39話 レアアイテムのロマン
『爆炎乱舞!!』
コロネの一言とともに、炎が爆ぜる。
名もなきモンスターが、一瞬で灰塵と化した。
その後ろでは
ザシュ
と血飛沫をあげ、モンスターの死体が宙を舞う。
リリの鍵爪で切り裂かれたのだ。
結局、次の日。私達はカルネル山にリリとコロネの武器慣らしにモンスター退治にきていた。
本当はダンジョンでやりたかったのだが、コロネの「駄目です」の一言であっさり却下された。
うん、まぁあそこ異界の女神が干渉できるらしいから入らないほうがいいのはわかってるんだけどさ。
やっぱりレアアイテムのロマンというかなんというか……そういうものがあるじゃん?
私はというと、二人の狩りをぼけーっと視ているだけだった。
まぁ、こっそりと【身体強化】のスキルの熟練度あげたり、手から足へとスムーズに動かせる訓練したりはしてるけど、基本視てるだけ。
私は適正レベルの装備のせいか、すぐに使いこなせたんだよね。
二人は『進化の腕輪』で無理やり適正より上の装備をしたせいで使いこなせていないのかもしれない。
リリとコロネはというと……いつもの感じでじゃれ合っているので、あれから二人なりのやり取りがあったのだろう。
二人とも大分コツをつかんだらしく、大分威力をセーブできるようになっているようだ。
最大威力をだすのは楽らしいのだが、威力を抑えるというのが難しいらしい。
すでにリリとコロネが暴れまくったせいでカルネル山のモンスターのレベルは100くらいまで下がっている。
動物愛護団体があったら苦情くるレベルの虐殺だよ。マジで。
これくらいの敵のレベルなら結界壊れても心配ないだろう。
「リリーコロネーそろそろ休憩したらどうだー?」
私が二人に叫ぶ。
今はPTは組んでいない。敵レベルが低すぎて、経験値も微々たるものだし。
「ネコーだいぶ使えるようになったー!」
ぴょんぴょんと岩肌を飛びながらリリが私に手をふりながらやってくる。
コロネも手を休め、こちらに向かっているようだ。
私がカンナちゃん作のサンドイッチとお菓子を広げると、リリが身を乗り出した。
「ね、ね 食べていい?」
クマさん形のシュークリームをキラキラした目で見つめながらリリが言う。
「コロネがここに来たらな。いま飲み物用意するから……」
私が言い終わるより先に、リリはぴょんぴょんと岩肌を飛び、コロネを持ち上げると、担いだたままダッシュで戻ってくる。
……うん。そんなにはやく食べたかったのかリリちゃん……。
△▲△▲△▲△▲△▲
「美味しいねー」
カンナちゃん作の料理をもぐもぐ食べながら幸せそうにリリが呟く。
「リリは本当カンナちゃんの料理が好きだな」
「だってカンナの料理 とっても おいしい。
カンナも この世界 来ればいいのに」
と、リリがサンドイッチを頬張りつつ言う。
「それはそれで困るかな」
と、私は苦笑いした。私だって来てくれたら嬉しいが、カンナちゃんは日本にいたいだろうし。
「じゃあ、リリが猫達の世界 行けたらいいなー」
「そうだな。自由に行き来できる方法が見つかればそれもいいかもな。
リリの好きそうなお菓子とかいっぱいあるぞ」
言って私はコロネに飲み物を手渡した。
「ありがとうございます」
言ってコロネが受け取り――
ぼとっ
飲み物を受け取ったコロネの腕がコップをもった状態でそのまま落ちる。
――へ?
ちょ、身体から腕とれたぁぁぁぁぁ!?
「ああ……どうやら魔力が高くなりすぎたせいで、義手が魔力の負荷に耐えられなかったようです」
と、腕がとれて動揺しまくってる私とは対照的にコロネは普通に落ちた右腕を拾い上げた。
よくよくその腕を見てみれば、精巧に作られているのは手首から上だけで、あとは作り物だとわかる作りの義手だった。
「え、もしかして腕って義手だったのか?」
「はい。他の部位は猫様に頂いた指輪の力で復元していたのですが、右腕だけは戻りませんでした。
あの紋章が何か関係してるのかもしれませんね」
コロネの言葉に頬が引き攣る。惨殺なリンチを思い出しまた吐きそうになる。
くそう、あのプレイヤー達絶対絶対ひどい目あわせてやる。
「最高級ポーション使ってみるか?腕も戻るかもしれないぞ?」
私の問いにコロネは首をふり
「いえ、指輪で治らなかったのならポーションでも治らないと思います。
それに義手は義手で便利ですから」
「便利?」
「この世界の住人はプレイヤーの方のように、杖などの媒体なしで魔法を使うことはできません。
ですから、この義手に杖のような機能もつけておりまして。
右手なら媒体なしでも、魔法を放つ事ができるのです」
「へぇ、そうなんだ……ん、まてよ」
ひょっとするとあれか、もしコロネに【並行思念】のスキルを覚えさせれば
左手に氷魔法 右手に炎魔法 発動させて、「残念だったな、両方の属性に対応済みだ」ドヤァ とか。
同じ魔法を同時に発動させてひとつにまとめて「油断したなこちらは威力が二倍だ」ドヤァ とかさせられるの!?
やばい!中二設定じゃん!もろ燃えるじゃん!!
私が「僕の考えた最強の設定」に一人燃えているとよほど顔にでていたのか
「ネコ また 何か変な事考えてる」
リリにジト目で言われる。
「強くなられる事に人一倍貪欲でいらしゃいますから。流石猫様!」
コロネが何を考えてるのか悟ったのか、フォローするが
「コロネが変態なのはシステムのせい。
ネコ 変態なの システム関係ない。
今日からキングオブ変態なのはコロネじゃなくてネコ」
と、リリからありがたくない称号をいただいてしまう。
「ええええキングオブ変態!?
いやいやいや、欲しくない!そんな称号ほしくない!」
「く、お譲りするのは悔しいものがありますが……
猫様になら致し方ありません。このコロネ、その称号をお譲り致しましょう!」
と、何故かノリノリでコロネものってくる。
やばい確かに、コロネのおかしくなるのがシステムのせいなら変態自分だけだわ。
反論できない。
い、いや断じて変態じゃないけど!!
うん……変態じゃないはずだ。
△▲△▲△▲△▲△▲
「流石にそれは無理だと思います」
私の考えた最強の魔法使い(キリッ)の設定を話すとコロネは手を顎にあてたポーズで否定した。
「並行思念を覚えても無理か?」
「問題が多々ありますが……一番の問題は、口は一つしかないということです。
詠唱ができません」
おおおおお!?そうだったーこの世界詠唱しなきゃ発動しないんだった!!
アニメや漫画は無詠唱が主流だったからすっかり忘れてた!!
「そ、そこはガッツでコロネが腹話術を獲得するしか!」
「ふくわじゅつ……?それはどういったものでしょう?」
無理ゲーとあっさり否定されるかと思ったが、コロネが質問してきた。
もしかしてこっちの世界腹話術は存在しないのだろうか。
「ええっと、口じゃなくてお腹を振動させて喋る……みたいな感じの術?」
「具体的にやり方はわかるのですか?」
「……。
まったくわからない
あれ、そもそも腹話術って声自体は結局口から声をだすんだったっけか?
どのみち覚えても無理かも」
「流石にそれでは……。ああ、でも面白い発想ですね。
口以外で言葉を発するという発想はありませんでした。
なるほど喉の振動を他の器官で行うということですね」
コロネはふむという感じで立ち上がると、
「猫様はその【並行思念】のスキルは取得済みなのですよね?」
「ああ、持ってる」
「では、一度、魔道具をつくる設備のある知り合いの家に行ってもよろしいでしょうか?
腕も治さないといけませんし。
猫様用の魔道具も思いつきましたので、作ってみたいとおもいます」
と、微笑むのだった。




