46話 空中浮遊
「これは……?」
腕輪のような物を二つ渡され、私はコロネに尋ねた。
青く光るブレスレットは不思議な魔力を帯びている。
「このように足首につけてください。ブーツで隠れてしまっても問題ありません」
言ってコロネが自分の両足首にブレスレットをつけてみせる。
「私は並行思念のスキルを取得していませんから…これが限界ですが」
言ってコロネが一歩足を踏み出すとコロネの足元にレンガが出現し、コロネはひょんとそこに足を乗せた。
足を一歩踏み出すたび、足元にレンガが出現し、見えない階段があるかのように、コロネがひょいひょい空中を歩き始める。
出現したレンガは、3秒もしないうちに消えてしまうため、まるで空中を歩いているかのようにも見えなくもない。
「ちょ、これすごい!?」
物凄く中二心をくすぐられる光景なんですけど!?
私が感嘆の声をあげると、空中を歩きながらコロネが
「本当は、魔法が使えるようにしたかったのですが……
魔道具で発音したものでは魔法は発動しませんでした。
やはり詠唱は本格的に研究しないと駄目ですね。
ああ、ですが自分で口で詠唱する分には魔法は使えます。
それと、詠唱の必要ない【浮石】の魔法も発動するように調整しました。
この魔法は空中に3秒間ブロックを出現させる魔法です。
以前猫様に頂いた魔法書で覚えた魔法ですね。
手で出現させて、その上に乗るのでは手間がかかってしまいますので……足を杖の代わりにしてみました」
言って、ひょいっと、空中からジャンプして地面に着地する。
「いいなー いいなー それカッコイイ! リリもほしい!」
「ああ、でしたら、私の分をお渡ししましょう。
ですが、呪文書がまだ残っているかはわかりませんが……」
言ってチラリとコロネが私を見る。
「ああ、リリの分も残ってる。じゃあリリにも呪文書渡そう」
「うんうん!リリも空飛びたい!」
ホクホク顔でリリが呪文書とブレスレットを受け取る。
「後で使い心地などを教えていただけると幸いです。
私は義手で使い方に慣れていましたがお二人は
少し練習も必要になるかもしれませんね」
と、言ってるそばからリリはあっさり空中をすたすた歩きはじめた。
うん、この子器用だわ。まじで。
「流石リリ様。魔力を足に貯めるというのはなかなか難易度が高いはずなのですが……」
と、コロネも呆れた様子でリリを眺めている。
私もマネしてみるが、なかなかうまくいかず10分ほど試行錯誤することになったが、一度コツをつかめば楽なもので、私も空中を歩けるまでに成長した。
「お二人とも、優秀ですね。
普通の者ならこれを会得するだけで1年はかかります……」
言うコロネの表情は完璧に呆れ顔だった。
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「これは猫様、お待ちしておりました」
神殿につくなり、リュートこと腹黒王子がにこやかに出迎えてくれた。
あれから、リリをコロネの所に残し、私は盗視遮断できる指輪を装備して、リュートの待機している神殿まで一人でやってきたのだ。
リリを連れてきてもよかったのだが、リリの言うとおり、コロネは一人にしておくと誘拐されそうな気もしたので護衛としてお留守番してもらうことにした。
やたら優秀なくせに、何故か頼りないんだよねコロネって。
「今日は師匠達はご一緒ではないのですね」
と、私に紅茶を差し出しながらリュートが小首をかしげた。
「ええ、今日はエルフの街の集落を廻ろうと思いまして。
王子を担ぐだけで手一杯になりそうなので置いてきました」
「集落を廻る……ですか?」
予想外の提案だったらしく、リュートが不思議そうな顔をする。
私はリュートに神器を守る神殿や街などに罠を設置することを話すと、リュートはふむと頷いて。
「わかりました。
ですが、国王の許可なく勝手に話を進めることはできませんので少々お待ちいただけますか?
許可をいただいてきます」
と、真面目な顔をして席を立つ。
私はその間、手持ちぶさに紅茶をすすった。
リュートが国王の許可をえて、戻ってくるのはそれから10分後のことだった。
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「うあああああ!???」
瞬間移動で移動中、私に担がれたリュート王子が情けない声をあげた。
あれから、リュート王子に王族しか使えない転移の魔方陣で移動させてもらい、ほとんどの集落と聖樹に罠の設置は終わらせたのだ。
コロネにもらった【浮石】のブレスレッドのおかげで、空中すら自在に瞬間移動で移動できるようになり、移動が恐ろしく速くなったのだが……。
どうやらこの王子、高所恐怖症だったらしい。
木々のない場所の方が視界がよく、空中を移動しまくってるのだが、情けない声をあげて私にしがみついている。
「ね、猫さまっ!!もう次で最後の集落です!!一度休憩しませんか!?」
真っ青になりながら言うリュートに
「あと一箇所ならさっさと終わらせましょう」
と、私はあえてスルーした。散々人を騙した罰だ。我慢しなさい。
王子ががっくりとうなだれているのがわかったが、無視だ、無視。
こうして、リュート王子と全ての集落と聖樹に罠を張り巡らせるのが終了するころにはどっぷりと日が暮れていた。
「し、死ぬかと思いました……」
いつもの集落の神殿に戻り、一息ついたところで王子がぜぇぜぇと言いながらぽつりともらす。
うん、はやく終わらせたくてマッハでやったから、そりゃ王子にはきつかっただろう。
今まで散々人を利用してくれた罰もあるので、気にしないことにする。
「お疲れさまです。リュート王子」
私がにっこり笑顔で言うと王子は苦笑いしながら執事に紅茶を運ばせる。
少し休みましょうと、王子は笑って私に紅茶を差し出した。
一通り、罠についてリュート王子にお礼を言われたあと、
「所で猫様。いま師匠達のレベルはいくつくらいになったのでしょうか?」
と、質問される。恐らく、大神殿に行くのがいつごろなのか知りたいのだろう。
「えーーっと。二人とも800行きました」
「ぶふぅっ!!」
私のセリフに――リュートが盛大に紅茶を吐き出すのだった。
うん。汚い。




