32話 攻略本
「流石猫様!一瞬で屋敷を完成させるとは!?
いままでプレイヤーの情報を集めてきましたが、このような話は聞いた事がありません!」
瞳をキラキラさせながら、コロネが完成した洋館を眺め、感嘆の声をあげた。
……あかん。ちょっと前のコロネなら「猫様、何かするなら先に説明をお願いします」などと頭を抱えていただろうに、これだよ。
完全に変態の方のコロネに戻ってる。
「コロネ また 変態にもどってる」
同じ感想だったのか、ジト目でコロネを見つめるリリと、それに頷く私。
コロネはハッとした表情になったあと、肩を落とし
「も、申し訳ありません。
気を付けているつもりなのですが、こう……いい知れぬ高揚感に包まれるというか、夢見心地になるというか……」
「言い訳駄目!」
「は、はい、以後気を付けます」
リリにびしっと指さされ、コロネがぺこぺこ頭を下げる。
幼女に怒られる300歳すぎたおじさん。うん、ちょっと情けないかもしれない。
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「所で猫様、前々から思っていたのですが……
猫様はプレイヤーの中でもかなり特別な存在だったと考えてよろしいでしょうか?」
洋館に入り、倒れた侍女さんをベットに寝かせ、一息ついた所でコロネが訊ねてきた。
「特別?どういう意味での特別だ?」
「以前お聞きした所持金といい、この屋敷といい、他の召喚されたプレイヤーの情報と比べても抜きん出ているといいましょうか……」
「コロネ、ネコ ガチ廃人。
ゲームにすべてをかけてる
だから 他の人より すごい」
「ああ、なるほど」
リリの答えにコロネがあっさり頷く。
おぉい。お前たちの中で私はどういう評価なんだよ!?
……いや、まぁ間違ってはいないんだけどさ。
「まぁ、確かに他のプレイヤーよりゲーム通貨は持っているかな」
レアドロップ運もよかったし、何より人口の少ないサーバーでやってたからボス待ちもなかった。
そのくせ、プレイヤー同士の売り買いを仲介してくれるマルティナ商店は、ガイアとアテナ共有だったのだ。
おかげでガイアサーバーの小金持ちプレイヤーがたくさん買ってくれたので、ゲーム通貨はたくさん手に入った。
プレイヤーの金くい虫といわれ一番金のかかるPvPも「瞬間移動と罠がチート級だから参加禁止」と、参加お断りされたので金の使いどころがなかったのだ。
そのため所持金は増えていく一方だったのである。
「ではこの屋敷はどういうものでしょうか?やはりスキルで作成したのですか?」
コロネの問いに、説明がむずかしいなぁと考え、思いつく。
そうだよ!?これ私の家なんだから丁度いいものがあるじゃないか!
「ちょっと待っててくれ」
私は言って、館の中の自分の部屋に行き、本棚の中からある物を持ち出す。
そう、このゲーム『グラニクルオンライン』の攻略本だ。
そうだよ!もっと早くにこれに気づけばよかった。
このゲーム、リアル世界の企業ともタイアップしてたりしたので、現実世界でお金をだして商品を買って、付属しているシリアルコードを入力すれば、なんと現実世界の商品がゲームの家の中だけなら持ち込めたのだ。
最初はこのような機能はなかったらしいが、VRゲーム友だちとプレ●テやらSwi●ch したいだの要望が多くなり、自分の家の中だけなら……とタイアップしてる企業の商品ならゲームの中で遊べるようになった。
VRゲームの中で家庭用機ゲームするとか、なにそれ状態だが、これが意外に好評で、売上が上がるとタイアップ企業も増えていたのだ。
この本もその中の一つである。
カンストレベルが100の時の攻略本なので、それから多少仕様は変わっているが、これを見ればコロネも大体の事はわかるだろう。
そういえば、この本、レベル100のレイド戦『セファロウスの復活』も特集が組まれてた記憶がある。
コロネの事も何か書いてあるのかな?
本の最後の方の裏設定集とやらのページをめくり、私は読み進め――
パタン。
本を閉じる。
うん。書いてありましたとも。
やばい、コロネが隠したかった前国王との確執の話もご丁寧に書いてあった!
ごめんよ!見ちゃった!これは不可抗力だよ!
てか、本人隠したかった事が全世界に発信されてたとか、本人可哀想すぎるでしょう。
私で言えば、オタク時代の黒歴史を全世界に発信されたようなものだし!!!
いや、微妙……というか、かなり違うか。
それはともかく。
私はバレないように、キャラクターの裏設定のページだけを丁寧に本から外した。
流石に本人の情報がダダ漏れしてましたとは、伝えにくい。
私は本を手にとり、その次に棚にしまってあった、携帯型家庭用ゲーム機をとりだす。
レベル上げやらレア堀ばかりしていたので、あまり家庭用ゲームに関心がなかったため、2個くらいしかソフトはないが、リリが遊べるといいなぁ。
まぁ、こっちの世界の人からしたら、家庭用ゲーム機とかつまらないかもしれないけれど。
他にも漫画本などリリが遊べそうな物を数点もちだし、二人の待つ居間に戻った。
私が荷物をかかえリビングに戻ると、侍女さんとコロネが何やら話あっていた。
「どうした?」
二人に尋ねると
「ああ、猫様申し訳ありません。
食事の用意なのですが……エルフの集落には食堂というものがありません。
自給自足が基本でして……。
こちらの台所を使わせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない……けど」
よく考えたらここのキッチンIHなんですけど。
や、西洋風ゲームでそれはどうよって運営がツッコまれまくったが、結局使うのは現代の人間なので、マキで火を起こせとか面倒なことをしたいわけがない。
まぁ、イメージを崩したくないって人は普通に昔の釜戸やらあるキッチンもあるのだが。
うちは、大体カンナちゃんが料理担当だったので、カンナちゃんがやりやすいようにIHを導入していたのだ。
「もしかしたら使い方がわからないかもしれない。
食事は自分が用意するから、侍女さんたちには休んでもらっておいてくれ。
リリに説明したいものもあるし」
「わかりました。
所で、猫様、別の建物が手配できるまではこの家にそのまま彼女達も住まわせてもよろしいでしょうか?
ほかの場所を手配しておいた方がよろしいですか?」
「ん?この家はコロネにあげるつもりだから好きにしてくていい。
私物はそれほどないからあとで処分しておくし」
「いえ、しかし、このような立派な屋敷をいただくのは……」
「まだ、このスクロールは15個あるから心配しなくていい。
それよりも、コロネ、これ」
言って、私は攻略本をコロネに差し出す。
「……これは?」
「このゲームのプレイヤーの手引書とでもいうのかな?
この家の事とかコロネが知りたい事がたぶんここには書かれているとおもう」
「拝見させていただきます」
言ってコロネは真剣な面持ちで本のページをめくるのだった。




