3話 神の結界
「通れないな」
「うん、トオレナイ」
私とリリは鬱蒼としげる森の前で立ち往生していた。
あれから二人で【瞬間移動】を駆使して、ほぼ山の麓辺までたどり着いたのだが、見えない壁が行く手を阻んだのである。
見た感じ遮るものは何もない。
そして、私は普通に通れるのだが、リリだけがそこから通れないのだ。
「なるほど。これが神々の作った結界というわけか」
「リリ、マモノ、けっかい トオレナイ
カエデ いっしょ デモ トオレナイ
ここで オワカレ」
リリが今にも泣きそうな表情で、肩を落とす。
いやいやいや。
こんな危険な所にロリ幼女一人置いていくわけないでしょう。
そんな事したら保護責任者遺棄罪に問われてしまうわ。
「ホゴシャ?」
心の中の声にリリが反応する。
うん。プライバシーなんてものは存在しないらしい。
「えーっと、そうだな…。
未成年を守る立場というか、親?のようなものか?」
「……オヤ」
その言葉にリリの顔がパァァァと輝く。
やだ、この子、マジ天使。
「カエデ、リリのオヤ?」
顔を赤らめてもう一度聞いてくる。
「えーっと、本当の親じゃないけれど、リリが嫌じゃなければ……
自分が親代わりということでいいか?」
「うん!カエデ リリのオヤ!」
リリが嬉しそうに抱きついてきた。
やばいドラゴンなんて事忘れそうになるくらい、天使なんですけど。
うーん、そっか。リリってば、生まれた時からいきなり成人型のボスとして戦ってはいたけど、小さいときの記憶……
っていうか、小さい時すら存在しないのか。
親や仲間がいなかったせいで、周りに手本がないため精神年齢がかなり低いらしい。
てか、自我をもったのもつい最近なのだろうか?なんだか幼い。
とにかく、ここは一つお母さんが守ってやらねば。
まぁ、身体は男なんで、お父さんなんだか、お母さんなんだか自分でもよくわからないけど。
「それじゃあ、リリ。とりあえずここから出るぞ。
自分の指示に従ってくれ」
「ウン!ナニ すれば イイ?」
「これから、リリをテイムする
自分の従魔扱いになれば、もしかしたらここから通れるかもしれないから」
この神の結界はゲームの他のエリアでも存在する。
てか、そもそも街も、この結界よりは弱いかもしれないが、この手の結界で守られている。
魔物を通さない結界は至るところにあるのだ。
ゲーム上では、テイムされたモンスターなら通れたので、リリもテイムすれば通る事が可能かもしれない。
一応、テイマーではないが、私もテイムスキルは10だけ持っている。(因みにMAXは100)
例え10でもそこらへんの犬とか猫なら簡単にテイムできるので、犬を囮に、モンスターを罠に誘ったりといろいろ役にたつのである。
ドラゴンがスキル10で調教できるかは不明だが、これだけ好感度MAX状態ならなんとかなるだろう。
「ただ、テイムすると自分言うことに服従しないといけなくなるからなぁ。
まぁ、ここらへんは結界を通ったらまた、リリースすればいいだけか。
それでもいいか リリ?」
「ウン だいじょうぶ!」
と、にっこり笑顔で微笑む。その笑顔がマジ天使。
やばい。これ、オッサンだったらグラグラくるくらい可愛いシチュエーションだよ。
私、マジ女でよかった。あやうく犯罪に片足突っ込むところだったよ!
「まぁ、無理な命令をするつもりもないし、従魔の方が、
街中で融通が効くからそのへんは臨機応変でいこう」
人間の街には必ず結界があるので、一緒に行動するなら従魔のままの方がいいかもしれない。
私はリリの頭に手を置くとテイムを始める。
≪猫まっしぐらは、ホワイトドラゴンのテイムに成功しました≫
≪ホワイトドラゴンは猫まっしぐらの従魔になりました≫
システムメッセージが聞こえてきた。
どうやら成功したようである。
うーん。なんかこのシステムメッセージとかのおかげで、今ひとつ異世界に来たって気がしないんだよね。
なんだかまだ、普通にゲームをやってる気分になる。
すぐに、元の世界に戻りたいっとかいう気分にならないのも、ゲームをやってる気分が抜けないからだろうなぁ。
私はリリのステータスを確認する。
うん、きちんと私の従魔になっている。
「通れるか?」
私が見えない壁をまたいだ所から手を差し出すと、リリはおっかなびっくり私の手に手を伸ばした。
「ア……」
リリの手はあっさり結界のあった場所を通り抜けた。
「トオレタ!トオレタヨ!」
身体全体で嬉しさを表現するリリに、思わず顔がほころぶ。
純粋にリリが喜んでいる気持ちが私にも伝わってくるので、本当可愛い。
やー、子供ってマジ天使。リリ可愛いよ。リリ。
なんてヲタクのような気分に浸っていると―――
ドコォォォン!!
けたたましい爆音が聞こえてきた。
「!?」
私とリリは身構える。
よく見ればエルディアの森の中からもうもうと煙が立ち篭めている。
何だろう、この森はエルフの縄張りのはず。
魔物同士が戦っているのか、それともエルフが魔物と戦っているのか?
「タタカッテルのは
エルフ プレイヤー
ホカニ セイレイ いる」
私の思考を読んだのかリリが答える。
おぅ。リリちゃんマジ有能。そんな事もわかるのか。
あー、もしかして魔力探知が熟練度100なのだろうか。羨ましい。
「エルフはともかく、プレイヤーまで見分けがつくのか?」
「ウン、プレイヤー カミノケハイ スコシダケスル
ミカケ エルフ ニギンゲン ニ ニテテモ けはい チガウ」
「なるほど。興味深い話なので、もう少し詳しく聞きたい所だけれど、
私以外のプレイヤーもいるとなると放っておけないな」
いや、放っておいてもいいか?自分で言っておいて疑問に思う。
なるべく危険とは関わらない方がいい気もする。
また高レベル相手とかだったら嫌だし。
でもなー、プレイヤーが知り合いって可能性もなきにしもあらずだし。
ないとは思うけど、私の友達でギルメンであるカンナちゃんが召喚されていたら命懸けでも助けないといけない。
それに、何といっても自分以外のプレイヤーが存在するというだけで心ときめいてしまう。
一緒に帰る方法を探せるかもしれないし。
よし、決めた。
「リリはここで待っていてくれるか?」
「リリ イッショ ダメ?」
「相手のレベルが高すぎて相手にならないようなら、全力で逃げる予定だから。
二人だと、どうしても瞬間移動の発動が遅くなる。
リリを危険な目にあわすわけにはいかないしな。
とりあえず様子だけ見てくる」
「ワカッタ リリ マッテル」
私はリリの前で宝珠に位置をマーキングのすると【瞬間移動】で先程の爆心地へと向かうのだった。