2話 ホワイトドラゴン
夢を見た。
それはいつも同じ事の繰り返し。
神殿の中に佇む自分。そして対峙するプレイヤー達。
まずプレイヤー達に先に攻撃させた後、自分の攻撃の番がくるという今考えれば奇妙な戦いだった。
プレイヤーが攻撃してくる間、自分は棒立ちで、その攻撃を食らわないといけないのだ。
何故避けなかったのか。自分でもわからない。
だが、当時はそれが日常であり、自分の仕事だったのだ。
仕事はプレイヤーに倒される事。
プレイヤー達に自分が殺されたとしても、10分後には何事もなかったかのように復活し、再び別のプレイヤーと対戦する。
何の疑問もなく、毎日その作業を繰り返していた。
しかし、ある時ふと、プレイヤーと呼ばれる人間達が来なくなった。
毎日のように「レアアイテム」と呼ばれるアイテムを狙ってくる、プレイヤーがぱったりと来なくなったのだ。
何故だろう……?
私はそれに疑問をもった。
そして、同時にプレイヤーと戦うという事以外、何も考える事の出来なかった自分が思考をもったことに気づいたのだ。
そう、私は開放された――この世界のシステムから
私が生まれた瞬間だった。
「うどぁぁぁ!?」
そこで、私は目を覚ました。
どうやら急激なレベルアップに精神が耐え切れず、気を失っていたらしい。
うん、なんか今夢見てた。
ホワイトドラゴンに意思を送られたせいか、何故か彼女の過去の記憶が見えたようだ。
ホワイトドラゴンが相手をしていたプレイヤーに何人か見知った顔がいた。
動画でよく実況をしていたプレイヤーでガイアサーバーでそこそこ有名な人だった。
……と、言うことは、これは私がプレイしていたVRMMO『グラニクルオンライン』の未来の世界なのだろうか?
ホワイトドラゴンの方を見やれば、既に目を閉じぐったりとしている。
うおぅ!?やばい!?回復しなきゃ。
私は一旦考えるのを中断し、ホワイトドラゴンに近づくと、最高級ポーションを取り出す。
ドラゴン相手に人間用の量で足りるのかは不明だが、今はこれに頼るしかない。
「回復薬だ、苦しいかもしれないが飲んでくれ」
言って、無理やりに口を開けると、ホワイトドラゴンの口のなかにポーションを流し込んだ。
ホワイトドラゴンは私の方を一瞥し、目を細めたが、素直になすがままにされている。
途端
シュゥゥゥゥ
音をたてて傷口がみるみる回復していく。
よく見ればホワイトドラゴンが淡白く光っている。
うん。よかった。効果はあったらしい。
とりあえず、様子を見て、足りないようならポーションをもっとあげればいい話だ。
最高級ポーションはゲームでも滅多に手に入らない品物だが、私は周りが引くくらいの量を持っている。
友達が錬金術のスキルを90から100に上げるのに、大量に最高級ポーションを作らなければ、ならなかったため、私もいろいろ手伝った。
そりゃ、もうドラゴンの血採取とか、キマイラの唾液採取とか。
その時作ったポーションの半分を譲り受けたため、アイテム欄いっぱいの99個もっているのだ。
しかし、ドラゴンの血で作ったポーションでドラゴン回復させるとか、人道的にいいのか?
間接的な共食い?
そんな事を考えていると、ホワイトドラゴンが口を開いた。
『…ア…リガトウ……』
うお、喋れるのか!?
「痛みはまだあるか?
まだ痛むようなら回復薬を追加するから言ってくれ」
と、イケメン声で私は答えた。口調は相変わらずの男言葉だ。
キャラにあわせて自動で口調を変えてくれる機能はゲーム外のこの世界でも有効らしい。
そこらへんはありがたい。この男顔で女口調とかまじ耐えられない。主に私が。
でもまぁ、声もゲームの時のままなのか。
こんなイケメンが、女声だったら、そっちの方が困るけど。
ドラゴンはしばらく、私を見つめたあと
『……オコッテ ナイノ?』
聞いてくる。
……うん?何を?
「……怒る?何に?」
本気でわからなくて聞き返す。
高級なポーションを使わせてしまった事に責任を感じてるとか?
……だとしたら、なんて遠慮深いドラゴンさんなのかしら
『……ワタシの セイで コノセカイニ ショウカン されタ』
ああ、そうだった。やばい素で忘れてた。
「ああ、その事か。
まぁ、怒っていないかと言われれば嘘になるが……
ワザとではなかったんだろう?
予想外の事だったらしいし。
不慮の事故を責めてもどうしようもない」
それに、あの時。ごめんねテヘペロ♪などと訳したが、実際はとても申し訳ないという、気持ちが送られてきていた。
だからこそ、自分だけでなくこの子も守りたいという気持ちになったのは間違いないだろう。
『……アリガト…ウ』
ホワイトドラゴンが安心したかのように、目を閉じる。回復に専念するらしい。
見た感じ、傷もだいぶ治ったし、大丈夫かな?
そういえば、この子はまだ【鑑定】してなかった。
私は鑑定のスキルを使用する。
□□□□
[種族]ホワイトドラゴン
[名前]リリ
[レベル]400
□□□□
てか、レベル400か。
私の時はまだゲームはレベル200までしか開放されてなかった。
リリのいたであろうエリアは未知の世界扱いで行くこともできなかったし。
もちろん、ホワイトドラゴンも実装されていなかったのだ。
となると、やっぱりあの時見た夢は、未来の世界で、この世界はゲームの世界が何故か、現実になってしまった世界……という事でいいのだろうか?
まぁ、いろいろ妄想することはできるが、誰かが答えを教えてくれるわけではないので、とりあえず、ゲームの未来の世界に来てしまったと仮定しておく。
リリも、私を元に戻す方法も、何故この世界がゲームのシステムから外れ、意思をもったのかまではわからないらしいので、聞いても無駄っぽいし。
「さて、リリ。自分はこの山を降りるけどリリはどうする?」
リリが送ってくれた思考によれば、ここはゲームでは未実装地域だった、カルネル山脈あたりっぽい。
ゲームではこの山脈はエルフ達によって守られた神々の結界が張られていて、凶悪な魔物は山脈からでられないはずだ。
エルフの森を抜ければ人間の魔導士達の住む砦だったはず。
とりあえず、安全地帯であるトルネリアの砦まで戻りたい。
私もさすがにレベル1200の魔物が闊歩する危険地帯でくつろぐ勇気はないからだ。
【闇の女神の涙】もあと一回しか使えないので、また高レベルの魔物に遭遇したら確実に死ねる。
元の世界に戻る方法を考えるにしても、一度安全な場所で落ち着きたい。
「……アノ、リリ……アなたト イッショ イッテいイ?」
リリが申し訳なさそうな瞳で見つめてくる。
さかドラゴンから オ・ネ・ガ・イ とかされる事になるとは夢にも思わなかった。
「確かに、ここにリリを残していくのは危険だな。
レベル400では古代龍には太刀打ちできないだろうし。
……でも、今まではどうしていたんだ?
ここで暮らしていたんだろう?」
「…イママデ、ココニ アンナ ツヨイ テキ、イナカッタ。
……キュウ、ツヨイ テキ デテキタ
ココ、キケン ナッタ リリ レベル デハ イキテ イケナイ
ソレニ……」
そこで、リリは言葉を飲み込んだ。
うん、何となくわかった。
リリにも責任があるから私が元の世界に帰る手伝いをしたいという意思が伝わってくる。
……っていうか、ひょっとして、まだリリと私の思考は繋がっているのだろうか?
リリの心が読めてしまう。
「……ゴメン マダ スコシ ツナガテル
アノトキ セツメイ マニアワナイ オモッタ
ダカラ ココロ ツナゲタ
デモ モウジキ ツウロ トジル」
「なるほど
まぁ、リリが私の思考をどれだけ読んで、何を知ってるか聞きたい所だが
とりあえず、今は一緒に山を降りよう」
「イイノ?」
「構ないよ。まぁ、街の中には大きさ的に連れていけないから、
外で待機してもらうことになるかもしれないが」
「…オオキイ ダメ?」
「ダメと言うわけじゃないけが
恐らく、街中を歩くだけで建物を破壊しまくることに……」
「ダッタラ チイサク なる」
言って、リリは咆哮を上げた。
ドラゴンにとってはこれが魔法の詠唱なのかもしれない。
ぽぉぉっと、リリの身体が柔らかい青い光に包まれたあと……
今までそこにいた白いドラゴンが消え、そこには銀色の髪と瞳の可愛い少女立っていた。
うん。ロリっ子だ。
何かの小説で、仲間になったドラゴンは確実に幼女化するものだ!それがロマンだ!ついでに義務だ!などと書かれていたのを思い出す。
なにそれエロゲ脳?と思ったが、本当にドラゴンとやらは幼児化するのが義務らしい。
うん。これで中身が見た目と同じ男でロリ趣味なら大喜び……したかもしれないが、中身女なので、流石にリリたん萌!!!とかにはならないが。
庇護欲は確実にそそられるよね、これ。
そして、少女ことリリは微笑んだ。
「ヨロシクネ カエデ」
……どうやら、私の個人情報はリリに筒抜けらしかった。