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52話 トルネリアの砦 【一章終】

「ぷはぁ!!」


 私は敵の自爆攻撃が収まるとカエサルの死体を持ち上げた。

 視界の開けたその先にはすでにセギュウムの姿はなく、神殿の景色が広がるばかり。


「二人とも平気ー?」

 

 私がシールドを張ったので、カエサルの重みで死ぬということはないはずだが、二人ともいまだ床にひれ伏したままだ。


「驚きました……まさか死体をこのように扱うとは……」


 コロネが床に伏したまま驚きの声をあげる。

 そう――。私はカエサルの無敵鱗を盾がわりにしたのだ。

 まったくのダメージ0とはいかなかったが、ほとんどの攻撃をカエサルの鱗が弾いてくれたので、私たち3人ともほぼ無傷である。


「流石 ネコ 日本人! もったいないの精神!」


 リリが合ってるんだか合ってないんだか、よくわからない感想を述べる。

 う、うーん、なんかちょっと違う気もしなくもないが、リリ相手なので突っ込んでも仕方ない。


≪魔獣セギュウムを倒しました≫


≪あなたたたちが最初のチャレンジ成功者です≫


≪ドロップ10倍の特典が付与されます≫



 システムメッセージがボス討伐の完了を告げた。


 おおおお!?初チャレンジクリアだとそんな特典ついたのか!?

 そんなの全然知らなかったよ。


 メッセージの終了とともに、魔獣セギュウムがいたその場所に宝箱が現れ――そしてその前にテオドールが現れる。


『ありがとう――。冒険者達よ。


 これでやっと私も――眠りにつける

 死んでいった者たちも――やっと報われる』


 そう言って、テオドールは微笑むと――姿が掻き消えた。


 コロネを見やれば何とも言い難い表情をしているが――


「コロネ、リリみたいにテオドールに転移の巻物をつかってみるか?」


 私の問いにコロネは はっと我にかえり


「いえ、やめておきましょう。

 こうしてイベントとして作動している以上、そんな事をすればどんな影響がでるかわかりません。


 ……それに、彼の肉体は既に滅んでいます。

 システムから解放されれば、肉体を追って魂も消滅するだけです」


「――そうか」


 私はそれ以上は言わずに、宝箱に視線を落とした。

 コロネがそう判断したのならきっとそれが正解なのだろう。


「宝箱、鑑定の巻物あるかな?」


 リリがひょいっと宝箱をあけ、中に入っていたものは。


【瞬間移動】の巻物×3 【鑑定】の巻物×3 【殺気】の巻物×3 

【硬質化】の巻物×3 【魔力察知1】の巻物×2 【並行思念1】の巻物×1



 うおおおお!?すごい何この夢のラインナップ。

 ヤバイ。リリとコロネに最低限覚えさせたかったものが全部あるとか!!

 【硬質化】を二人に覚えさせれば、防御面の問題も完璧克服だ。


「これはまた凄いですね」


 コロネが覗き込みながら感嘆の声をもらす。


「リリ、硬質化覚えたい!!」


 と、ニコニコ顔で巻物を取り出した。


「……問題は、果たしてプレイヤーではない。私たちが巻物を使えるか、ですが」


 コロネの言葉にリリと私が固まる。

 う、うん。確かにその可能性もなきにしもあらずだけど、魔法が覚えられたのだから使えるはず!


「迷っても仕方ない。とりあえず使ってみよう」


 言って、私はリリとコロネに【瞬間移動】の巻物を渡した。




 巻物は――結論から言うと使えた。

 

 早速瞬間移動をリリとコロネが使用してみたのだが、リリは上手に使えたものの、コロネは出現場所をうまく調整できず、空中に出現してしまい、顔から落ちてしまったのだが……。

 うん。痛そう

 結局、コロネが瞬間移動の練習をしたいということなので、そのまま休憩になった。



 △▲△▲△▲


「もう、鑑定の書を手に入れたとは……」


 別室で控えていたリュート王子に鑑定の書を渡すと、何故か呆れたような顔をされた。


「そもそもチャレンジは制限時間があるからな。そんなに時間はかからない。

 とりあえず一個は手に入れたけど、あと何回かチャレンジしてみるつもりだ。


 王子はどうする?個人的に鑑定のスキルは欲しいと思うか?

 欲しいなら王子の分もとってくるけど」


 私の問いにリュートは優しく微笑んで


「いえ、お気持ちだけで結構です。

 レベルを上げていただいた上に、スキルまでいただくのは流石に……」


「いや。遠慮は困る。これが終わったら、自分たちは人間の領土に行くと思うし。

 プレイヤー対策のために、リュートにはそれなりのスキルを覚えて貰わないと」


「……ああ、なるほど。

 そうですね、どうも偵察の話ではトルネリアの砦付近で不穏な動きがあるとのことですし……」


「トルネリアの砦って、確かエルディアの森と人間の領土の境目にある砦だよな?」


 そう。そこはゲーム上でも行けたので知っている。魔導士達の住む砦だ。


「はい。今トルネリアの砦には、プレイヤーの求婚から逃れたラスティア王国の姫君が匿われているとの事なのですが……。

 それがプレイヤーの逆鱗に触れたようです。

 テイマーであるプレイヤーが魔の森で大量の魔物を調教していると報告を受けました。

 どうもそのプレイヤーの部下達が何かこそこそと嗅ぎ回っているようなのです」


「うは。結婚断られ腹いせに、砦責めまでするつもりなのか。そいつ」


「まだ噂の段階ですが……。トルネリアの砦がプレイヤーに落ちれば、エルフも人事ではなくなってきます。

 トルネリアの砦はエルフと人間との協定で、決して手を出さないということになっていますので。

 あそこには多数のエルフも派遣していますから……いま全員避難させるべきか、会議で話し合ってる所です」


「うーーん。じゃあスキル書堀より、そっちをまず優先すべきかな」


「流石に、この二、三日で大きく事態が動くということはないかと思いますが……」


 リュートが言いかけたその時。


「猫様。大変です!」


 慌てた様子のコロネとリリが瞬間移動で私の前に現れる。


「な、どうした?」


「偵察に送っていた密偵から緊急の連絡がはいりました。

 トルネリアの砦に大量の魔物が進軍しています!

 すでに砦のすぐ近くまできているようです!!」


「え!?まさか!?まだ魔の森にいるはずでは……っ!!

 魔の森からは海を超えなければこれないはず!!」


 コロネの言葉にリュートが身を乗り出す。


「レヴィンからの連絡なので間違いありません。彼は優秀ですから。

 彼の話では、たった一日で急に魔物が近くの山脈に出現したらしいとの事です」


「何か転移させる手段があるということか……?

 とにかく放ってはおけないな。リュート王子、残りのスキル書は置いていくから使ってくれ」


 言って、コロネとリリに使って余った分のスキル書を渡すと私はそのまま立ち上がる。


「コロネ、助けに行くけど、何か問題はあるか?」


「……いえ、問題ありません。私からもお願いします」


「リリも行く!砦まで瞬間移動で競争!」


 あ、遊びじゃないのよリリちゃん。

 やたら張り切っているリリちゃんに一抹の不安を覚えるが、とりあえず放ってはおけない。


「よーっし!それじゃあそろそろプレイヤー討伐に行くぞ!

 いい加減、好き勝手し放題にこちらも我慢の限界だったし。

 きっちりがっちりうちのコロネに手を出したことを死ぬほど後悔させてやる」


「うん!コロネのカタキうつ!!コロネの死は無駄にしない!!」


 と、リリ。何やらわけのわからないリリの考えるカッコイイポーズ(?)を決める。

 ……うん。そういえば最近は夜寝る前に、私と一緒に漫画読んでたわ。

 きっとそれに影響されたのだろう。

 順調に、中二病なところまで親がわりの私に似つつある。

 

 ……うん。どうしよう。そんなところまで似なくてもいいのだけど。


「いや、その……一応生きています……」


 困ったように、リリにコロネが抗議の声をあげるが


「こういうのは雰囲気が大事!」


 あっさり却下された。


 こうして、私達はリュートに転移させてもらい、エルフの森を抜け、トルネリアの砦に向かうのだった。


 そう、異界の女神に召喚されたプレイヤー達が好き勝手しているであろう人間領へと――。







 ―― 第一章 完 ――

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