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43話 最高級ポーション

「おぅ。兄ちゃん達、コロネに会いにきたのか?」

 私とリリがリリが作ったお菓子をもって、魔道具屋に行くと、出迎えてくれたのはグラッドだった。


「ええ、ちょっと渡したいものがあって。コロネいますか?」


「ああ、奥でまだ作業してると思うぞ。どれ、案内してやるわ」

 と、グラッドさんが親指をくいっとして付いてこいというジェスチャーをする。


「その前に これ あげる!」


 案内しようとするグラッドに、リリがニコニコ顔で箱を差し出した。


「おぅ?コロネじゃなくて俺にでいいのかい?」

 と、尋ねるグラッドにリリが嬉しそうにコクコク頷いた。


「クッキー! リリ作った! いっぱいあるから皆で食べて!」


「へぇ。中みてもいいか?」


「うんうん!」


 グラッドの質問にリリが力強く頷いた。

 グラッドは箱を開けて、中身を確認して、クッキーを一枚とりだすと


「こりゃまたすごい。面白い形してんな。クマやらウサギやら、うちのガキ共が大喜びしそうだ。

 随分可愛いクッキーつくったじゃないか。嬢ちゃんすごいな。店で売れるレベルだぞこれ?」


 と、褒めてくれる。

 クッキーは元々カンナちゃんが使っていた型抜きに、チョコレートなどでリリが可愛くトッピングしているので見かけはかなり本格的だ。

 味も……日本で出せば、そこそこ美味しい程度だが、砂糖が微妙なこちらの世界では美味しいの部類に入ると思う。


「えへへへー」


 と、ご満悦のリリちゃん。


 あれから結局、コロネに念話したところ、二、三日では終わらないと言われたので、リリと一緒にお菓子づくりをしまくった。

 そのおかげでリリも大分お菓子づくりが上手になったのである。

 っていうか、元からかなり器用というのもあったけれど。

 あまりにも上手な出来栄えに


「将来お菓子屋さんになりたいなー」


 などと、リリちゃんが言うほどにである。

 うんうん。リリちゃんがお菓子屋あるならおかーさんは出資しまくるよ。金は腐るほどあるし。

 サトウキビも全力で栽培してあげよう。

 などと、お菓子を作りながらリリちゃんがお菓子屋を開いたら、繁盛するお店にすることを妄想して、またリリに


「またさいきょー設定考えてる……」


 と怒られたのだけれど……。

 今日は完成したリリちゃんの自信作をお店の人の分と、コロネの分をこうやって持ってきたのだ。



「じゃあ、有難くいただくぜ嬢ちゃん。店の連中も喜ぶわ」


 言って、グラッドはお菓子を店員の一人にあずけ、魔道具をつくる作業場まで案内してくれた。



 △▲△▲△▲△▲△▲



「入るぞ、コロネ」


 魔道具屋の奥にある部屋の一つのドアをグラッドがノックもせずに開けた。


「グラッド、ノックを必ずしろとあれほど……」


 コロネが振り向きざまに言って、私とリリを見て、一瞬固まる。

 義手の調整をしていたのか、上半身の服を脱いだまま、義手と肩の付け根部分をいじっていたのだが……


 身体が酷い傷の跡だらけだったのだ。


 リリの顔がみるみるこわばっていくのがわかった。

 コロネの記憶を覗いた時の事を嫌でも思い出される。


「ああ、す、すみません。すぐに着替えてきます」


 リリの顔が強ばるのがわかったのかコロネが言うが


「コロネ、傷は治ったんじゃなかったのか?」


 立ち去ろうとするコロネを私が止める。


「ええ、流石に傷の跡までは治りませんでしたが……」


 確かに、全回復ではなくHP10までしか治らないあの指輪だとこれが限界だったのかもしれない。


「やっぱり薬を飲もう。その傷跡くらいは治るだろ?

 それにもし、コロネが負傷したとき、義手をつけたまま薬を飲ませていいのかもわからないし。

 復元するかだけでも試そう」


「いえ、しかし最高級ポーションはこの世界では誰一人作ることはできません。

 いくら猫様がかなりの数を所持しているとはいってもいつかは在庫がつきます。

 深手を負ったのならともかく、傷跡を治すためだけに使うのは……」


「プレイヤーなら作れるやつくらい いるだろう?

 錬金術師は薬の効果があがるし、魔法もかなり使えたから、職業的にかなり人気だったし」


 そう、二つ職をもてるプレイヤーに錬金術師は大人気だった。

 【戦闘系職業】+【錬金術師】という組み合わせは人気だったのだ。

 魔法も賢者並みに扱えるし、ポーション効果やアイテムを使用した時の効果が大幅にあがる。

 経験値倍増系の効果までアップという、わりとチート職業なのだ。

 何よりポーションでできる爆弾は詠唱なしですぐに使えるためにPvPでは大人気だった。

 また生産スキルポイントと戦闘スキルポイントは別計算だったため、戦闘系+生産系の職業が一番お得というのも大きい。


 私の言葉にコロネは首を横に振った


「スキルとして所持してるプレイヤーは確かにいるようです。

 ですが、どうやら作成はできないようですね。

 ガイアサーバーのプレイヤーのようですから、作成方法がわからないのかと……」


「ああ、なるほど……」


 材料からガチで蒸留器などをつかってポーションなどを制作しなければいけないアテナサーバーと違って、ガイアサーバーはボタン一つでポーションができてしまう。

 そのため、能力としてはできるはずなのに、作り方と技術がなくて作れないという、おかしな状況に陥ってるらしい。


「治るなら治してもらえばいいじゃねーか。

 腕だって別に義手じゃなくったって、その義手を腕輪に改造すればすむ話だし。

 作ってるのを見て理論はわかったから、俺でもそれくらいなら出来るぞ。

 大体、その身体の傷だって雨の日は痛むとかぼやいてた事あったじゃねーか」


 グラッドが言うと、コロネが余計な事を……と言わんばかりに睨む。


「決まり! コロネ 薬飲む!」


 言って、リリが襲い掛かり、そのまま鍵爪を器用に変形させて鍵爪で羽交い締めにした。


「ちょ!?リリ様!?」


 コロネが抗議の声をあげるが、リリは無視して


「往生際悪い! 薬苦くない! いい子は薬飲む! リリ前飲んだけど美味しかった!」


 と、おかーさんみたいな事を言い出す。


「い、いや、苦いとか苦くないとかの問題ではないのですが!?」


「グラッドさん、義手外す事できますか?」


 私の問いにグラッドはにかっと微笑み


「簡単、簡単、嬢ちゃん、その馬鹿が動かないようにしっかり抑えててくれよ」


 と、手際よく外し始めた。

 うん、義手したまま腕が復元しはじめたとかなったら、軽くホラーになってしまう場合あるし、外しておいたほうがいいよね。


「グラッド……後で覚えておいてくださいね」


 コロネがジト目で威圧してみるが、


「ははっ。残念だったなコロネ。

 幼女に羽交い締めにされてるやつの脅しなんて怖くもなんともないぞ」


 と、軽く笑われて終わる。


「うううう……」


「さー、患者さんお薬の時間ですよー」


 私もふざけて言いながら、コロネのあごをくいっともちあげるとポーション片手に微笑んだ。


「の、飲みます!!飲みますから!!

 この格好で飲むのだけは許してください!!

 吐き出してしまったらそれこそ貴重なポーションがっ!!」


 と、ポーションの心配をしだす。心配するのはそこなのか。

 まぁ、確かに、幼女に羽交い締めにされて、無理やり口に注ぎ込まれるとか、薬を吐き出してしまうかもしれない。



 △▲△▲△▲△▲△▲



「猫様といると、物の価値がわからなくなってきます。

 本来、こんなことのために使っていいポーションではないはずなのですが……」


 はぁーーっと大きなため息をつきながら、ポーション瓶片手にコロネが呻く。


「コロネが回復系魔法つかえればいいんだけどな」


 と、私。そう、職業的には大賢者という、レア上級職なので使えるはずなのだが、何故かコロネは回復系は一切覚えていなかった。

 ゲーム中でも、回復系の初期魔法は職業を選んだ時点で勝手に覚えてる事がおおいので、呪文書自体存在しているのかもわからない。


「……以前は覚えていたような気がするのですが……

 何故か、ゲーム化したあとは忘れてしまっていまして」


「護衛NPCが勝手に自分で回復しないように、呪文を忘れさせられたとか?」


「かもしれません。

 回復系の呪文書は滅多に出回らない上に、神官でなければ買えないという縛りがありまして……。

 なかなか手に入りません」


「じゃあ、次行くチャレンジででるといいねー」


 リリがニコニコ笑いながら言う。


「だといいですね。


 それでは……」


 意を決したかのように、コロネはポーションを飲み干した。


 △▲△▲△▲△▲△▲



 結果は……身体の傷は綺麗さっぱりなくなったのだが、腕はコロネが予想した通り治らなかった。

 当のコロネは腕が治らなかったことより、古傷のためだけに最高級ポーションを使ってしまったという結果にやたら落ち込んでいた。


「まぁ、古傷が痛まなくなっただけよかったじゃねーか」


「そうだな。これで重症化した時、コロネの腕を外さないといけないか迷わないですむから。

 結果は決して無駄じゃない!」


 と、ごまかすように私も決め顔で言ってみる。


「ええ、そうですね。重症時の処置は一刻を争いますから……」


 そう答えたコロネの目は完璧に死んでいた。


 ……うん。なんだかとっても申し訳ない。



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