57話 錬金術師
「猫さんがまともな人で助かりましたよ。いやマジで」
会議室の片隅で。
sionがため息まじりに私にそう言った。
リリにアルファーの記憶を見せてもらったあと、とりあえず、sionにも話を聞いておこうと、砦の会議室の隅っこでちょこんと座っていた彼に話しかけたのだ。
彼は本当にこの世界に来てすぐさまマナフェアスに捕まったらしい。
彼の主力ペットだったサキュバスはアルファーに瞬殺され、結局マナフェアスに従う他なかったとか。
やったことは許せる事ではないが……こればかりは仕方ないだろう。
彼がやったことは単なる荷物(魔物)を運ぶという仕事だったにすぎないわけだし。
話によればこの世界に召喚されてまだ1ヶ月もたってないらしい。
ある意味私と同じ境遇なのだ。
「なんていうか、お互い災難だったな」
コーヒー片手に私がいうとsionはため息をついて
「ええ、マジっす。こんな事になるなら、ちゃんと彼女とのデートに行っておけばよかった。
ああああ、理子ちゃんマジ怒ってるだろうなぁ……」
と、リア充爆発なセリフを吐くsion。
うん、リア充爆ぜろ。
でも普通に日本の世界の話をできるプレイヤーの存在はちょっと嬉しいかもしれない。
「もう本当どうなることかと思いましたよ
こっちに来てるプレイヤーほとんどが掲示板に晒されてた痛い人ばっかりだったし」
「え?そうなのか?」
「知らないですか?
ああ、猫さんはアテナサーバーの人でしたもんね。
魔王とか言っていい気になってる奴ら、全員ガイアサーバーの痛い人リストの常連さんですよ。
見なくなったから、てっきり普段の行いが悪すぎて垢BANされたんじゃないかって言われてたくらいの」
「うわー。そうなんだ。
通りでキチガイしかいないと思った。
日本人ってこんな奴ばっかだったっけ?とマジ頭悩ませてた自分が馬鹿みたいだ」
「あいつら特別ですねぇ。
そもそもNPCを殺せるバグがあったんですけど、バグができるということは認められてる。
これはロールプレイ(キリッ)とかいって、バグ利用して、NPCからレアアイテム奪い取って、垢BAN警告受けてたやつらばっかですし
他にもプレイヤーの邪魔したりして、運営から警告受けたって、Twitterで愚痴って叩かれてたり」
うん。想像以上に痛い奴ばかりだった。
にしても、やってることが笑えないレベルで酷すぎるので許す気など全然ないが。
「これからマナフェアスを倒しにいくんですか?」
尋ねるsionに私は頷いた。
「もちろん放っておけないからな。
あのまま放置してたら世界が滅びそうだし」
「じゃあ、気を付けてくださいね。あいつまだ他に二人守護天使いますし。
アルファーほどじゃないけど強いっすよ」
「了解。てかsionはこれからどうするんだ?
特に行くところがないならここに居れるように頼むけど」
「んーー。猫さんは世界が平和になったらやっぱり元の世界に帰る方法を探すんですか?」
「ああ。まぁそのつもり。
この世界がなんで現実化したのかわからないからな。
もしゲームをプレイしてた人を生贄にして、システムから解放されたとかだったらやばいだろ?」
「うわ。それマジ勘弁してほしいかも。
友達もいっぱいプレイしてるのに!?
んーそうだな。じゃあしばらくここでご厄介になろうかな?
自分はもうちょっと情勢が平和になったら、元に戻る方法探しにいってみますよ。
猫さんなら俺が手伝う必要なんてないだろうし」
「了解。あ、そうだ。そういえばsionって錬金術のスキルあるけど作れるのか?」
「んー。無理っすね。スキル熟練度は100だけど材料揃えてシステムの作成ボタンおしても反応しないし。
たぶん一から蒸留器とか使って本当につくらないとできないと思うんですよ。
でも俺、ガイアサーバーの人間だから、作り方なんてわからないし」
「じゃあ、砦の人に作り方教わって、中級ポーション作っておいてくれないか?
中級くらいまでならここの魔導士達も作れるらしいし」
「おー、面白そうっすね!いつかは最高級ポーションもつくってみたいなぁ。
こんな事になるならアテナサーバーでやっておけばよかった」
「ん?作ってくれるか?
自分作り方知ってるけど?」
「え!?マジっすか?
でも猫さん、錬金術師じゃないですよね?」
「ああ、でも友達が作ってるときよく手伝ったから。
ゴタゴタが片付いたら作り方もおしえるよ。
それまでに腕あげといてくれると助かるかな」
「了解っす!なんかこの世界にきてやっと楽しくなってきましたよ。
ついでに誰かに魔法での戦い方を教えてくれるように頼んでおいてくれませんかね?
自分の身くらい守れるようにならないと……」
「うん。そうだな。じゃあコロネに話を通しておくよ」
「まじっすか!?猫さんマジ天使!俺覚えているうちはついていくっす!」
「って次の日には忘れてる奴のセリフだぞそれ」
「えーひどいなぁ。俺そんな薄情じゃないし」
なんとなくゲーム感覚の懐かしいやり取りに私はつい微笑んでしまう。
そんな中、ふと気づく。リリがちょっとふてくされた表情になっていることに。
「ん?どうしたリリ?」
私が問うと、リリは首を横にふって
「なんでもない リリ コロネの方いってくる」
言って、リリはそそくさとコロネの方に行ってしまう。
「なんか俺まずいことしちゃいましたかね?」
sionが気まずそうにポリポリと頭をかいた。
「いや、気にしなくていい。ちょっと機嫌が悪かっただけだから。
じゃあ、そこで待っててくれ。コロネに話を聞いてくる」
言って私はリリを追いかけるのだった。
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「リリ、どうしたんだいきなり?」
コロネにぴったりひっつく形でむくれているリリに私は尋ねた。
リリは相変わらずご機嫌斜めの顔をしている。
「……なんでもない。リリ、コロネの側にいたいだけ」
そんな様子を見かねたのかコロネはやれやれとため息をついて、騎士達との会話を切り上げ、私の方に向きをかえた。
「リリ様。猫様を困らせてはいけませんよ。
猫様は久しぶりに同郷の方と話せて嬉しかっただけです。
そんな顔をされたら話にくくなってしまわれるでしょう?」
コロネの言葉に私は合点がいった。ああ、なるほど。
リリちゃんは妬いてるのか。
「だって……ネコ元の世界に帰るって想像したら寂しいんだもん」
言って思いっきりむくれるのだった。




