54話 ペットと下僕
トルネリアの砦の砦にモンスターの大群が押し寄せている。
そう、報告を受けたのは、エルフの大神殿にいるときだった。
私とリリとコロネは、リュートに転移の魔方陣で転移してもらい、【瞬間移動】でトルネリアの砦に向かったのだが……。
何故か、リリとコロネに思いっきり距離を引き離された。
私が砦に【瞬間移動】で到着するころには、すでにコロネの魔法の一撃で、モンスターが全滅した後だったのだ。
たぶんだが、【瞬間移動】は目視できる場所まで移動できる。
そして視力は種族によって違う。
つまる所、視力の高い竜族のリリ、そしてその次にエルフのコロネ、そして一番視力が弱い私の順になってしまったのだ。
うおーー。ゲームプレイするときもっと種族真面目に選んでおけばよかった!マジで。
人間選んでいままで損しかしてない気がするんだけど!?
私は砦の屋根に飛び降りると、辺を見回す。
ものの見事にモンスター一匹残っていない。
「おーー。
ついたら既にモンスター片付いてるし。
二人ともはやすぎじゃね?」
私がぽつりと感想を漏らすと、近くにいたリリとコロネが私の存在に気づいて嬉しそうに寄ってくる。
「ネコー!聞いて!リリ一番に到着した!!」
「おーえらいえらい」
私の側にぴょんと飛んできたリリの頭を私はわしゃわしゃ撫でてやる。
リリはえへへーと嬉しそうな顔をして――
「あ、あの……すみません」
ちょっと離れた所にいた騎士らしき人物に声をかけられて振り返った。
そちらを見やれば騎士姿の男が二人に、その騎士に守られるような形で佇む茶髪の美少女。
この子がリュートが言っていたラスティア王国の姫君だろうか?
鑑定したところ女性がフランシスカ。
もう一人の騎士はアベルというらしい。
騎士アベルはその国の挨拶なのだろうか、胸の前で手を交互にし、頭を下げると
「助けていただき、ありがとうございました。
あの大量のモンスターを一瞬で倒すとは……
あなたたちは一体どういったお方でしょうか?」
私が答えるよりはやく、アベルの問いに、コロネがニコリと微笑むと
「ああ、すみません。
名乗りもせず申し訳ありませんでした」
コロネは仰々しく挨拶をすると、私に手を差し伸べ
「こちらが我が主、猫様です」と、紹介する。
私がどうもと頭を下げると、それに続き
「そのペットと」
「下僕です」
と、リリとコロネが二人揃ってとんでもない自己紹介をした。
……。
………。
…………。
流れる気まずい沈黙。
………っておい。
何だその紹介は。
案の定。
「しょ、少女がペットですか……」
ドン引きした感じでアベルが姫の前に立ち、姫も恐れをなしたのかアベルの後ろに隠れる。
はい。どう見ても変態扱いです。
うーわーひかれたわー。絶対姫に変態認定されてるわー。
「おまえらっ!?
何誤解与えるような自己紹介してんだよ!?」
私の抗議に
「?
リリ、ネコの従魔だからペットであってるよ?」
と、あどけない顔で返すリリに
「いえ、何となくリリ様の自己紹介につられてつい本音を」
と、コロネ。
「くっそー。お前らわざとだろ!?そんなに人を変態にしたいのか!?」
「何をおっしゃいます!猫まっしぐら様!このエルフの大賢者と呼ばれたコロネ・ファンバード。
あなた様を尊敬こそすれ、変態扱いなどと恐れ多い!!
そのような扱いをするものがいたら、私が滅してみせましょう!!」
と、いつの間にか集まっていた他の兵士たちにもまるで説明するかのように、コロネが流暢な演説をしはじめる。
――おぉぉい!?
何、名前言っちゃってるの!?
もろ目立ちゃってるじゃないか!?
コロネの演説に、「あのエルフの大賢者を従えてるなんて!?」「あのお方は!?」などのひそひそ声が聞こえてくる。
ちょ!?変態とは別の意味で今度は悪目立ちしてるじゃないか!?
『コロネお前何、名前いいふらしてんだよ!?
こういうのって隠すんじゃないのか!?
お前、そもそも死んでる事になってるんだろ!?』
私が念話でコロネに詰め寄るが
『猫様、どの道名前などすぐ知れ渡る事でしょう。
こういう事は下手に隠すより、先に名が知れ渡ってしまったほうが、かえって虫除けになります。
私の実体験です。むしろ世界に発信すべきです』
真顔でコロネが言い返してくる。
……ああ、コロネが言うならなんとなくそんなものなのかな……と一瞬納得しかけるが
ダメだ。これは変態の方のコロネだ。信じちゃいけない。
『本当は気分が高陽してその場のノリで口走っただけじゃないのか……?』
私がジト目で問うと――コロネが視線を宙に漂わせる。
やっぱりか!!
このポンコツめ!!
私がコロネに何か言おうとしたその時
『ネコ、コロネ、ふざけるのそこまで。
はやくしないと、このモンスター召喚したプレイヤー にげちゃう』
と、私とコロネの間にリリが割って入る。
『リリ、プレイヤーの場所わかるのか?』
『うん リリ感じる プレイヤー あの山の方にいる。
ひとりはプレイヤー ……もう一人は……わからない。
気はプレイヤーに似てる でももう少し 神様に近い』
『神様に近い気ですか……。
何者でしょう?レベルはわかりますか?』
『うーん。リリ、レベルはわからない。
リリがわかるのは魔力察知じゃないから』
今度は私が魔力察知してみるが――いた。山脈の方にレベル200が二人。
どうやらプレイヤーで間違いないようだ。
『レベル200が二人だな。行ってみよう』
「あ、あの……?」
急に無言で真顔になったわたしたちに何かを察したのだろう、先程の姫を護衛していた騎士アベルが何か話しかけてくる。
「申し訳ありません。話はまた後ほど。
すぐ戻りますので」
コロネが微笑んで言うその時には――私とリリは瞬間移動で飛び立っていた。
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