33話 お風呂
「あーーー!! また落ちたーー!!」
家庭用ゲーム機片手にリリが悲鳴に近い声をあげた。
結局あのあと、コロネは本を読みふけり、リリには家庭用ゲーム機の説明をしてあげたのだ。
リリがやっているのは赤い帽子のおじさんの例のゲームである。
最初はおそるおそるプレイしていたリリも大分慣れてきたらしく、なんとかステージをクリアできるようになっていた。
「むぅ、これ難しい。 ネコ よくクリアできる」
ぷぅっと頬を膨らませて呻く。
「いや、ゲーム初プレイでそんな短時間でそのステージまで行けるリリの方がすごいと思うぞ?」
私の言葉に先程までのふてくされた顔をにっこりさせて
「えへへー リリ ほめられた!」
と、嬉しそうにくるくる廻る。こういうところ見ると本当に子供なんだなぁと実感する。
「そういえばリリ、自分は侍女さんたちに家の説明に行ってくるけどリリはどうする?」
「りり、もうちょっと やってる! ネコより進めるようになる!」
と、ソファーにそのままダイブし、寝っ転がったままポチポチとゲームをはじめる。
うん。どこからどう見ても現代っ子です。まぁ、楽しそうで何より。
次に私が侍女さんたちが待つ部屋へと向かった。
侍女さんたちはとくにやることがないせいか、所在無さげに椅子に座って私を待っていたようだった。
うん、そりゃ勝手がわからなきゃ動き用がないものね。悪いことしたなぁ。
私は四人に、それぞれの部屋の説明と、侍女さん達がつかっていい部屋などを案内する。
その後はキッチンと風呂などの使い方だ。
キッチンの使い方を教えるといちいち驚きの声があがった。
そりゃ、IHコンロやら電子レンジやら冷蔵庫やら完備だしね。
しかも電気や水はどこからくるのか不明だけれど使えるし。
次にお風呂を説明して――ふと気づく。
そういえばコロネの家は風呂なかったな。
変な魔法陣の上に乗ると、服も体も綺麗になるという便利魔道具があっただけだ。
てか、あっちも便利だったけど、あれは手に入るのだろうか?
私が疑問に思い、年配の侍女に聞くと
「ああ、あれでしたら、コロネ様が作った魔道具です。
コロネ様に頼めば、すぐに作っていただけると思います」
という事だった。
なんでも、風呂に入る時間がもったいないとかで、開発したとか。
この魔道具、人間領にも普及しており、部品の一部がコロネしか作れないため、それを売って大分儲けているらしい。
ああ、どおりで現在無職のわりには金持ちっぽいなとは思ったんだよね。別荘とか。侍女さん雇ってるとか。
にしてもやっぱり、日本人としてはお風呂に入りたいな。
湯船につかると、疲れのとれ具合が違うよね!
今日はリリちゃんと一緒にお風呂に……
……って、私男やん!??
うおおお!?わーすれてーたー!!
ゲームでは風呂にはいろうとすれば勝手にタオル巻いてくれるけど、リアルだからそうもいかなくね!?
そうだよ、トイレも風呂も必要なかったから忘れてたけど!!
いーやーーー幼女と風呂とか犯罪じゃないか!?
ああああ、私なんで男キャラにしたし!?
素直に女キャラでやっときゃよかったぁぁぁぁ!!!
ああ。風呂とかどうしよう……入りたいけど入りたくないような……。
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「どうかなさいましたか?」
侍女さんたちに説明を終え、リビングに戻りぐったりとしている私にコロネが心配そうに訪ねてくる。
ちなみにリリはゲーム機をもったままソファでスヤスヤと寝息をたてていた。
「いやぁ、何でキャラクター男にしたのかなと……」
「何か問題でもあったのでしょうか?」
「風呂」
「……はい?」
「男キャラじゃ、風呂に入れないっ!!」
「……?
魂と別の性別だと水に浸かれないなどの制約でもあるのですか?」
と、意味不明な疑問をぶつけてくる。
ちょ、なんでそういう発想なのかな!?
「じゃーなーくてー
裸にならないとだろうっ!!」
「はい?それが何か問題でも?」
うおーこいつ鈍い!!別の事ならキレッキレッのくせに!
女の子がモロアピールしてくるのに気づかない鈍感系主人公か何かかお前は!!
「逆に聞くが、コロネは女の身体になったとして裸になれるのか!?」
問われ、一瞬考えるポーズをとったあと、耳たぶまで赤くして
「そ、そうですね。すみません。失念しておりました。
しかし、嫌でもなってしまったからには慣れる必要もあるかと」
わかってる。頭でわかっていても嫌なものは嫌なんだから仕方ない。
つい、ぶすっとした顔になってしまう。
「困りましたね。
いくら身体が男性とはいえ、魂が女性の猫様の着替えを私が手伝うわけにもいきませんし。
メイド達に頼みましょうか?」
「それも嫌だ」
私は即答する。だって女の人に男の身体見られるのも恥ずかしいじゃん。
「そうですね……では、猫様は性別転換の腕輪は持っていらっしゃらないのですか?
先ほどお借りした手引書にのっていましたが」
コロネの言葉に私は立ち上がった。
そうだ!それがあった!
一日1時間(ゲーム時間)だけ、性別を男女逆転できるネタアイテム!!
毎年エイプリールフールになると貰える、イベント配布アイテムだ。
使うことなんてなかったからすっかり忘れてた!
「ある!それだ!流石コロネ!」
私は早速アイテムボックスから性別転換の腕輪をとりだすのだった。
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「おーネコ 魂と同じ感じになった」
女の姿の私を見て、リリがぽつりと感想を漏らす。
ふふふ、まぁ元々男キャラのキャラメイクが自分をスキャンしたあと、男女逆転させて美形化しただけだしね。
まぁ現実より大分美形化されてはいると思うけど、感じは似てるだろう。
「ふふふ。やっぱり女の姿の方がいいね。お風呂に入れるって素晴らしい!」
「お風呂 これ? このお湯の中に入ればいいの?」
リリが湯船を覗きながら聞いてくる。
「その前に身体あらわないとダメだよ。
リリ、ボディソープとか使ったことある?」
「ない!」
何故か元気いっぱい、嬉しそうに手を上げて答える。
うん、素直でよろしい。
「じゃあ、私が洗ってあげるから。そこに座って」
「はぁい」
リリを座らせると、スポンジにボディソープを泡立たせ、リリを洗ってあげる。
「ネコー なんだかくすぐったい」
「我慢我慢。次は髪の毛洗うから目つぶっててね」
ごしごしと髪の毛を洗ってあげるとリリが「うううう」と意味不明な悲鳴をあげる。
「うーまだ?髪の毛濡れる やだー」
と、駄々っ子な事をいう。
「すぐ終わるから」
そう言って頭からシャワーをかけると、両手で顔を抑えて顔が濡れるのを必死に防ぐ。
なんだか仕草が可愛らしい。
「はい。出来上がり」
シャンプーを髪から落とし、私が言うと、リリはぎゅっと目をつぶったまま
「顔濡れてるーいやだー拭いてー」
と、目をつぶったままアワアワしていた。
私がタオルで髪の毛と顔をワシワシと拭いてあげると、リリはがぷはぁっと息をして
「お風呂楽しくない」
と、涙目でつぶやいた。どうやらはじめてのシャンプーは少々きつかったようだ。
顔を濡らす練習からしたほうがよかったのだろうか?
子供の相手をしたことがないので、今ひとつ勝手がわからない。
いきなりシャンプーはハードルが高すぎたかなとちょっと反省する。
「ごめんごめん。もう終わりだから。
私も身体洗ったら湯船にはいるから、リリ先に入ってる?」
リリはブルブルと頭をふって、私の横にちょこんと座る。
おぅ、リリちゃんのファーストお風呂失敗してしまったかもしれない。
お風呂嫌いになちゃったかなー。せっかく女になれたのに一緒に入れないとかちょっと寂しい。
などと、考えながら身体を洗っている間、リリはボディソープを嬉しそうに泡立てて遊んでいた。
私がシャンプーを終えるころにはすっかり、泡でつくったうさぎなどの泡アートがそこらじゅうにできあがっていた。
「いっぱい作ったねリリ。上手上手」
と、私が褒めると
えへへーと頬を赤らめ
「お風呂楽しい」
と、にっこり微笑んだ。
……うん。子供って切り替えがはやいのかもしれない。




