41話 魔法核
「ああ、そういえば。私としたことが忘れる所でした」
言ってコロネは私に小さな赤い宝石の組み込まれた指輪をさしだす。
「……これは?」
「強制的に魔力制御する機能と外見をエルフにする機能を収めた魔道具です。
いつもの集落ならば村人全員に話が通っていますから、必要ありませんが
ここでは事情を知らない者もおりますので」
「ああ、プレイヤーはやっぱり評判よくない感じか?」
私の問いにコロネは苦笑いしながら
「そうですね。
神威というプレイヤーの件もありましたから。
プレイヤーを見かけたらすぐに衛兵を呼ぶ手はずになっているはずです。
プレイヤーの方は人間と外見が変わらなくても
膨大な魔力を常に体内から放っていますから
見るものが見ればすぐに感づかれてしまいます」
「ああ、コロネの記憶でもそんな事言ってたような。
ってか、やっぱり自分もダダ漏れしてるのか?」
「はい。残念ながら。
こちらの人間でしたら、やり方がわからなくても魔力の高い人間は本能的に抑えるはずなのですが……。
プレイヤーの方はどちらかというと、無理に魔力を放っている、そんな感じがしますね」
「うーん。あれかな、そもそも魔物を倒してなんぼのゲームだし。
魔物が寄ってくるように、わざとそうしてるとか?」
そういえば、ゲーム内でもやたら魔法使いやら回復職ばかり魔物が狙うのも、そこらへんが関係してたのかもしれない。
「……ああ、なるほど。
生きるために抑えている私達とでは根本的に考えが違うのですね……」
コロネが複雑な表情になる。うん。なんかごめんなさい。
自分たちの世界が遊びの世界というのは複雑なものがあるだろう。
「そういえば、記憶で思い出したけど、プレイヤーの魔法を爆発させた魔道具かっこよかった。
魔力核?にぶつけて爆発させたやつ。
あれはまだあるのか?余ってるなら自分もほしいな」
「ありますが……もう猫様も私も必要ないものだと思います。
そもそもあのやり方が効くのはプレイヤーくらいなので」
「え?そうなのか?」
「はい。これもまたプレイヤーの方のみの特徴なのですが……。
本来は魔法を放つ前には魔法障壁を張るはずなのですが、何故かプレイヤーの方々はその動作をカットしてますから
だからあのように魔力核に魔道具をぶつける事ができましたが、普通ならはじかれて終わりでしょう」
「魔法障壁?」
「はい。そうですね……グラッド」
「おぅ?」
コロネに突然話をふられてグラッドがキョトンとする。
「今から私が魔法を詠唱しますので、そこのぬいぐるみを詠唱中投げつけてください」
言って、コロネが魔法を詠唱しだした。
グラッドが手にもっているぬいぐるみをそのまま、コロネに投げるが、ぬいぐるみはボスンとコロネにあたる寸前で跳ね返る。
「おー攻撃防いだ」
「これが魔法障壁です。
自分のレベルより低いものや同レベルの者の軽い攻撃なら弾いてしまいます。
まぁ、流石に自分よりレベルが高い者や同レベルの威力の高い魔法などを防ぐほどの防御力はありませんが。
では、次に猫様同じ要領でお願いできますか」
コロネに言われ、私も軽い睡眠の呪文を唱え始める。
そこにグラッドからぬいぐるみ攻撃をうけ――
ぽすっ!
グラッドが投げたぬいぐるみがそのまま私に直撃する。
「本当だ。張ってない」
何でそんな重要な部分カットしてんだよ。神様。
ああ、もしかしてあれか……
「PvP用かな?」
「PvP用……ですか?」
私の一人言にコロネが聞き返す。
「うん。騎士同士の決闘みたいなもん?
プレイヤー同士がルールを決めて戦うんだけど、魔法は強すぎるから、よく詠唱中に威力の弱いポーションとかぶつけて魔法キャンセルとかしてたからなぁ。
確かにこの魔法障壁使えたら、ゲームバランス的に魔法使い系が強くなりすぎる」
「ゲームというのもなかなかどうして、大変なものなのですね……」
言いつつ、何かに気づいたのか、急に慌てだし
「猫様先程の魔道具は後で用意しておきます。
それより、そろそろ街へ行かれてはどうでしょうか?」
と、視線をチラリとリリの方に向ける。
私もつられてリリを見やれば、完璧にむくれていた。
うん。ぷぅっとほっぺを膨らませて、むくれている。
やべぇ、出かけるっていってから話が長くなりすぎた!
「そ、そうだな。リリそろそろ出かけるぞ」
「ネコ コロネ いつも話長い。 リリ 待ってた」
と、完璧ご機嫌斜めのリリちゃん。
うん。ごめん。これからは気をつける。
でも、リリが不満を言うようになったのは喜ぶべきなのかもしれない。
前なら大人しく会話が終わるまでまってたけど、ちょっといい子すぎたし。
これくらいの方が歳相応なんだと思う。
子育てなんてしたことないからたぶんだけど。
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「うーん。なんだかこれ甘くない」
あれから、コロネが言っていたケーキ屋に行ってみたのだが……
リリちゃんのご機嫌が治るかとおもったが、ここのケーキはお気に召さなかったようだ。
「頼んだ種類が悪かったのかな。違うケーキ頼んでみるか?」
「うーん。やっぱりカンナのケーキがいい」
まだご機嫌斜めのリリちゃんがワガママを言う。
「うーん。カンナちゃんの料理も数に限りがあるからなぁ。
このペースで食べてたらすぐなくなるぞ?」
「ううううう」
リリががっくりとフォークをもったまま項垂れた。
私はリリのケーキを少しばかりわけてもらい食べてみるが……確かに甘くない。
見かけは甘そうに見えるんだけどなぁ。
「でも、確かにこのケーキあまり甘くないな。
これなら、自分が作ったほうがまだましかもしれない」
周りに店員がいないのを確認して小声で言う。
「ネコ、料理できるの?」
「う、まぁ出来るけど料理スキル0だから美味しくはないぞ?」
「それでもいい!食べたい!」
リリが嬉しそうに身を乗り出す。
「いや、でもそう言われてもなぁ。
この世界、ゲームの時の日本のご飯のレシピがそのまま伝承してるから……
自分が作るものも、コロネの家ででてくるものと大差ないぞ?」
そう、この世界、レシピはゲーム時のをそのまま引き継いでいるらしく、醤油から天ぷらまで完全再現されている。
異世界で日本料理のレシピで無双!!とかそういうのは無理なのだ。
しかし、リリちゃんはすでにオメメを期待でキラキラさせている。
うう……どうしよう。
それに料理するとなると、一度コロネの別荘に戻らないとだしなぁ。
やっぱり料理するなら使い慣れたキッチンがいいし。
あそこならオーブンもあるからケーキが焼ける。
よし、いっちょ家に戻ってみますか。
どうせ、瞬間移動駆使すればここまで20分もかからず来れるし。
「じゃあ、作ってみようかな。リリも手伝ってくれるか?」
「うん!リリも作ってみたい!」
こうして私とリリのお菓子づくりがはじまった。




