28話 女神と魔王
『ふぅ 宝箱 回収終了』
リリが満足気に額の汗を拭う。
すでに牛たちは私達が倒したのでその姿はない。
まぁ、倒したといっても後ろの方にいた牛数匹だけだが。
勝手に物凄い数の牛が自滅してくれたおかげで、私たちのレベルは物凄い事になっている。
『さーて。せっかくだから宝箱の中身も確認していこうか?』
私がウキウキで宝箱を開け始めると、一瞬リリの困惑したような思考が伝わり――
『ネコ コロネ 視てる人見つけた』
真剣に言う。ただその一方で興味ありげに宝箱を覗き込んでいる。
『え?』
思わず私が手を止めるが
『ネコ 手 止めないで 向こうに気づかれる』
私はリリに言われて、慌てて宝箱開けを再開した。
『それってつまり、私たちを盗見してる人を見つけたってこと?
どこにいるの?』
【並行思念】のスキルを使用して、宝箱を開けつつ鑑定スキルを使用するフリをしながら私が問う。
『そう でもここにいない ずっと遠く
リリ なぜか 視てる感じられるようになった』
『え?なんで急に?』
『もともとホワイトドラゴンは神の伝い手ともいわれ、そういった遠視や念話、魔力感知などに優れた種族と聞きます。
レベルが上がったおかげで、こちらを視ている者の魔力が察知できるようになったのかもしれません』
ドロップ品を感慨深げに覗き込みながらコロネが言う。
『たぶん 視てる人の魔力に辿って 逆に視る事可能
ネコとコロネ、二人に精神繋いで映像を見せたまま つなげても大丈夫?』
『可能なのでしょうか?』
『うん できると 思う』
『リリ様の記憶を見せるのでしたら、サリーの時のようなダメージが猫様に行くこともないと思います。
ただ、あちらに気づかれた場合、リリ様や猫様にダメージが行くことはないのでしょうか?』
『それは大丈夫 視るだけで お互いダメージ与える事できない
ばれたら通信 切れるだけ』
『なら大丈夫かと思いますが……猫様どうします?』
『もちろん視る!!』
私はきっぱり即答で答えるのだった。
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「何故じゃ!?何故あの者はこうも尽く我の嫌がらせで死なぬのじゃ!?」
やけに露出の高い女が、いまいましげに叫ぶ。
薄暗くて、顔は見えないが、いかにも悪魔っ子です✩という格好の少女だ。
部屋の中には所狭しと、水晶が置いてある。
全ての水晶に映像が移っており、どうやら私達以外にも監視されている者がいるらしい。
「だから言っただろう。あれに手を出すのは止めておけ。
お前が手をだすと事態が悪化するだけだ」
ヒステリックな女の声とは対照的に、やけに冷静な男の声が答えた。
姿は……視覚外にいるのか見えない。
「なんじゃと!?」
「本当のことではないか?
殺すつもりがレベル上げの手助けをしただけ……笑い話にもならん。
貴様のせいで私の部下も一人やられたしな」
「仕方ないじゃろう!?
時空をいじって死の回廊に放り込んだら、楽々レベル上げしました!などと誰が想像できよう!?
なんでよりによって、今日に限ってワイルードボアがわくんじゃ!?
突っ込むだけの馬鹿モンスターではないか!
そもそも最初からおかしかったのじゃ!
ホワイトドラゴンが神龍などとフザケたものを召喚しようとしたから、代わりにプレイヤーに入れ替えたらカエサルを倒しおった!
ありえぬじゃろう!?レベル200の雑魚プレイヤーがじゃぞ!!」
まるで駄々っ子のように地団駄を踏む。子供かよ。
てかいきなり古代龍とかやっぱり自称女神様の嫌がらせだったのか……。
「そうだ。あれはおかしい。だから手をだすな。
そもそも もうお前では連れのドラゴンやエルフ相手でもきついのではないか?
下手に刺激をすれば、お前自身殺されかねんぞ?」
「なら!今のうちにお主が殺しておくべきじゃろう!!
あのまま放っておけば、パーティーとやらで高レベルのエルフや人間が量産されかねぬ!」
「そこは心配しなくていい。
せいぜい人間やエルフが上げられるレベルは400だ。
それ以上上げれば身体が魔力量に耐えきれなくなり死にいたる。
レベル400くらいが量産された所で私の脅威には成り得ぬ」
「だが、あのコロネとかいうエルフはレベル800になっておるではないか!!」
「あれは特別だ。
レイドバトル参加NPCだったため、身体の構成はほぼプレイヤーと変わらぬ。
他のエルフとは根本的に違う」
「じゃが!?プレイヤーのレベルはあげられるじゃろう!?」
「お前が好き好んで呼んだ、性格に難があるプレイヤーと、あれが意気投合するとは思えぬ。
だが召喚で間違って来たプレイヤーは可能性はあるがな。
戦力増強されたくなければさっさと面白がって壊した門を治しておくことだ」
「だーからーお主が今のうちに殺せばいいじゃろう!?」
「お前こそ忘れたのか?あれはカエサルを倒しているんだぞ?
まだあれには……」
言いかけて、男の言葉が止まる。
しばしの沈黙が続き――
『気づかれた』
リリの言葉と同時に――鮮明だった映像が切れた。
妙な感覚の後、視界が元のダンジョンの白い壁へと戻る。
『向こうの魔力きられた こちらから あちら覗けない
でも向こうも リリたち覗けなくなった』
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『なかなか興味深い会話でしたね』
コロネの言葉に私とリリは頷いた。
すでに場所はコロネの別荘へと移り、皆で食卓に並び会話をしている。
『やっぱり私がこの世界に呼ばれたのって、あの女神のせいだったんだ。
てか、人のこと おかしい だの あれ だの好き勝手言っててなんかムカツク』
それに――思う。
レベル上がりすぎると死ぬとか知りませんでした。すみませんでした。
もし、コロネが普通のエルフだったらレベル上げ初日に死んでたし!?
うおーやべー。ありがとうコロネ!レイド参加型NPCでありがとう!
異世界生活三日目でレベル上げしてたら仲間がなんかよくわからないけど死んだとか物凄い嫌すぎるよ!
内心ドキドキな私の考えなどよそに
『女は異界の女神 じゃあ男は誰だろ?』
リリが小首をかしげた。
『部下が一人やられた――というのが、私を精神世界に誘い込んだ魔族のことを指しているのなら
魔族を総べる王 魔王かと。
彼らの話ではレベル900の猫様よりもレベルが高いようですし
魔王は伝承ではレベル1000超のはずです』
『なんだか異界の女神だの魔王だの話が壮大になってきたなぁ。
一体何が狙いだろう?』
『そうですね。私の私的な見解ですが
まず魔王についてですが、魔王は北方の極寒の地であるマゼウス大陸にて結界で閉じ込められています。
魔王はここから出る事はできないはずです。
ですから、プレイヤーにエルフを殺させて、自分たちを開放しようとしてる……という可能性もありますが……』
言いつつ、考えるポーズをとって
『いえ、すみません自分で言っておきながら申し訳ありませんが、先程の可能性は低いです。
もし初めから結界が狙いなら、人間の領土など放っておいて、直接プレイヤーをエルフの領土に送っています。
女神は直接プレイヤーに指示できているようですし
あの性格のプレイヤー達ならエルフを殺すことも平気ですると思います……。
いえ。ですが今からプレイヤーが支配した人間を連れてエルフの領土を襲ってくると考えたほうがいいのでしょうか?
にしては、プレイヤー同士争っている状態ですし……』
ブツブツと一人で考え込み。
『……すみません、考えがまとまりません』
と、疲れた表情でため息をついた。
その顔には疲労の色が濃い。
『結局のところ今ここで考えたって答えがあってるかわからないしねぇ』
私の返事にコロネとリリが頷くのだった。




