31話 防御壁
「むぅ。ネコ 昨日 起こしてくれてもよかったのに」
次の日。コロネの家の食堂で、リリがぷぅっと頬を膨らませながらそう言った。
リリの隣にはコロネ。その後ろには食事の配膳をする侍女の姿がある。
「悪い、悪い。あまりにも気持ちよさそうに寝てたから起こすのも悪いと思って」
私が食事をナイフとフォークで切り分けながらいうと
「むぅ ネコ リリたち寝てる間 どうせ狩り行った リリも いきたかった」
大分使い方のうまくなったフォーク片手にリリがむくれる。
てか、リリちゃん。何故私が狩りに行ってたと決めつけるのかな?
「ん?狩りなんて行ってないぞ。
昨日は大人しく部屋で荷物整理してただけだ」
私の言葉に何故かリリと、その隣で食事していたコロネの時が止まる。
「……」
「………」
しばしの沈黙。
――そして。
「えええええ!? ネコ 狩りいかない!?
大丈夫!? 熱ある!?」
「猫様!?どこかお加減が悪いのでしょうか!?」
二人一斉に身を乗り出して訪ねてくる。
ちょ!?何その反応!?
私が家にいたらいけないわけか!?
「――おぃ。
お前ら人の事をなんだと思ってるんだ」
「歩くモンスター殺戮兵器」
うん、何それ酷い。
「神が遣わされた、美麗なる使徒にして、毅然たる勇者――」
と、まだまだ何か言ってるが、やらた長い賛美を延々と述べるコロネ。
つかお前は長い。しかもわりと適当。
「あのなぁ。
狙われてるとわかってるのに寝ている二人を置いて、狩りなんて行くわけないだろう。
何かあったらどうするんだ」
「むぅ たしかに」
「それでも猫様ならきっとやってくれると!!」
くっ、コロネ。
お前は私に一体何を期待してるんだよ。
体力が回復したせいなのか、エルフのお偉いさん効果が切れたのかは知らないが、また駄目な方のコロネに戻りつつある。
一回エルフの王様の所に連れてって真面目コロネに戻してきたほうがいいのだろうか。
まぁどうせ黙っててもエルフの大神殿に行くときには腹黒王子あたりがこっちに来るだろうからその時でいいか。
「とにかく、この間のダンジョンで結構いい武器・防具が手に入ったから食事が終わったら渡すから
それと、今日も出かける予定はないのでゆっくりしててくれ」
私の言葉に、リリとコロネの二人は顔を見合わせて――
「やっぱり どこか具合 悪い?」
「医者を手配いたしましょうか?」
と、心底心配そうな表情で聞いてくるのだった。
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「見て 見て ネコ これすごい!
大きくなったり小さくなったりするよー!!」
新しく装備した武器を鍵爪状にしたり篭手状態にしたりして遊ぶリリ。
早速リリとコロネにレベル900装備の武器防具を渡したのだ。
ちなみにリリとコロネはまだレベル800台なのでレベル900の装備はできない。
なのでリリとコロネの腕にはもちろん進化の腕輪が輝いている。
コロネも興味深そうに進化の腕輪を装備し、渡した指輪を眺めていた。
「使い心地もあとで試さないとな」
私が言うとリリが嬉しそうに頷き
「うん!試したい!」
言って敵を倒すポーズを真似しようとしたのか 軽く鍵爪を振り――
ずががががががが
鍵爪の風圧が、天井を切り裂いた。
「「「はぁっ!?」」」
思わずあがったすっとんきょんな声が三人でハモる。
そりゃそうだ。何気なしにふった鍵爪の風圧だけで建物が壊れたのだ。
がらがらと崩れ落ちそうになる天井を見上げ
「くっ!!『防御壁!!』」
コロネが私達――というより、後ろに控えていた侍女達を守ろうとし、魔法を発動した。
途端、光の壁が私たちを包み込み……
ぐわしゃぁぁぁぁぁ!!
物凄い爆音とともに。 はじけた。
そりゃ盛大に建物が吹っ飛んだ。
もともと天井から侍女を守ろうと放った魔法だったため、展開された魔法の壁が、天井や壁なども敵と認定し、弾き飛ばしたのだろう。
以前そこに建物のあった場所は、食堂のテーブルと椅子だけを残し――あとは跡形もなく消し飛びきれいに野ざらしとなっている。
ひゅう〜
野ざらしになったおかげか、そよ風が心地よい。
え、えーっと……。
チラリとコロネを見やれば、魔法を使った本人が一番呆然とした表情をしている。
「え、えーと ネコ」
リリがおずおずと私の名を呼び
「武器の威力 凄すぎ……
練習しないと 使えない……」
リリの言葉にコロネも黙ってコクコクと頷くのだった。
△▲△▲△▲△▲△▲
「さて、どうしたものか」
食卓と椅子だけ残して野ざらしになったコロネの別荘を見て私がつぶやいた。
侍女達は全員後ろに控えていたため無事だったので被害は建物だけである。
コロネが大きくため息をついて
「こうなってしまっては仕方ありません。私のミスです。
エルフの集落には、宿などはありません。
カルネル山からはやや遠くなりますが他の集落にある私の家に行きましょう」
と、提案する。
「これ、リリのせい コロネごめん」
しゅんとするリリにコロネが微笑えんで
「いえ、吹き飛ばしたのは私ですから。
本来私が使った魔法はこんな効果はないはずなのですが……。
魔力があがったせいでしょうか?それとも頂いた装備の効果でしょうか?」
と考え込む。
「そういえば魔力が22000超えると付加効果がつくってどこかで言われていたような」
私の言葉にコロネが眉根をよせて
「22000……信じがたい数字ですね……
あまりにも短時間で急激にレベルが上がりすぎたので実感がわきません……」
ぐったりと項垂れる。
それはともかく、問題は家だよなぁ。
私はアイテムボックスから洋館をつくるスクロールを取り出した。
ゲーム内では課金すれば、土地が借りられる。
その土地にやはり課金で買ったスクロールで好きなだけ建物を建てる事ができるのだ。
城から館、ログハウスなど種類はいろいろあり、土地の大きさによって課金額は異なる。
城が建てられる土地となると、月々10万もするのだ。
私が借りていた土地は丁度コロネの別荘と同じくらいの大きさで、月々1万だった。
たぶんこの洋館のスクロールなら丁度いいはず。
「コロネ、家なら自分が建てられるけど、建ててみてもいいか?」
「……猫様が今からですか?」
「まぁ、みててくれ」
テーブルと椅子を片付けると私はスクロールを土地の中心に投げた。
ぼんっ!!
音とともに、洋館はその場で完成した。
以前あったコロネの別荘は平屋建てだったので、三階建ての建物は以前よりかなり大きい。
その洋館が一瞬でででんとその場に現れたのである。
「わーすごい! ネコ これどうやったの?」
無邪気に喜ぶリリ。それとは対照的にコロネと侍女のエルフ一同は唖然とした表情で館を見つめ――侍女の一人が卒倒した。
うん。ちゃんと説明してからやったほうがよかったのかな……なんかごめん。




