55話 プレイヤーsion
「お前達か。我主がテイムしたモンスターを一掃したのは」
魔力察知の反応したその場所につけば――そこにいたのは大きな天使の羽をつけた男と、何故か全力で土下座しているプレイヤーの姿だった。
すぐさま鑑定のスキルを使えば一人はsion 【テイマー】【錬金術】の職業もちのプレイヤーに、もう一人はギルド【✝暗黒天使✝】の守護天使アルファー。
二人ともレベル200だ。
ちなみに守護天使とはギルドマスターになると手に入れる事のできる、戦ってくれる護衛NPCみたいなもので、同行するマスターと同レベルになる。
つまり、この天使の持ち主はレベルが200ということだろう。
――にしても、プレイヤーの方がいきなり土下座とかどういうことだし?
私が疑問符を浮かべていると
「ちょ!?お前なに、カッコつけて偉そうにしてんの!?
さっきの魔法みたでしょ!?敵わないから!!
いくら守護天使だって絶対に敵わないから!!
お前大人しく土下座しとけ!!」
プレイヤー sionが、守護天使に怒鳴りつける。
「五月蝿い。貴様は我主ではない。
貴様の命令を聞く必要はない」
と、ギルド「✝暗黒天使✝」の守護天使アルファーがsionを睨みつける。
どうやらこのプレイヤーの守護天使ではないらしい。
ってことは誰の守護天使なんだ?
『この守護天使は恐らく『死霊都市ネクロミロス』のマナフェアスのものでしょう。
人間領のうち西部。旧ヴァナウス王国を占拠して死霊都市の帝王を名乗っているプレイヤーです。
……sionというプレイヤーについては……申し訳ありませんが私もわかりません』
コロネがまるで私の疑問に答えるかのように念話で説明する。
コロネがわからないプレイヤーということは最近こちらに来たプレイヤーなのだろうか?
私の考えなどお構いなしに
守護天使アルファーは剣をこちらに構え、戦闘する体制にはいる。
――うん。なかなかスキのない構えだ。
もし同レベルならそこそこ手こずった相手だろう。
でもレベル差がありすぎて正直雑魚だけど。
そんな事を考えていると――
「わーーっ!!
やめて!アルファーマジやめて!!
ねぇ、見てわからない!?この人たちマジ強いから!!
てか、絶対この人猫まっしぐらだから!!
絶対敵わないから!!お願い巻き添えくらうから戦うのやめて!!」
sionが叫ぶ。
……ん?いま思いっきり私の名前言われたよね?
この人、私会ったことあったっけ?
記憶にまったくないんですけど。
「って、私、君と会ったことあったっけ?」
私がsionに視線を向けると――
「ひぃっ、よ、呼び捨てにして申し訳ありませんでしたっ!!
かつて猫様が参加したPVPに参加したことがありまして!!
ほ、ほら、猫様があまりにも強すぎて、以後『瞬間移動』と『罠』のスキル使用禁止がPVPで主流になったあのPVPですよ!
その時にPVPに参加してて猫様にぼこ殴りにされた名もなきテイマーです!!」
と、思いっきり土下座される。
……うん。
なんとなーくそんな感じがしてたんだけど……。
PVPで瞬間移動と罠が使用禁止になったのってやっぱり私のせいだったのかぁぁぁぁぁ!!
改めていわれるとショックだわ。
「ネコ……やっぱりゲームでも廃人だった」
「流石猫様……」
sionの言葉に思いっきりリリとコロネにジト目で睨まれる。
う、うん。
あれはちょっとやりすぎたかと反省している。
私が強かったというより罠スキルがえげつなさすぎた。
戦闘範囲の決まったフィールドでやる戦いは罠使いに有利すぎたのだ。
罠使いが誰もいなかったせいでチート扱いされてたし。
「で、そのsionが何でここにいるんだ?
あのモンスターの大群はお前の仕業か?」
私の問いにsionがめいっぱい首をふり
「あああ、あれは頼まれてというか…無理やり脅されてここに自分が運んだだけですっ!!
そこの守護天使に運ばないと殺すといわれてっ!!」
と、守護天使を指さす。
アルファーはさして気にした風もなく
「その通りだ。主の命令に従ったにすぎない。
それよりも、さっさとかかってこい。時間の無駄だ」
と、アルファーがやたら上から目線で挑発してくる。
うん。何だこいつ。嫌に好戦的っていうかなんというか。
『ねぇ、ネコ この子 殺されたがってる
マスターの命令が嫌みたい 悪いことばかりさせられて すごく嫌
可哀想だから リリ 殺してあげていい?』
と、念話でリリが話しかけてくる。
『そうなの?』
『うん 守護天使 マスターの命令絶対
逆らえない だから従ってる
でも嫌だからはやく死にたい――レベル低いから考えてる事伝わってくる』
『システムに縛られて逆らえないというわけですか――哀れではありますが――』
『コロネ、何とかしてやることはできないよね?やっぱり』
私の問いにコロネは頷いて
『はい。それができるなら真っ先に自分を何とかしています』
と、ため息まじりにコロネが答える。
ですよねー。コロネの変態モードを何とかするほうが先ですよねー。
にしても、まったく手がないわけでもない。
私は一瞬にしてアルファーの背後にまわると
『石化』
アルファーを一瞬で石化させた。驚く間もなく彼は石化したのだ。
うん。これでよし。
あとはマナフェアスをとっ捕まえた時にアルファーを解放させればいいだけだ。
『おお 流石ネコ! その手があった!』
リリが感嘆の声をあげ
「ひぃぃぃぃぃ!?」
sionが情けない悲鳴をあげる。
――まぁ、sionは念話の会話は聞こえてないわけだから、私がブチギレて石化させた風に見えなくもないのだろう。
『てか、リリ。この子の言ってる事本当なわけ?』
『うん。本当。最近召喚で間違って召喚されて、マナフェアスに捕まってこき使われてる。
マナフィスすごい嫌な奴。
二人の記憶見せてあげられるけど…視る?』
リリのセリフに私はしばし考え――
『うーん。ムカツキそうだから今はやめとく』
とりあえず、まずはこの子なんとかするほうが先だろうし
「君、sionって言ったっけ?とりあえず一緒に来てもらおうか?」
私がにっこり微笑むと――何故かsionは泡をふいて卒倒した。
――うん。何故だ。失礼な。




