはっとなる。
「……もしかして、猫様、魂は女性ですか……?」
レイスリーネの問いに、私はコクりと頷くのだった。
「いや、なんだか本当にごめん。悪かった」
私が謝ると、レイスリーネが涙目になりながら、
「い、いえ、触れと言ったのは私です……それに女性の方ならなんとか」
「猫様、気になさらないでください。
よく確認しなかったレイスリーネが悪いのです」
と、ファルティナ。レイスリーネがむぅっとふてくされた顔でファルティナを睨んでいるが、ファルティナは気にした様子はない。
ちなみに……リリとコロネのおせんべい会になぜかアルファーも参加し、三人でおせんべいを食べていた。
どうやら会話に参加しずらかったらしい。
うん。なぜうちの男性陣はヘタレばかりなのだろう。
ってか、私を女性陣に含めると、よく考えたら女性率高いパーティーだな。うん。
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「それでは猫様。明日は早いですが、それまではゆっくりおやすみになってください」
と、にっこり微笑んで別室に行こうとするコロネの首根っこを私はつかんだ。
「……って、何、ちゃっかり別室に行こうとしてるんだお前は」
ちなみに守護天使達は私刑が終わったら即時に行動するらしい。
「猫様!無理です!猫様と同室など緊張して眠れませんっ!!」
首根っこつかまれた状態でじたばたするコロネ。
私はコロネから状態異常完全無効の効果のついてるマントと腕輪を取り上げると
『睡眠』
と、眠りの魔法をかける。
「ね、こ……さ……」
不意打ちを食らって、そのまま昏倒するコロネ。レベル100差ではいくら魔法防御が高くても、私の魔法は防げないだろう。
レベル補正恐ろしい。
うん。これでよし。
私はそのまま抱きかかえてコロネをベットで寝かせた。
「ネコ、ここまでする必要あるの?」
と、不思議そうに聞いてくるリリ。
「何ていうか、不安が消えないんだよな。何故か一人にしちゃいけない気がする。
特にこの国だと。
コロネが精神世界に連れて行かれた時は何も感じなかったのになぁ」
「そういえば、ネコ、カンが外れたことない言ってたよね?
うーーーん」
と、リリが唸りながら私の顔を覗き込んでくる。
「リリ?」
「前から思ってた ネコ 本当に異世界人?」
「……へ?何で?」
「うーん。言葉でうまく言えない でもネコちょっとだけ 他のプレイヤーと魂が違う
神威とマナフェアスとかと違って……神様の恩恵感じる」
「恩恵?」
「あったかい気。だから予知できるのかな?」
「うーん。どうだろう?たんなる偶然で、今回のコロネの件も思い込みかもしれないし」
「そっかー。不思議な話」
と、リリが首をかしげた。
「とにかく、そろそろ寝るぞリリ。
明日は早いし……コロネに拷問したやつらへの復讐もあるからな」
私の言葉にリリがコクりと頷いた。
「コロネの敵絶対とる!ギッタンギッタンのギッチョンギッチョンにする!!」
と、リリがどこで覚えたかわからない言葉をはっしつつ、ガッツポーズをとるのだった。




