4話 即死のコロネ
「ふっ。
俺のサリーに手をだすとは、いい度胸だ
この俺を怒らせた罪は重いぞ!お前ら!!」
安っぽい、悪役のようなセリフを吐きつつ、怒りの表情を浮かべて、男はそう言った。
10代くらいのなかなかイケメンな青年である。全身ローブなので魔法使いらしい。
その足元にはエルフ娘がうつむいたいた状態で、座り込んでいた。
年の頃ならリリより少し上くらいの子だろう。
そして青年が手持っているのはグラシクルの杖。
召喚者と同じレベルの、4大精霊を呼び出せるわりとレアなアイテムである。
何より、魔力は減るが使える回数が無制限。これがなんとも素晴らしい。
私も持ってはいたが、まぁ、精霊の攻撃パターンがワンパターンですぐモンスターにやられてしまい、あまり役にたたなかったのですぐ倉庫行きになったのだが。
既に戦闘中らしく火・風・水・土の精霊達がうようよしていた。
ゲームでは一体しか呼び出せないはずだったが、どうやらこの世界では何体も呼べるらしい。
そして、その精霊達に立ち向かうのは 数人の鎧をまとったエルフの騎士達と、エルフの魔導士だ。
精霊達の足元にはすでに息絶えた、兵士達の死体があった。
私はすぐさま杖を持ってる男を鑑定した
名前は神威 種族は人間
職業は【魔導士】と【聖職者】
レベルは200である。
うん。職業が二つの時点でどう見てもプレイヤーです
そしてどっちが悪い奴なのかわかりません。
うーん。これがいかにも野盗風な奴らが「げへへへ金だしな、姉ちゃん」とかやってたなら問答無用で倒せたんだけどなぁ。
それにプレイヤー君、レベル200か。
対する兵士達のレベルは50から70なので、プレイヤー君の圧勝状態である。
200ジャストでレベルが止まってるところを見ると、同じ頃プレイしてた可能性が高いな。
でも私は彼を知らないから、『ガイア』サーバーの人間だろう。
『アテナ』サーバーは、人が少なかったので、カンスト勢はほぼ知り合いだったりするし。
……あれ、そういえば私、古代龍との戦闘でレベル上がったの確認してなくね?
と思った瞬間。
「何を悪魔が偉そうに!
我らの集落の一つを、武力で支配し、女を囲う不埒な事をしているのは貴様だろう!
サリーは我らに助けを求めにきたのだ!」
傷ついた、兵士の一人が叫ぶ。
「そうなのかサリー」
青年がギロリと、サリーと思われるエルフ娘を睨む。
青ざめた顔の少女は、ガクガクと恐怖で震えている。
青年の手には魔力が集まり出した。
あ、ダメだ。
これはダメなタイプの異世界転生だ。
一時期流行した 強大な力をもった日本人が転生し、俺TUEEEEしながらハーレムを作ちゃうぞ!
という作品がいろいろ流行ったが、このプレイヤー君は、どうやら力づくでそれを実行したのだろう。
瞬間、別の方向からゾワリと魔力の流れを感じる。
見やればエルフ達の方に動きがあった。
どうやら後から駆けつけたと思われる魔導士が魔法を展開させている。
『聖光槍!!』
一人のエルフの声と共に。
上空に何本もの光の槍が出現する。
目標はもちろんプレイヤー君だ。
「……なっ!?」
突如上空に現れた、それにプレイヤー君は驚くが、時すでに遅し。
どこぉぉぉん!!
盛大な音をたてて、直撃するし、モクモクと砂煙が立ち込めた。
「やったか!?」
ヲタクの世界ではお馴染みの言ったらいけないNO1のセリフを兵士の一人が叫ぶ。
「いえ、無理ですっ!!
レベル差がありすぎて、私の術では効きません!
私が時間を稼ぎます。今のうちに各自思う方向に逃げなさいっ!!
できるだけ散り散りにですっ!!
運がよければ何人かは生き残れるかもしれませんっ!」
杖をもった魔導士風のエルフの男が叫びながら指示をだす……が。
……へ?
私は素っ頓狂な声をあげた。
茶髪がかった金髪の、わりと精悍な顔つきの魔導士エルフに見覚えがあったのだ。
そう、MMOではお馴染みの多人数で協力して強大なボスを倒す、『レイド戦』のイベントで登場するNPC。
プレイヤーには「即死のコロネ」と呼ばれた、アケドラル帝国の宮廷魔導士。
コロネ・ファンバードだった。
ちょ、何で即死のコロネがここにいるの!?
私の脳裏に嫌な思い出が蘇る。
この即死のコロネが出てくるのはレベル100がカンストだった時代のレイド戦『セファロウスの復活』だ。
昔、あまりにも凶暴だった魔獣が神々の力で封じられたのだが、現代になって蘇ってしまい、それをプレイヤー皆が一丸になって倒すというイベント。
この即死さんは神々の聖杯『ファントリウム』で、魔獣の超回復してしまう力を防ぐ、という役目を持っていた。
その為、敵を倒すと同時に、プレイヤーは聖杯を使っているコロネも守らないといけないのだが……
まぁ、このコロネさんが軟い。レベル100のくせにひたすら弱い。
すぐ死ぬ。すぐ状態異常にかかる。すぐ混乱する。
敵の弱い攻撃でも、一撃でも食らうと、すぐ死んでしまうという、ダメNPCだった。
ボス自体は対した事はなかったので、このレイド戦においては、「即死のコロネ」をいかにして守るかが攻略の鍵となったのだ。
レイド戦で人数の集まる『ガイア』サーバーは、まだ人間の壁で守れるからまだいいにせよ、プレイヤー数が少なくレイド戦でも人が集まらない『アテナ』サーバーにおいては、この即死さんをいかにして守るかで四苦八苦したものである。
そして、何故かいつもこのコロネを守る役が、私ともう一人のギルメンの役目だったのだ。
「この雑魚がっ!!
会話中、邪魔するんじゃねーよ!!」
プレイヤー君がコロネに向かって、精霊達をけしかける。
ちょ、ヤバイ!!
考えるより、先に身体が動いていた。
そりゃもう自然に。
【瞬間移動】で、コロネの前に飛ぶと、念じて【滅法師の鎌】を手に取り出した。
コロネに向かってきた敵は4体。ご丁寧に、火、水、風、土と全種の精霊が揃っている。
が、この【滅法師の鎌】は、どの精霊にも効果があるので問題ない。
ついでにいうと精霊にしか効果のない武器だ。
ヒュン!!
私は鎌をひと振りし、四体の精霊の首を跳ね飛ばした。
「……なっ!?」
まるで時が止まったかのように、首が宙を舞う。
コロネが驚きの表情をするが、今は構ってもいられない。
精霊は残り10体。
仲間がやられたのに焦ったか、すべての精霊が呪文を解き放つ体制にはいる。
ターゲットはもちろん私。
うーん、精霊の攻撃はワンパターンなんで楽勝なんだけどコロネが邪魔だ。
私はコロネの首根っこを掴むと、
ぶんっ!!
そのまま空中に放り投げた。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴をあげて、すっ飛ぶ。
精霊達の注意が一瞬そちらに向いた。
それだけで十分。
私は瞬間移動を使うまでもなく、ダッシュで精霊たちの首を凪ぎ落とした。
おぅ、身体がすごく軽い。これは大分レベル上がってるな。
レベル差があるせいか、精霊達の動きがスローモーションを見てるかのように、遅く感じる。
――そして
コロネが空中から目を回して戻ってくる頃には精霊は一匹も残っていなかった。
私は落ちてきた、コロネをやすやすとキャッチする。
高く放り投げすぎたのか、そのまま気絶しているが、命に別状はないので気にしない。
うーん、なつかしい。
昔はよくこうやってコロネを守ってたよね。
投げたり、埋めたり、弾丸にしてみたり。
よく他のプレイヤーに、即死のコロネは魔獣よりお前に殺されるんじゃね?と、突っ込まれたが今は懐かしい思い出だ。
まぁ、言い訳させてもらうなら『アテナ』サーバーは人が少なすぎて、正攻法では守れなかったので、こうするしかなかったんだよ、たぶん。
「お、お前何ものだっ!?」
突然の乱入者にプレイヤー君が声をあげる。
その声は若干――とうか、完璧に震えていた。