29話 魔素溜
『所でコロネ、一つ聞いていい?』
『はい?なんでしょうか?』
『魔王にしてもコロネにしても、人間領にいるプレイヤーの評価がひどすぎる感じがするけど
……そんなに酷いの?』
私の問いにコロネはさらにげっそりとした表情になり
『なんといいましょうか……
あまり同郷の方を悪くいうのはどうかと思い話しませんでしたが 酷かったです。
私も危うく奴隷にされるところでした』
『ど、奴隷!?
てかこの世界にも奴隷あるの?』
ゲーム中ではそんな制度見かけた事ないのだが。
『いえ、ありませんでした。
元々人間の国の戦争は平民にとっては偉い者達が勝手に揉めている程度の感覚なのです。
平民は、国王が変わればその国王に税を収めればそのまま普通に生活できましたから』
『え、他国を侵略して、その国に自分の国の領民を連れてくるとかないの?』
『少なくとも以前はありませんでしたね。
元々この世界は人間の生きられる範囲が狭いですが――普通に生活していても死亡率が高いですから。
自国を潤すのが精一杯で、他国に移住させるほど人口がおりません。
下手に移住させれば自国の管理が不届きになり、自国が魔素溜になって住めなくなる可能性があります。
逆もまた然りです』
『魔素溜?』
『はい。人間やエルフなどが住まなくなった地域は一定時間経つと魔素溜ができてしまい、そこから魔物が生まれるようになります。
そうなってしまえば、もうその地は人間の住める土地ではなくなるのです。
無理やり住もうとしても一度魔素溜になった場所は家の中にも魔物が沸きますから。
ですから、人間にとって一番重要なのは人間の住める領土を減らさない事なのです。
平民だけではなく、騎士など戦力になるものは国が敗れてもそのまま新しい国に仕えることになります』
『え!?騎士も!?』
『はい。戦力がなければ魔物から街が守れません』
『え、でも反乱とか心配ないの?
捕虜とか扱いじゃないの?』
『基本勝負がつくまでは捕虜扱いですが、その国の国王が殺され勝敗がつけば解放されます。
ですから捕虜だからといって、無下には扱われません。
こちらの世界では、前の王に忠義が厚かったものほど新たな国でも信用がおけると重宝されています』
『えええ。流石にその価値観はどうかと……』
『そうでしょうか?
残った騎士達をも殺してしまえば、その領地の防衛が立ち行かなくなります。
せっかく軍を率いて領土を手にいれたのに魔物に襲われて魔素溜になってしまっては侵略した意味がないと思いますが』
『え、いや、それはそうなんだけど。
なんていうか騎士の方は前の国王に対する忠義とかそういうのはないの?
今日から新しい国王になったよー! しかも仕えてた国王殺しちゃった人だよ!
なんてそんな簡単に受け入れちゃうもの?』
『忠義は戦争中に命をかけることで尽くします。
それで守りきれなかったのなら、国王亡き後、新たな国王を守り、国を守る事かと』
くっ!?考え方が違すぎる!?
これが異世界というものなのだろうか!?
『えーと、なんていうかドライな考え方というか』
『そうかもしれませんね。
しかし、そのドライな考えを貫いて来たからこそ、人間は生き延びてこれたのかもしれません』
言ってすっかり冷めてしまった紅茶をすする。
言いたいことはわかる。
もし私たちの世界の考え方を貫いたら、魔素溜だらけで人間の住める土地はなくなってただろう。
こちらの世界の人間は根本的に私たちとは違うのだ。
しかし、なんていうか、世界全体を考えてルールをつくって、それを着実に守ってきたって結構すごいよね?
私からみたら奇跡にすら感じる。
私たちの世界だっていまだに世界が決めた平和のルールを破る国だってあるのに。
この世界の人たちは本能的にしてはいけないことを感じ取れるのだろうか。
それとも嫌な考えだが、コロネ達はゲームから開放されたと言っているが
開放される前の世界も、何かのシステムによって守られていたりしたんじゃないだろうか?
『どうかなさいましたか?』
押し黙ってしまった私にコロネが心配そうに尋ねる。
浮かんだ疑念をしゃべっていいものか悩み
『うん……なんか今日はじめて異世界に来んだなーって感じた』
無難な答えを答えた。
や、全然確信もなにもないことを口にするわけにもいかないし。
ただでさえ、私とコロネの会話って本筋から話ずれまくるし、これ以上余計な事を行っても話があさっての方向にいくだけだ。
『あれだけ危険な目にあっていたのに、それには感じずに現在ですか。
猫様らしいですね』
どうやら今回は嘘を見抜かれなかったようで、コロネが微笑んで返す。
『うーん。そうなんだけど。コロネには怒られるかもしれないけど。
やっぱりまだゲームの延長線上な気分が抜けてないのは確かなんだよね』
『プレイヤーの方は総じてそうでした。
ゲーム世界がそのまま現実世界になったなどと、受け入れるのに時間はかかるのでしょう』
『そういえば他のプレイヤーの話してたんだっけ』
『ああ、そうでしたね。
つい、話がそれてしまうのは私の悪い癖です。申し訳ありません』
言ってコロネはいつの間にか眠ってしまったリリに布団をかける。
うん、気付かなかったがお菓子を食べながら寝てしまったらしい。
てかリリちゃん寝てても念話通じるんだ。
私も冷めた紅茶を一口すすり
『どんなプレイヤーがいたかも聞いてもいい?』
尋ねる。
コロネは困ったように微笑んで
『そうですね。
あまり気分のいい話ではないとおもいますよ?
それにまずリリ様を寝室に運んできますので少々お待ちください』
言ってコロネは微笑んで寝ているリリを抱き上げるのだった。
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『はぁ!?何それ!?
知り合いに呼び出されて帝都にいったら問答無用で殺されそうになったわけ!?』
『ええ、理由はわかりませんが。五人のプレイヤーに襲われました』
『奴隷どころか殺されそうになってるじゃない!?』
私が身を乗り出して言うと
『……奴隷はまた別の話なので……』
『別の話って!?まさかの別件!?プレイヤー マジでクズしかいないな!?』
『まぁ、何とか両方から逃げ仰せました。
彼らの目を欺くために、人間の領土では私は死んだ事になっていますが』
『いやいやいやいや、逃げ仰せたとかそういう問題じゃない!!
なにそれ! 殺されそうになったりしているんでしょう!?』
ああ、ムカツク!!
うちのコロネに手をだすとはいい度胸だ。結界関連が終わったらまっ先ににぶっ潰す!
『そのプレイヤーの名前覚えてる?』
私の問いにコロネは首を横に振る。
『逃げるのに手一杯でしたから。
そもそも名すら聞いてない状態で……
ですが、その話はまた人間の領土に行くときにしましょう。
そろそろ寝ないとお身体にさわります』
言うコロネの表情は大分眠気を我慢しているようにも見えた。
……うん。ごめん。気づいてあげられなくて……
話に熱中しちゃう癖は改めた方がいいのかもしれない。




