表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/117

23話 エルフの宝物庫

「これは…このモチモチした食感のお餅?でしょうか。

 それと程よい甘さの餡子が絶妙に口のなかでとろけて美味しいです」


 まるで、料理漫画か!?とツッコミをいれたくなるような感想を述べる王子に


「ネコ!この丸いの美味しい!こっちの三角のも美味しい!」


 と、ひたすら美味しい美味しい連呼するリリ。

 二人ともカンナちゃんの料理を気に入ってくれたらしい。

 感想を述べたあとはもくもくと平らげている。

 そりゃ料理スキル100付近でつくった料理だから美味しいよね。

 や、それ以前にカンナちゃんが作るものはなんでも美味しいんだけど。

 

 私もどら焼きにかぶりつき久しぶりのカンナちゃんの料理を堪能する。

 ほんのり甘い生地に、控えめな甘さの餡子がとても美味しい。

 元気にしてるかなカンナちゃん。

 いつも私と二人で狩りをしていたから、私が居なくなって困っていたらどうしよう。

 はやく帰りたいなぁ――と思う一方。

 このまま、こんな不安定な情勢の世界にリリとコロネを置いてけないよなぁと思ったりする。


 そもそも、ゲームの2日でリアル1日経過だったので

 ゲームの世界で300年経ってしまっているということは、現実では150年経ってることになる。

 急いで帰るもなにも、元の世界に帰りたかったら、現実の世界に帰ると同時に、過去にタイムスリップもしないといけないのだ。


 流石に私も150年後の日本に帰るくらいなら、こちらに残るし。

 死亡扱いで、戸籍もお金も学歴さえもない状態でスタートとかそれこそ無理ゲーすぎる。


 どのみち帰るのを1、2日急いだ所で過去に戻る方法がないのなら、どうしようもないわけで。


 やっぱりこっちの世界をなんとかするほうが先だよなぁ。


 私がもぐもぐとどら焼きを平らげていると


「ああ、そうでした。猫様。

 実は、先日プレイヤーから集落を救っていただいた件でのお礼なのですが」


 王子が食べる手をとめ、話しかけてくる。

 あー、あったなそんな話。


「お恥ずかしい話なのですが

 私達に神話級の装備や呪文書をぽんとくださるような方に何をお礼をしたら喜んでいただけるのか、皆目見当がつきません」


 と、リュートが苦笑いをする。

 ああ、そういえばリュート達騎士5人にもリリ達と同じく、私のもってる中でいい装備をあげたわ。

 いや、だってレベル200になったのに、ミスリルの剣とかじゃ格好つかないし。


「こちらの通貨をとも考えましたが、師匠の話によれば、かなりの金額を所持しているとのこと」


 確かに。ゲームの通貨とこちらの通貨は同じ物らしい。

 コロネに持っている金額を教えた所、その金を全部使えば金の価値が暴落して、通貨価値がなくなるから気を付けてと言われるほどもってたりする。

ゲームの世界でインフレしまくってたせいでお金は大量にあるのだ。

 まぁ、私がガチにお金貯めしまくった廃人というのも大きいが。

 どのみちこれ以上増えても全部は使えないことが確定しているのだから、お金もいらない。


「出来れば何か欲しいもののリクエストなどしていただけると、有難く存じます」


 んー。

 欲しいものかぁ。

 

「それでは、他人から監視されてるのを防ぐような魔道具とか存在しますか?」


「監視ですか?」


 そう、この間も思ったのだけれど、女神側に情報が筒抜けすぎる気がする。

 こちらの行動を監視されているようで気持ち悪い。

 私が一通り説明すると王子は考えるように手を顎にあて


「その女神の監視に効果があるかどうかわかりませんが、エルフには重要な会議の前には必ず作動させる魔道具があります」


「何故作動させるんですか?」


「師匠が盗聴や遠視を防ぐ類の魔道具だと言っていました。

 ゲーム化する前はそういった技術が盛んだったらしいのですが……

 ゲーム化の後にはその記憶や文献などすべて消えてしまいまして。

 ただ、習慣だけが残ってしまった。と、推測しています」


「師匠って……」


 コロネだよね?何故か会話に入ってこないコロネに視線を向ければ



 ――寝てた。


 椅子にすわったまま、食べかけのどら焼き片手に寝息を立てて寝ている。

 リュートがにこりと笑いながら


「怒らないであげてください。

 猫様が目覚めるまでは待つと、自分の体調も悪いのに、ずっとここで待っていましたから」


「コロネ 疲れてる 寝させてあげよう

 寝る子は育つ」


 もぐもぐ食べながらリリも同意する。

 なんかもうみんなから手のかかる子扱いだな。


「話を戻しますと

 そういった、用途のわからない魔道具がエルフの宝物庫には沢山眠っています。

 もしよろしければ、一度ご覧になりませんか?

 猫様なら鑑定もできるでしょうから、偽物か本物かも見分けがつくかと思いますし」


 うーん。でもなぁ。一つ一つ私一人で鑑定とか、物凄くめんどくさそう。

 私の考えを察したのか


「もし宜しければ、こちらの方であらかじめ、それらしいのを分別して持ってきておきます

 その中から選んでいただければと」


それならいいかな?


「ではそれでお願いします」


「かしこまりました。明日にでも持ってまいります」


 そういうリュートの笑顔は、相変わらずイケメンのスマイルだった。


△▲△▲△▲△▲△▲




『――してやられました』


 コロネに先程の件を話すと、念話でそうつぶやき頭をかかえながらため息をついた。

 リュート王子と別れた後、コロネを寝室へ移動させたのだが、そのせいで目を覚ましてしまった。

 仕方ないのでコロネに今まであった事を説明すると、開口一番これである。


『……してやられた?』


『エルフの宝物庫というのは間違いありませんか?』


『うん 言ってた!』


 リリが元気に答えると、コロネは眉間を抑えため息をついた。


『エルフの宝物庫の魔道具は基本、国王以外持ち出し禁止です』


『えーっと、それってつまり……』


『国王陛下直々に猫様に手渡しにこちらに来られる

 ……ということです』


 ええっ!?なんだそれ!?面倒くさそう!?


『え、でもそんなこと王子は一言も……』


『言えば断られるの可能性があるため、あえて言わなかったのでしょう。

 私が意識を失っている時話を進めたのもそのためです。

 もし私が意識があれば、違う方向で話を進めたでしょう。

 リュートはそれを避けたかったのかと』


 あーワザとですか。そうですか。

 てか、前もカマかけられて引っかかってるのに、何故警戒しなかったかな自分。

 コロネが起きてから相談しますにしておけばよかったぁぁぁ!

きっと今から「やっぱりなし!」と言っても「話通しちゃったのでキャンセル不可です(キラッ)」とか言われるんだろうなぁ。

 あれだね、顔がいいと好感度があがって信用しちゃうってネットかTVか何かで見た気がするけど本当だね。

 イケメンはダメだイケメンは。

 今度からイケメンと美女は5割増で警戒することにする。

 にしても、あの王子は要警戒人物認定しよう。腹黒イケメンめ!


 ぐぬぬとする私にコロネは申し訳なさそうに


『申し訳ありません、私が気を失ってしまったばかりに……

 これは私の責任です!罰としてこれからは猫様の横顔を見てニヤニヤするのを自ら禁止します!』


 ちょ!?それ罰なの!?

 ってかそんなことしてたの!?


『コロネ……自分に厳しい!』


 何故かリリまでくっと涙をこらえるポーズをとる。

 よほど普段からニヤニヤしていたのだろう。


『や、罰じゃなくても、やめろやっ!!きもいわっ!!』


『……ええ、険しい道のりですが、これ以後は禁止したいと思います』


 まるでこれから戦地に赴くような悲愴な表情で言う。

 なんなのそのノリは!?そこまでの事か!?


『とにかく、問題は国王の方でしょ。

 私マナーとかわからないよ?

 てか、なんで国王が?』


『マナーについては、プレイヤーである猫様にうるさく言ってくるものはいないのでしょう。

 問題は何故国王陛下が来るかという事です』


『なんでくるの?』


 きょとんとリリが聞く。


『恐らく……いえ、ほぼ確実に、猫様になにか頼み事があるために、国王陛下がお越しになるのだと思います。

 リュート経由で頼もうとすれば、私に遮られてしまう恐れがありますから。


 ……それに』


『それに?』


『恐らく、猫様の人柄の良さはあちらに伝わっているでしょう。

 ご本人を前にこのような事を言うのはあれですが……

 猫様は人がいいですから、よほど不利益な頼みでなければ断らない。

 私が邪魔さえしなければ、依頼を受けてもらえると踏んでくるでしょうね』


 コロネのセリフに私はぽりぽりと頬をかく


『え、私そんなお人好しにみられてるの?』


 私が言うとコロネはこめかみを掴みながらため息をつくと


『……無自覚でしたか。

 猫様の世界の基準はわかりませんが

 こちらの世界の基準で言わせていただけば、バカがついてもおかしくないほどのお人好しです』


 言われてしまう。

 

 コロネに馬鹿がつくとか言われると地味に傷つくんですけど!?


『あのような装備や呪文書を容易く人に譲ってしまったり、レベル上げに協力したり……こちらの世界では考えられません』


 言われて口ごもる。


『うーーん。まぁ、そこは確かに言われてみればゲーム感覚だったかな、反省する』


 そう、私は昔からMMOなどのネトゲゲームでもちょっと気に入った初心者にはホイホイアイテムをあげてしまうタイプだった。

 実際リュート王子達にあげた装備は、初心者の子を見かけたらあげよう!と、とっておいた装備だったりする。

 ゲームでも見る人から見たら、甘やかしてると思われるかもしれない。

 ゲームの中でさえ、甘やかしてると思われる行為をリアルになった世界でもやってしまっているのだ。

 他人から見ればお人好し馬鹿と言われても仕方がないだろう。


『その行為自体が絶対に悪いと言いたいわけではないのです。

 ただ、そういった行為をしていれば、自ずと、猫様の善意を利用しようとするものが集まってしまう事になりますので。

 

 今回のリュートの件がいい例です。

 あの子は確かに猫様に好意をもっていますし、敵対する気もありません。

 ですから、リリ様の事前のチェックでも「悪い人間じゃない」と判定されてしまいます。

 ですが、やはりあの子にとっての優先順位は国であり、猫様の気持ちはその次になってしまいます。

 リュート自身が良いことだと思い込んで猫様に頼めば、リリ様も悪意を読み取れません』


 ――うん。言いたい事はわかる。

 ちょっといままでリリの思考チェックにも頼りすぎてたなぁ。

 リリが悪い人じゃないよと言えば安心しきってた節がある。

 よくよく考えれば、リリはまだ子供。

 よっぽど敵意を向けた相手でもない限り、読み取れないかもしれない。


『リリ、役たたず?』


 私とコロネの話を聞いていたリリがしょぼんと落ち込む。


『いえ、リリ様の能力は大変貴重ですよ。

 最初の段階で悪意のある者は除外できるのですから』


 落ち込んだリリに慌ててフォローするコロネ。


『ただ、エルフは元より、人間はより狡猾です。

 猫様に悪意をもつ人間が、猫様に悪意のない人間経由で、猫様に依頼すれば悪意は読み取れません。


 恐らく神々の結界で封じられた地域にいる魔物を除けば、猫様に敵うものなどいないでしょう。

 利用しようとする者はあとを絶たないはずです』


 そう話したコロネの感情が複雑に揺れるのがわかった。

 なんとなく、コロネも苦い経験をしたことがあるのが伝わってくる。


 そういえば、コロネだってレベル143でNPCの中では最強だったわけで、プレイヤーが来る前は今の私と似たような立場だったのだろう。

 記憶をなくした時の、妙に人を値踏みするような視線も、その苦い経験からくるものだったのかもしれない。


『それと、これは猫様だけでなく、リリ様貴方にも当てはまります』


『え?リリ?』


 急に話をふられて、リリが思い切り動揺する。


『猫様が規格外すぎて、忘れているかもしれませんが、リリ様のレベルもありえないレベルです。

 むしろ男性姿の猫様より、幼い少女のリリ様の方が御しやすいと思われる可能性が高い。

 ですから気を付けてください。

 特にリリ様は一人で抱え込んでしまう傾向があります。

 周囲に頼る事は悪いことではありません。決して一人で抱え込まない事。

 必ず何か頼まれた時には私と猫様に相談すること――いいですね?』


 こくこくとリリが真剣に頷いた。


『それでは話を戻しましょう。

 問題は国王陛下がどんな依頼を猫様にしてくるかです』


『わかるの?』


『いえ、流石にそこまでは。

 ですから国王陛下との謁見中は念話を必ず繋いでおきましょう。

 なるべく意に添う方向で話が進むよう努力はします。


 ですが、その前に解決しておかなければいけない一番大きな問題があります』


『大きな問題?』


『はい。まず、猫様がこれから何をしたいのか優先順位を教えていただけると嬉しいです。

 それがわからないと、私もフォローのしようがありませんから』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ