51話 7つのオーブ
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」
醜く禍々しい外観の超巨大カエル――魔獣セギュウムが咆哮をあげた。
これが合図だった。
私は念話の思考ブロックを解除し、そのままリリとコロネにつなげる。
まずは、私がセギュウムを引きつける。
その間にリリとコロネがオーブの破壊を!
私の思考を読み、リリとコロネも動きだす。
私はそれよりはやく瞬間移動でセギュウムの前にワープすると、
【殺気】のスキルを発動させた。
このスキルを使えば、敵のターゲットがほぼ自分にむいてくれる。
まぁ、殺気スキルを使っていても、リリやコロネがセギュウムを攻撃してしまえば、ターゲットがすぐに攻撃してしまった人に移ってしまうのだが。
私の殺気をあびたセギュウムは、あからさまにターゲットを私に向けた。
うし、これでよし。
私は【死神】の武器の鎌をとりだすと、瞬間移動でカエルの背後にまわりそのまま、セギュウムに振り下ろす…が。
カキィィン!!
鎌が弾かれる衝撃と共にダメージが表示され……与えたダメージは0。
うん。知ってた。オーブ壊さないとだめなんだよね。
でもあれじゃん?的があれば当ててみたくなるのが人情ってもんじゃん?
私はセギュウムの攻撃をさけつつ、適度な距離を保つ。
とりあえず他の二人がオーブを壊すのを待たないと。
コロネよりかなり速く、リリが階段上のオーブに到着し、鍵爪で殴りかかる……が。
かきぃぃん!!
思いっきり弾かれる。リリはダメージが見えないらしく、ダメージは表示されない。
オーブは傷一つなくその色を変えながら禍々とそこに存在していた。
――壊れない!?
リリの焦りがこちらにも伝わってくる。
オーブの色!!
私が思考でリリに伝える。
そう、こういうギミックの場合、オーブの色が関係してくることが多い。
先ほどから点滅しながら7色に色を変えているのはおそらく属性。
リリの場合、物理だから白の色の時に攻撃すればいいのだろう。
赤→火 青→水 茶色→地 水色→風 黒→闇 金→聖 白→物理 のはず。
私の予想通り、リリが白色に点滅しているときに攻撃したとたん、オーブは壊れた。
そこでシステムメッセージが表示される。
≪魔獣セギュウムに物理ダメージが効くようになりました≫
おっしゃ、予想通り。リリはそのままオーブを壊すと、私とともにセギュウムに攻撃をはじめる。
うん、リリちゃんよく考えたら物理攻撃しかできないもんね。
残りを壊せるのはコロネだけか。
そのコロネはやっと階段を登りきり、魔法を展開させる。
『魔冥槍!!』
まずは【死神】のメイン属性である闇属性の黒色のオーブを破壊。
≪魔獣セギュウムに闇属性のダメージが効くようになりました≫
おっしゃ!!闇からいくとはわかっていらしゃる。
死神の攻撃属性は物理と闇なのでこれで攻撃がほぼ全部効くようになる。
―他のオーブを壊すべきでしょうか?それとも攻撃に加わるべきですか?―
コロネの問いが伝わってくる。うん。そこは破壊で。
この手のオーブは放っておくと、一定時間たつと、ボスを回復しだしたりするので壊しておいたほうがいい。
私の考えにコロネは即座に頷いて、闇のオーブを壊したその場所から魔法を詠唱しだす。
どうやら全部のオーブが視界に入るその位置から、オーブを魔法で破壊するつもりらしい。
……けっこうな距離だがコロネならきっとやってのけるのだろう。
私は意識をセギュウムの方に向けた。
セギュウムの身体のいたるところにある口が長い舌をだして私とリリを攻撃してくる。
……が、リリの身体は【浮石】の魔法の効果もあって、空中を自在に飛び回り、舌を切り刻んでいく。
私も負けていられない。このチャレンジミッション、制限時間があるので、ダメージが与えられるようになった今、ダメージをあてていかないと!
「魂奪冥霊斬!!」
私も【浮石】の魔法で足元にブロックをつくり、ひょいひょいと空中を自在に飛びまくりセギュウムの舌攻撃を避け、その身体を鎌の技で切り刻む。
肉片がごろりと落ち、1200ダメージをセギュウムに与えた。うし!このダメージ量なら時間以内に倒せる!
リリにサポートを頼むと、私はそのまま連続で技をぶち込みまくる。
リリは器用に私に迫り来る、邪魔な舌攻撃を華麗に切り刻んでいった。
しかしHP自体は回復しないものの、舌自体は自動再生なのか、あっという間に元通りになってしまう。
そして、それはきた。
神殿内の床が赤く染あがる。
そう、これはチャレンジミッションにおいて大技が来る時の合図。
赤い床の場所は全て攻撃範囲にはいる。
階段上のコロネのいる場所も赤くなっていることから、このステージは安全地帯は存在しないらしい。
先ほどから全体攻撃をキャンセルさせようと、スタン系の攻撃もしているが、まったくキャンセルになる気配もない。
こいつはキャンセル無理系のボスか。
セギュウムの身体が発光し――
そして全体攻撃がくるよりはやく、コロネの魔法が発動する。
『聖降臨神盾!!』
コロネの声とともに、私の身体を取り囲むかのように光の盾が現れ――ボスの全体攻撃を防ぐ。
おっしゃ。流石。
私は瞬間移動でボスの間近まで近づくと
「滅槍冥王派!!」
全体攻撃の後の防御低下のうちに最大火力の技をぶち込んだ。
「ぎしゃぁぁぁぁ!!」
セギュウムが物凄い悲鳴をあげる。
うん。やべぇ。セギュウム弱い。
――いや、正確にはリリとコロネのフォローがいいせいで楽勝なんだけど。
この舌攻撃、数が半端なさすぎて、もしゲームで赤の他人と野良パーティーなどで挑めば、舌に阻まれ攻撃をあてるのさえ苦労しただろう。
リリが舌攻撃を全てなぎ払い、コロネもいつの間にかオーブを壊したらしく、私にくる魔法攻撃を魔法をぶち当ててキャンセルするという離れ業をやってのけている。
そのおかげで攻撃に専念できるのだ。
ちなみにコロネがボスに攻撃しないのは私の指示である。
このゲーム、魔法使いに敵の攻撃のターゲットが移りやすい。
コロネがボスに攻撃すれば、すぐさまボスモンスターの攻撃対象はコロネになるだろう。
正直、それは避けたい。
にしても……。リリとコロネを現実世界に連れていって一緒にこのゲームやったら、すごい楽しそう。
めっさ最強PTだよ。仲のいいゲーム友達のみんなにも紹介したら羨ましがられるなきっと。
カンナちゃんと四人でギルドで遊びたいなぁ……などとのんきな事を考えてしまう。
何度目かの全体攻撃を『聖降臨神盾』で防ぎ、セギュウムの残りHPがわずかになった。
まだ今さっき『聖降臨神盾』を使ったばかりで、クールダウン時間は残り二分ちょっと。倒すかどうか私は迷う。
そう、時々チャレンジボスは死ぬさいに、自爆攻撃をしてくることがある。
ゲーム中でも、その自爆攻撃はなかなかエグイ。
だれか一人生き残れればいいよね!クラスの全体攻撃なのだ。
必ずセギュウムがしてくるとは限らないが、コロネの魔法のクールダウンが回復してか……思ったその時。
「グキャァァァァァァァ!!!!」
セギュウムの断末魔が響いた。
しまったぁぁぁリリは敵のHPが見えていないんだったぁぁぁぁ!?
リリがセギュウムの舌を切りまくっているうちに、HPが0になってしまったらしい。
セギュウムの身体が光だし、床が真っ赤に染あがる。
リリとコロネが物凄く動揺してるのが伝わってきた。
そりゃそうだ。全体攻撃を防ぎきるほどの防御手段が何もないのだ。
コロネの『防御壁』も物理攻撃防御特化の魔法なので、魔法属性の全体攻撃を防げるかかなり怪しい。
リリとコロネはスキルが獲得できない&呪文書が買えないせいでプレイヤーに比べて極端に防御手段が少ないし。
確かに死んでも指輪はあるが――いや、正直ヤバイ。
このラスボスの自爆攻撃、何がエグイって攻撃時間が長いコトだ。
死んで生き返っても攻撃時間が続いていれば、再び死んでしまう。
指輪は生き返るタイミングを選べないのだ。
そのせいで、生き返られる指輪はほぼゴミアイテムと化していて使うことなどなかったのだが。
どうしよう。【硬質化】は自分にしかできない。
リザレクションの使えるコロネだけも【硬質化】して抱きこんで守るべきか。
でもリリちゃんが死ぬところは見たくない。
かといって、魔王が恐れているであろう【冥王ナースの大鏡】を使うわけにもいかない。
魔王が私に手を出さない理由は恐らくだが、カエサルを倒したコンボ技を自分に使われる事を恐れているから。
いわば、【冥王ナースの大鏡】は対魔王の切り札だ。
おいそれと使えない。
――そうだ!!
私は瞬間移動でリリとコロネをゲットすると二人の首根っこを掴み自分に引き寄せた。
「ネコ!?」「猫様!?」
敵の全体攻撃がくるその前に。
私は三人を包むように簡易バリアをはりそれをアイテムボックスからとりだした。
――古代龍カエサル(死体)――
光が――全てを呑み込んだ。




