48話 はじめての戦力
「ああ、猫様、リリ様おはようございます」
次の日。朝食を終え、リリと一緒にコロネのいるグラッドの魔道具屋まで二人で来ると、コロネは庭で呑気に鳥のような魔物と戯れていた。
「わーすごい。鳥さんいっぱい」
リリが感嘆の声をあげながら、コロネの隣にちょこんと座り、鳥をじーっと見つめる。
「朝から何をしているんだ?もしかして卵採取とか?」
私の問いにコロネは首を横に振ると
「いま、コカトリ達に魔道具を付けていた所です。人間の領土に行く前の準備とでもいいましょうか」
言われて見れば、確かに鳥達の足元に、何やら光るものがついている。
「何の効果がある魔道具なんだ?」
『女神達の監視を防ぐ魔道具です。
今現在の状況では、女神達が視えない場所に私達がいるという事になりますから。
盗視は防げても、所在は察知されていると思います。
ですから、人間の領土に行くときには、コカトリを放ち、どこに私たちがいるかわかりにくくしておきましょう』
コロネが警戒してか念話で答える。
「――ああ、なるほど」
監視できない場所を増やせば、どれが私達なのかわかりにくくなるということか……。
『いま、ぱーっと鳥さん放すのはダメなの?』
コロネにリリが尋ねる。
『大神殿に行く話をしていた所までは、盗視されていたはずです。
ですから大神殿に行くまでは密偵などで監視されていると考えておいたほうがいいかと。
――まぁ、人間の領土に行っても監視はつくかとは思いますが。
あまりわかりやすい行動をしてしまうと、フェイクがバレるのを望んでいることがバレてしまいますから』
『え、バレていいの?』
『はい。どの道猫様はどこに居ても目立つことになると思いますので……どこにいようとも所在はバレるでしょう。
こちらはどちらかというと、私の密偵や、これから行動することになると思われる人間用のためですね。
フェイクの中に彼らを紛れ込ませます。
何もせず渡してしまうと、私達の味方が監視できない場所にいると女神に教えてしまうようなものですから。
いまは密偵にも監視を防ぐ魔道具は渡しておりません。
逆に彼らを危険に晒すことになりますので。
正直に申し上げればこのコカトリもフェイクです。
他の方法で、監視を防ぐ魔道具を各地に散らす方法もとります』
『うん。どこに居ても目立つとかどういう意味かなコロネ君?』
『そのままの意味です。
猫様の場合、困っている人間がいれば、すぐ助けに入るのは目に見えていますから……。
すぐに噂になってしまうでしょう』
『うん、ネコ 絶対、困ってる人放っておけない。
むしろ 率先して 探すタイプ』
『ああ、そうですね……そこまで考えて行動しておいたほうがいいかもしれません』
と、何やら二人で話が盛り上がる。
『ちょ、二人とも私のことをどういう……』
言いかけて、すでに二人にジト目で見られていたので、やめておく。
くぅぅ。この二人に言動が読まれてるじゃん。
――にしても、やばいコロネやっぱり優秀。
私が人間領土をなんとかしたいと話したら、本当にそれに向けて私の知らないところで着々と準備してるし。
私のしたいことのフォローはするみたいな事言ってた気がするけど、マジで準備とか。
これだけ気がきくなら結婚してもいい嫁さんになるよきっと。
引く手あまただろう――などと、どうでもいいツッコミを自分で考えて、ふとリュートの言葉を思い出す。
コロネと恋仲じゃないのかと。
――うん。いや、別に私の嫁さんにするとかそういう意味じゃない。
なんというか、ほら、あれだ、一般論としてだ。
そもそも男のコロネは嫁じゃなくて旦那さんだし。
だからいまの嫁さん発言は決して私達が結婚するとかそういう意味じゃない。
『ネコ 顔赤い どうしたの?』
あたふたと心の中で言い訳をしていると、リリに突っ込まれる。
『そうですね。何かありましたか?』
コロネも心配そうに訊ねてきた。
『い、いや、なんでもない!?うん、なんでもないから!!』
と、必死に答える私。
く、くそう。あの腹黒王子め!
お前のせいでなんか変に意識しちゃったじゃないか!?
絶対あとで空中散歩に無理やり連れ出してやる!泣かせてやる!!
そう私は心に誓うのだった。
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「私の方は準備はできました。
長らくお待たせして申し訳ありません。
これからいかがなさいますか?」
あのあと、コロネの魔道具取り付けを手伝い、ある程度グラッドの屋敷の片付け、コロネの別荘に戻ってきていた。
三人で食事をとりながらコロネが聞いてくる。
「大神殿 いくの?」
「そうだな。そろそろ行きたいと思うけど。
今日と明日はしっかり休憩タイムにしてからだな。コロネこれだけの作業を短時間でやったのだから寝てないだろう。
ちゃんと寝ておいてくれ。目の下に酷いクマができてるぞ。
コロネの体調が戻りしだい次に訓練かな。
腹黒王子には私から連絡しておこう」
「私でしたら寝不足はいつものことですから。
気にしないでください」
「前もリリにも言ったけど、今回のチャレンジは3人が全力でいかないとクリアできない。
私もチャレンジミッションではレベルが800まで下がるから条件はコロネ達と一緒だ。
フォローにまわるのも難しい。本来なら8人で挑む場所に3人で挑むのだから。
体調は万全にしていこう」
「……それは、クリアできるのでしょうか?」
コロネに渡した攻略本の時点ではまだチャレンジミッションは存在していなかった。
なのでこれに関してはコロネも知識がないのだろう。
首をかしげて聞いてくる。
「レベルは下がるが、装備はレベル900でできる装備そのままだから、武器性能分実際のレベル800よりは強い。
コロネ達も進化の腕輪で900レベルの装備しているから火力は十分だとは思う。
自分が対ボス特化の職業『死神』の職だから単体ボスならなんとかいける。
あとは問題なのはチームワークだけかな。
コロネには防御系の魔法のクールダウン(呪文がその一定時間使えない)時間を完璧に体に叩き込んでもらう。
こういうチャレンジミッションで必要なのはいかに敵の強力な攻撃を防ぐかだ。
避けられない全体攻撃や追尾攻撃をどうやって防ぐかが重要になる。
リリは全体攻撃をしてくるパターンを私の記憶を見て覚えてもらうから、全体攻撃をキャンセル術を徹底的に知識として叩き込んでほしい」
「うん!リリ頑張る!
はじめて足でまといじゃない!リリ戦力!」
私の言葉にリリがキラキラと目を輝かせる。
そういえば、確かにそうかもしれない。
3人で力をあわせて闘うとかはじめてだよね。
いつも私が一人で倒してリリ達は見てるだけだったし。
結局、このあと、休むことなく二人のチャレンジミッション訓練がはじまってしまうのだった。




