27話 五十歩百歩
「さぁ!今日も元気にみんなでレベル上げだ!」
元リリの居た神殿のダンジョンで、私が興奮気味にガッツポーズをとる。
すでにリリとコロネと私が以前手にいれたレベル500のボスドロップのセット装備に着替えているので装備も万全!
あとはダンジョンに潜ってレベル上げに没頭するだけである。
そう、はやいところ全員レベル800以上にして、スキル書ゲットにエルフの大神殿とやらにこもらないといけないのだ。
「全く……貴方と言う人は……」
私のセリフに何やらコロネがこめかみを抑える。
何やら青筋を立てているが、あえて気づかないふりをした。
うん。また怒られるし。
「コロネ、ネコたちプレイヤー レア装備とか レアアイテムとか 目がない。
手に入れるため 手段も 時間も ズル休みも いとわない
特にネコは 重症 あれはもう末期」
と、わりと辛辣なリリちゃん。
ええ、すみませんガチ廃人ゲーマーです。
三度の飯より装備品ゲットとレベル上げとレアアイテム大好きです。
結局あのあと、女王に[鑑定の書]を手に入れたのを譲ってくれるならエルフの大神殿に入れてあげますよ!
ここから大神殿のある首都まで王族と一緒にワープさせてあげますよ!という餌にホイホイつられて二つ返事でOKしてしまった。
ついでに勢いでリュートと、他の結界地域の神器や聖樹が状態異常にかかってないか鑑定して見て回ったのだ。
「まったく、これでは陛下達の思惑通りですね……」
やれやれとため息をつくコロネに
「コロネ 大丈夫 国王もリュートも 予想以上の反応で 引いてた」
と、フォローになってないフォローをいれるリリ。
「え?まじで?」
私の言葉にリリが力強く頷く。
「やったねコロネ!腹黒王子と女装国王の裏をかいたっ!」
ガッツポーズをとってみるが
「そんな事で裏をかいても嬉しくともなんともありませんっ!」
至極まっとうな返事がかえってきた。
くっ!?いつもの変態モードなら 流石猫様! といいそうなもんだけど。
どうもコロネはエルフの上層部とかかわると真面目モードになる癖がある。
変態モード面倒くさいと思っていたけど真面目モードも地味に面倒くさい!
「コロネ 人のこと 言えない
いつものコロネも ネコに対して あんな感じ」
リリがジト目でコロネを見つめる。
そーだそーだ。
って私はコロネほどひどくないよ!?マジで!?
「うっ!?あ、あんなに酷いですか?」
「コロネのほうが 若干 酷い」
「……反省します」
心底気落ちしたようにコロネが項垂れる。
いや、なんかそれって地味にこっちにもダメージくるんですけど!?
私そんなに酷いか!?
「所詮 ネコも コロネも 五十歩百歩
はやく リリが 大人になって ふたり 守らないと」
憂いを含んだ瞳で、ふぅーとリリがため息をついた。
何故か風も吹いていないのに意味ありげに長い髪の毛がふわぁっと風にふかれて揺れる。
その背には哀愁すら漂わせているのだった。
……うん。ごめん。もうちょっと威厳のある大人になれるように努力します。
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『さて、問題はダンジョン攻略をどうするか……ね』
私は以前リリがボスをしていたはずのボス部屋で考え込む。
『確かこの下のボスはレベル500でしたよね?』
『そうそう。雑魚は400台だったはず。
でもまだ下に階段はあったから普通に行けば600レベルの敵がでてくるんだろうけど。
その下があるのかちょっと見てくる』
『リリ達またお留守番?』
『うーん。出来ればリリ達は安全圏のここに居て、私が下で敵を倒すってのが望ましいけど
経験値はダンジョン内なら届くみたいだし』
『猫様 気遣っていただけるのは嬉しいですが、私達もレベルも500以上ですし、
この下の階ならリリ様と二人で狩るくらいなら可能かと。
あまり戦わないのも、戦いの感が鈍ってしまい、いざという時に役にたちません』
確かに。戦わないでレベル上げて、レベル800の闘いを実践しましょう!とか無理ゲーだよね。
『リリも 頑張る! みんなで 倒した方がレベルはやくあがる!』
と、新しく装備した竜殺しの鍵爪をぶんぶん振ってリリが張り切るポーズをしてみせた。
リリちゃんが龍殺し装備ってちょっとシュールよね。
『じゃあ、二人にはこの下の階でレベル上げてもらおうかな。
私は行けそうなところまで潜ってみるよ。
高レベルの敵倒したほうが上がりがはやいし』
『うん! リリ頑張る! ネコも 無理しないでね!』
『了解。じゃあ二手にわかれよう』
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レベル500ボスの次はレベル600ボスの階層だと思っていた時期が私にもありました。
私はリリ達と別れ、
あの抹殺しまくった蜘蛛ボスの部屋の奥にあった階段を降りたのだが……。
何故か降りた途端、階段が消えた。
うん。そりゃっもうまっさらに。
おぉっぅぅNOぉぉぉぉぉ!?
何故消えるし!?
ゲームではこんな仕掛けなかったはずなんですけど!?
『ネコ どうかした? すごく 動揺してる』
私の気配を察知したのか、リリがすかさず聞いてくる。
『上に上がる階段が消えました……』
『えええ!?大丈夫!?戻れる!?』
『もしかしたら、条件を満たさないと階段が出現しないフロアかもしれませんね。
戻れそうですか?』
パニくるリリとは対象的に落ち着いた様子でコロネが尋ねてくる。
『条件を満たさないと駄目とかあるの?』
『はい。レベル50台のダンジョンですが、ありました。
その時はそのフロアの敵を全部倒せば再び階段がでてきたはずです』
『へぇ。ゲームではそんなのなかったけどなぁ。
まぁなんとななるならいいか』
私はそう言うと早速スキル【魔力察知】を発動させ――固まる。
このフロア。全ての敵がレベル900台なのだ。
きゅ、きゅーひゃく?
私の頬が引き攣る。
え、5の次って6だよね!?
普通500レベルのボス部屋の次は600レベルのボス部屋じゃね!?
なんで500の次が900かな!?
常識は覆すためにあるとか、そういう発想ですか!?そうですか!?
いや、900なのは100歩譲ってまだいい。
それより問題なのは、全ての敵が私に向かって突進してきてるっぽいこと。
NOぉぉぉぉぉ!?
私はすぐさまトラップの設置にとりかかる。
うん。ムリムリムリムリ。
レベル798で900の相手しろとか無理ゲー!!
や、レベル200で1200の相手しようとした時より希望はあるけど!
今回数が半端じゃない!
魔力察知から察するにこのダンジョンはかなり長い一本道で、すでに私に向かっている大量のモンスターは半分くらいまできている。
私はすぐさま部屋中に糸を張り巡らし、トラップのスキルを発動する。
スキルで設置した糸はレベル補正関係なしになるので、私が糸を解くまでは部屋に設置されたままだ。
モンスターに引きちぎられる心配はない。
うまくやれば相手が高レベルモンスターでも十分やれる。
何重にも罠を設置しているその時。
ズドドドドドドド
こちらに向かってきた集団の先頭が見え始める。
見た目は巨大な牛が、ものすごい数でこちらに突っ込んできているのだ。
うおおおお!?こえぇぇぇぇぇ!?
牛たちは何の躊躇もなく、こちらにツッコミ。
そして
「ぴぎぃっ!!」
先頭集団が悲鳴をあげた。うん。そりゃもう部屋中に糸張り巡らしてるからね…。
トラップで設置した糸はレベル補正関係なしにダメージを与える。
そのため
「ぷごぉぉ!??」「ぴぎゃぁぁ!?」「ぶぅふぅぅ!?」
前の牛集団が後ろの牛集団に押される感じで糸に引きちぎられていく。
そう、いうなればトコロテン方式。
ザシュ。ブシュ。ベシャ。
嫌な音をたてて細切れになっていく牛。それなのに後ろの牛たちは気づいていないのか突進をやめない。
結果。
「ぷぎぃぃぃ!!」「ぐぴぃぃぃ!!」
後ろの牛に押されて前の方の牛から順番にきれいにミンチにされていく。
うおーなにこの苦行!?私は牛ミンチをみてなきゃいけないの!?
飛び交う悲鳴と怒号。そして次々できあがるミンチの牛。
そして馬鹿なのか前の牛をひたすら押して、殺戮していく後ろの牛さんたち。
ミンチ牛はしばらくすると蒸発して宝箱へと変貌していく。
な、なんだこのシュールな情景は。
私が呆然とその光景を見ていると
『リリ様っダメですっ!
もし本当に危険な状況に陥っているのだとしたら
私達が行ってもかえって足でまといです!!』
『リリ ネコたすけるのっ!!』
リリとコロネの念話が聞こえてくる。どうやら上で私を助けに行くかいかないかで揉めているらしい。
あーそうですよねー。ビシバシ経験値入っていくからリリとコロネにもなんとなくヤバイ状況なのが伝わったらしい。
『あー私はだいじょ……』
言いかけたその時。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
上空から声が聞こえた。ふと見やれば、かなり上の方からリリとリリを止めようとしたのかリリに抱きついたままのコロネが真っ逆さまに落ちてきた。
うぉう!?何故に!?
リリとコロネは一回転すると、そのまま構えて着地する。
『ネコ、大丈夫!?』
『あの……これは一体……?』
ひたすら頑張ってミンチになっていく牛と私を見比べ、コロネが困惑の声をあげるのだった。




