閑話(VR時代の楓視点とコロネ邸のメイド視点)
閑話です。短いです。本編とはあまり関係ありません。
VRゲームデビューの楓とコロネ邸のメイド視点の二つになります。
〜VRゲーム時代〜
私の名前は橘楓。
先日初のVRMMOデビューを果たしたのだが……うん。リアルすぎて無理ゲーの臭いしかしなかった。
いや、だって考えてもみて欲しい。
レベル上げにはクマを倒すのが最適✩というネットの攻略を鵜呑みにして、クマーに挑んだのだが……。
そこにいたのはリアルクマだよリアル熊。
棒切れ一本で熊に挑むんだよ!?熊に。
リアルで挑むのと感覚一緒なんだよ!?
戦闘経験もないど素人がクマ殴るとか む り げ ー✩
いやいやいや、ムリムリムリ。
普通に考えてどう考えても無理でしょ!?
結局、そのまま熊さんのワンパンであっけなくあの世行きとなってしまった。
うん。痛みはないにせよVRゲームで死ぬとか軽くトラウマになれそう。
結局、私は戦闘は諦めて、罠師という職業を選択した。
き、きっと落とし穴にはめたモンスターならチキンの私でも倒せるはず!!と、職業訓練所に行って早速罠師の職業についたのだが……。
早速落とし穴をメニュー画面から選択して、作ろうとし、メニューで落とし穴設置のボタンを押した途端、出たアナウンスが……
≪まずはスコップかなにかで穴を掘ってください≫
そ こ か ら か YO!
いや、もう何なのこのゲーム!
そこまでリアルにする必要なくない!?
そこはさくっとゲーム側で作ってくれていいとおもうの!
何が悲しくて遊ぶはずのゲームで穴など掘らねばならないかな!?
そりゃみんなボタン一つでなんでも出来るガイアサーバーに移住するはずだわ!
ガチニート以外無理でしょこのリアル度!!
アテナサーバーマジ無理ゲーすぎるだろぉぉぉぉぉ!!!
こうして結局……私は丸一日、穴掘りに勤しむ事になるのだった。
うん……カンナちゃんが居なければ絶対辞めてるわ。このクソゲー。
△▲△▲△
〜コロネのメイド視点〜(神威討伐に向かう前の話)
「私もプレイヤー討伐の部隊に加わります。
もう二度とここへは戻ってこれないかもしれません。
その時は頼みますよリセリア」
書斎のような部屋で――そう言うと、男はメイド姿の女性に鍵を手渡した。
「――これは?」
メイド姿の女性エルフ――リセリアが鍵を見つめながら、男に尋ねた。
その表情は不安に彩られている。
「金庫の鍵です。
もし明日の夜までに私からの連絡がなければ、この金庫の中から持てる分だけ持ち出して構いません。
それを持って集落の者とメスレスの集落まで逃げなさい。
既にサウスヘルブの騎士達には連絡をしてあります。魔方陣で避難させてくれるでしょう。
――この地はもう長くない」
その言葉にリセリアは息を呑んだ。
彼は既に自分が死ぬ前提で、物事を準備している。
彼は死にに行くつもりなのだ。
「――では、コロネ様も一緒に……」
リセリアが言いかけるが、その言葉が終わるより前にコロネと呼ばれたエルフは首を振った。
「それはありえない。何もせずこの地の結界を放棄することはできません。
やれるべき事はやるべきです。
……でなければ世界は滅びます。
あとは頼みましたよ」
言って、リセリアの主であるコロネは踵をかえして、歩きだした。
その背には覚悟を決めた意志が感じられる。
こうなってしまっては彼女の主人は、意志を変える事はないだろう。
いつもそうだ。寡黙で、滅多に感情など彼は表にださない。
言葉少なく表情を滅多に変えないため、彼を冷たいと誤解しているものも数多い。
けれど彼女は知っていた。彼は誰よりも正義感が強く責任感が強いということを。
彼の性格からすれば、例え無理とわかっていても、放っておくことなどできないのだろう。
それに――プレイヤーに勝てる可能性は0ではない。
もし、可能性が0ならば、きっと彼は行くことなく別の方法を模索するはずだから。
――どうか。ご無事で……。
ただ、彼女に出来ることは、彼の屋敷で、彼の無事を祈る事くらいだった。
そして――
「ささ!つきました猫様!!
ここが私の別荘ですのでごゆるりとおやすみください!!」
……帰ってきた、彼女の主は、何故かまったくの別人のようなキャラクターになって帰ってくるのだった。
彼女は思う。
どうしてこうなった……と。




