26話 チャレンジミッション!
「それで情報というのは?」
席に戻った私は開口一番女王に問う。
女王は優雅にセンスで口元を隠すとにこりと目で微笑み
「……はい。ですがその前に猫様にご助力いただいたカルネル山の結界について報告してもよろしいでしょうか?」
女王の言葉にぴたりとお菓子を食べていたリリの手が止まる。
鑑定には微塵も興味を示さなかったリリだがどうやら結界の事は気になるようだ。
「どうやら結界が解けたのは、先日猫様たちが倒した魔族が関係していたようです」
あー。あの魔族か。
まぁ結界解くなんて大仰な事するならやっぱ魔族クラスじゃないと難しいのかな。
「魔族 なにしてたの?」
「聖なる樹『ユグラシル』に自分の魔力を送り込み、徐々に結界を解いていたようです」
「しかし、聖樹に送られる魔力の質が変われば、神官達が察知できるのではなかったのですか?」
女王の答えに私が問う。確かコロネにそんな話を聞いた気がする。
「はい。本来なら察知できるはずだったのですが……
どうやらあの魔族はほんの少しずつ気づかない程度、それこそ何百年という歳月をかけて魔力を徐々に注いでいたようです。
一気に魔力の質が変われば、神官たちも気がついたのでしょうが、歳月をかけて変化していたものを察知できずに見過ごしました。
代替わりもありましたし、魔族の魔力が含まれているものが「正常」と認識していたようです。
ですから、猫様達があの魔族を倒した事によって、一気に魔力の質が正常に戻ったおかげで、神官達も気がついたのです」
うへぇ。あの魔族さん、結構気の遠くなるような事をしてたんだね。
ん、まてよ。だとすると、何百年かけてやっていた事を私達が盛大に台無しにしたのだから、女神関係なくてもブチギレで襲ってきてもおかしくないよね?
実はあの魔族、女神と無関係でしたー! 的なオチもあるんだろうか。
でもあのレシピ本のことを考えるとやっぱり絡んでると考えた方がいいか。
「しかし、やはり切欠はあの神威というプレイヤーでもありました。
彼の居た集落の神器が偽物にすり替わっていたようです。
それになにか細工がしてあったようなのです」
「偽物だと気がつかなかったのですか?」
「お恥ずかしながら……
私達には猫様のような鑑定のスキルをもつ人材はいませんので、どうしても材質や魔力などといったもので調べるしか方法がございません。
巧妙に偽物を作られてしまえばそれまでです。
……どうやら我国の鑑定師達はあまり優秀ではない様子ですしね……」
女王がほぅっとため息をつく。
うーん。でも記憶や文献がゲーム化によって消失しちゃったものを鑑定しろとか、鑑定師達も可哀想っていえば可哀想な気もしなくもない。
NPCだった人たちもスキル使えればいいのに。
「そこでですが……猫様にお願いがあります」
「お願い?」
私は眉を潜めた。
うん、だってここで対応間違えるとまたコロネとリリに怒られそうだし。
「先ほどの情報提供の件ですが、まずはこれをご覧いただけますか?」
言って、女王が取り出したその紙は……グラニクルオンラインの今後のアップデート予報情報を記載した攻略サイトのwebページのコピーだった。
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「こ、これはっ!!」
私は女王の差し出したそれを食い入るように見つめた。
いや、だってあれだよ。
なんで向こうの世界の印刷物がここにあるとか、カラー印刷懐かしいとか、そういう感想よりあれだよ。
問題なのはその見出しとその中身だよ!!
□■エルフの大神殿の新チャレンジミッション!
奥に眠る魔獣セギュウムを倒せばスキル書が手に入る……かも?□■
チーフ:今回我々取材陣は独自のルートで、レベル800で実装されるかもしれないエルフの大神殿の情報を手に入れたぞ!
助手:って、チーフ、今現在開放されてるのレベル400ですよ。先の話すぎませんか?
チーフ:何を言う!レベル400まで開放されるのにかかった時間は5年。つまり5年後の話だ、すぐじゃないか!
助手:ちょ!?長っ!!オリンピックより待たないとじゃないですか!?全然すぐじゃないです!
チーフ:そこは夢とロマンで乗り切るんだよ助手君
助手:乗り切るにも限度があるでしょう!?
チーフ:(チッ)
助手:チッっていま舌打ちしませんでした!?しましたよね!?
チーフ:それはともかく、なんとこのエルフの大神殿でスキル書が手に入る事が判明している!
助手:(うわー。無視して話すすめたよ)スキル書ですか?なんですかそれ?
チーフ:呪文書のようなもののスキルverだね。なんとこのスキル書、スキルポイント消費なし&職業関係なしに、使えばそのスキルが獲得できるチートアイテムだ!
助手:えええ!?まじですか!?ちょ、それって今までプレイしてたプレイヤーからは暴動もんですよ。
スキルポイント使って獲得してるのに。新規と古参で獲得スキルにおもいっきり差がついちゃうじゃないですか!?
チーフ:ふっ。甘いな助手君!古参も会得してるスキルの書を使用すればスキルポイントが一度だけ戻ってくるというお得なセットだ!
手に入れられるのはスキルレベル1の書がメインとなっているらしい。
助手:なるほどー。でも逆に古参にはレベル1スキルのスキル書って必要ないですよね?
レベル1ならスキルポイントも微微たるものですし。
チーフ:君は砂糖水のように甘いな。古参には古参への餌がちゃんと用意してあるのだよ!
助手:え、餌とかいわないでくださいよ!古参の方に失礼じゃないですか!?
チーフ:そんなことはどうでもいい!とにかくだ!
超レアスキル書として、『瞬間移動』や『並行思念』のスキル書などもゲットできるらしい!
助手:おおおおお!?それすごいじゃないですか!?
……でも実装5年後なんですよね?
チーフ:細かい事は気にするな!
助手:全然細かくないですよぉぉぉぉぉ(泣)
□■□■
と、いう記事である。
「この紙はエルフの宝物庫の宝の中に厳重に保存されいたものです。
もしかして猫様ならこの内容がより詳しくわかるのかと思いまして」
女王が差し出しながら真剣な瞳で問う。
ええ、わかりますとも!わかりますとも!
スキル書が手に入るなんてすごいじゃないですか!?
いや、もう私ほとんどのスキルとちゃったけど!
でもこれでリリとコロネパワーアップできるよ!うちの子達が強くなるよ!!
ああ、リリちゃんに瞬間移動とか覚えさせたら、超強くなるよ!
コロネには鑑定と魔力察知を覚えさせたいし……
この後私の思考はすっかりうちの子パワーアップ計画に向かってしまい、女王達の話などまったく聞いてないのだった。




