34話 復活の呪文
「あーいい湯だった。やっぱり久しぶりのお風呂最高ー」
ほかほかの湯気を漂わせながらお風呂からでて、リビングに戻ると、私を見たコロネが所在なさげに視線をさまよわせた。
うん?あれか。もしかしてこの世界、女は風呂上がりを見せたら破廉恥?とかいう、風土なのだろうか。
「コロネ なんで視線そらす?」
「もしかして、こっちの世界だと風呂上がり見せたらNGとかあるの?」
私とリリの問いに、コロネはため息を付きながら
「はい。貴族の間では、夫婦以外でそのような行為をするのはあまり好ましくありません」
意外にこの世界はシャイな人が多いのだろうか。
うん、まぁそういう問題じゃないんだろうけど。
服もちゃんとしたものを着ていても駄目らしい。
こういう細かい風習の違いも気を付けないとなぁ。
「了解。気をつける
そういえば、夫婦で思い出したけど、コロネって結婚してるの?」
なんとなく、聞いてみる。
ゲーム時では独身のはずだったが、あれからもう300年もたっているのだ。
もしかして奥さんの一人や二人いるかもしれない。
いるなら疑われるような事は避けないと。
私の問いにコロネはしばし考えた後
「たぶんですが、結婚はしていません」
「たぶん?」
また、ずいぶんとあやふやだな、と思ったが次のコロネの返事で納得した。
「記憶がない時期がありますので」
「ああ、なるほど。
コロネが記憶がない期間ってどれくらいなの?
一年、二年くらい?」
私の問いにコロネは少し沈黙したあと
「そうですね……
つい最近までは私は人間の友人などの変化から四、五年間の記憶がないのだと認識していました」
「今は違うの?」
リリがきょとんと小首をかしげる。
「はい、最近得た情報と魔王と女神の会話で考えがかわりました」
「どんな風に?」
今度は私が聞くと、コロネは押し黙って
「私の考えを述べる前に、猫様にお聞きしたいのですが。
猫様の世界の知識からすれば、この世界はどのような状態なのだと思いますか?」
逆に聞かれる。コロネにしては珍しい。
そして、私はなんとなく察した。
コロネがいま考えていることは……かなりよろしくない事なのだろう。
下手な返答をすれば、よけいコロネを落ち込ませる結果になるかもしれない。
「え、えーと。
ちょっと私も考える時間がほしいかな
そろそろ体も男に戻るだろうし
男の大きさの服に着替えておかないと」
曖昧に答える。うん、だっていきなり聞かれてもわからんよ!
ゲーム化しちゃった世界が元にもどっただけの話ではないのだろうか?
「ああ、そうでした。引き止めてしまって申し訳ありません」
そう、答えたコロネの表情は、残念というよりも、話が逸れてほっとした感じにも見えた。
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「これはまたすごい呪文書ばかりですね」
自滅牛のドロップした魔法書を前にコロネは感嘆の声をあげた。
武器を渡した時点で別荘破壊事件がおこってしまい、後回しになっていた魔法書をコロネに渡したのだ。
結局、あのあと男の姿に戻ったが、話を戻す事はなかった。
あれだけ真実が知りたいと、語っていたコロネが話を避けるくらいなのだから、今コロネの考えている推論はかなり後味の悪いものなのだろう。
よくよく考えれば、魔王の話だってかなり気になる部分があったにも関わらず、コロネは私に何一つ質問してこなかった。
疲れていただけかと思っていたが、もしかして、あの時点でなにか思うところがあったのかもしれない。
うん。私もちょっとコロネが何を考えてるかはわかる気がするんだよ。
なんとなく、その可能性はあるかなーと私も思っていた。
たぶん、恐らく、だけど――
コロネが本当はコロネ・ファンバードではない可能性があるということ。
よくある、オリジナルから記憶をもらっただけのレプリカ。
世界は一度滅んで、よく似た世界を作り、一度滅んだ世界の人間のレプリカをゲームの世界に再び作った。
アニメや漫画、ゲームなどではわりとよくある展開だ。
コロネが議論すら嫌がるということは、恐らくそういう後味の悪い推論なのだろう。
どうせここで議論したところで真実はわからないのだから、ここはスルーしておいたほうがいい。
たぶんコロネもそういう結論なんじゃないかな。
また新たな事実がでてくれば、答えは違うものになるかもしれないのだし。
チラリとコロネを見やれば、真剣に呪文書を確認している。
「復活の呪文までありますね……これで石化している者達も生き返らせる事ができるでしょうか?」
うん、そういえばそんな話もあったね!ごめんね、人の生死に関わることなのにすっかり忘れてた。
「石化を解けばいけると思うけど、今から行ってみるか?」
「はい。猫様がよろしければ。
家族も毎日石像に祈りを捧げていると聞きますので」
「リリも いく!」
結局、風呂上がりにも関わらず、また三人で出かけることになるのだった。
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「生き返った兵士さん達 凄く 引いてた」
リリがジト目でコロネを見ながらつぶやく。
結局あのあと。神殿に祀られていた、兵士たちの死体の石化を解除し、復活の呪文で生き返らせたのだが……。
生き返った兵士や家族にお礼を言われると、生き返ったのは猫様のおかげです、さぁみんなで崇め奉りましょうとテンション高くコロネが演説しはじめたのだ。
あまりのテンションぶりに
「コロネ様の双子のご兄弟か何かですか?」
と生き返った兵士の家族に真顔で聞かれたほどである。
どうやら彼らの知るコロネとあまりにもキャラが違ったらしい。
「だ、大丈夫です。
既に生存していた兵士達からもかなり引かれていました!」
と、苦し紛れなのか、わけのわからないフォローを自分でいれる。
うん、もうこれ完璧駄目な方のコロネだわ。
つーか、この子はなんでこうもキャラが変わるのだろう。
初めからこういうキャラかと思ったが、神殿にいた神官や兵士達の話を総合すると、冗談のじょの字も言わないキャラだったらしい。
リュートもそんなような事言ってたし。
実は何か変な魔法にかかってるとかないよね?
リリがはぁっとため息をつくと
「コロネ 重症 これ治らない」
と、つぶやく。
「まぁ、コロネは変態だから仕方ない。
それよりもそろそろ夕飯にしようか。
リリは今日何食べたい?」
リビングのソファーに腰かけて、リリに尋ねればリリもぼすんと腰を下ろして
「ネコが用意してくれる食事 お菓子みたいに 美味しい?」
と、ニッコニコで尋ねる。
「カンナちゃんが作ったやつだから全部美味しいと思うよ」
「いいなー リリもカンナ 会いたい」
「カンナちゃんはこっちの世界に来てないからなぁ……。
会えれば、面倒みのいい子だからきっと気があうとおもうけどな」
その私の言葉に、何故かがばぁっとコロネが立ち上がると
「ああ、カンナ様ですね!そのお姿は見目麗しく、可憐にて清純それは野に咲く花と例えてもおかしくないプレイヤーの鏡ともいえる……」
と、手を大仰に掲げ……停止した。
「コ、コロネ……?」
いきなりカンナちゃんを褒め称えだしたコロネに私とリリがドン引きするが、コロネはポーズをそのままに引きつった笑顔で
「……猫様……リリ様……私やはりどこかおかしいのでしょうか?」
と、尋ねるのであった。




