22話 料理の効果
「ねこ……さま?」
散りゆく魔族を眺め呆然とした表情でコロネがこちらに訪ねてくる。
その目には先程までの険しさはない。いつものコロネだ。
「あれ?魔族倒したから、もしかして記憶戻った?」
私はとことことコロネに歩みよると、私の肩をがしっとコロネがつかむ。
「な、何を考えているんですか!?何故ここまで来たんですか!!
精神世界がどれほど危険な場所か!??
貴方は知っていたのですか!?」
「え、いや、その、もちろん!」
……知らなかった。
後半は心の中でつぶやく。ふふふ。嘘はついてないはずだ。
そんな私をコロネはジト目で睨みつけ
「知らなかったんですね?」
と、背景に何やらオーラを纏わせている。
おおうー!?バレてるっ!念話か!念話のせいでつつぬけなのか!?
一応思考がもれないようにする術はリリに習ってやってるつもりなんだけど!?
「な、なんでそう思うの?」
「猫様は顔にでやすいんです!」
「う、そうなの!?
でもまぁ、倒せたんだから結果オーライって事で」
「オーライじゃありませんっ!!
まったく、何を考えているんですか!!
私なんかのために貴方の身を危険に晒すなんてっ!!
貴方の身に何かあったらどうするつもりだったんですか!?」
コロネは本当に興奮しているのかわしわしと揺すられる。
「いやいやいや。私たち仲間でしょ?
仲間が危なければ助けにいくでしょ普通」
私の言葉にコロネの動きが止まり
「……仲間…ですか?」
と、神妙な面持ちで聞いてくる。
え、やだ。仲間意識もってるの自分だけだったの!?
それすごい恥ずかしいんですけど!
あああああ!もういい!?
私はがばぁっとコロネの襟をつかみ引っ張ると
「いい、貴方が私をどう思ってるかは知らないけれど、私にとっては貴方とリリは大事な仲間だから!
嫌がろうが、泣きわめこうが、絶対守る。
いい?即死のコロネを守るのは私の仕事!反論NG!わかった!?」
まくし立てた。もう勢いだ勢い。
コロネの方はなんと表現していいかわからないポカン顔で私の事を見た後
パタン。
倒れる。
うん、何故か気を失っている。
NOOOOooooo!!
何でだよ!?わけわからんよ!なんで気失うかな!?
誰かこの変態の攻略本を私にくれっ!!
正しいコロネの育て方とかしつけ方とかなんでもいいから!!
難易度高すぎて攻略とか無理ゲーなんだけど!?
『ねぇ、カエデ……そろそろ元の世界にもどしていい?』
私とコロネのやり取りに、リリがおずおずと尋ねるのだった。
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『ネコ コロネ、無事でよかった。本当によかった!』
現実世界に戻ると、リリに速攻で抱きつかれる。よほど心配したのだろう
目元は泣きはらしたのか真っ赤になっていた。
リリには可哀想な事したな。
一人で待ってる間、心細かっただろうに。
今度何か穴埋めできればいいのだけれど。
私はよしよしと、リリの頭を撫で回す。
リリは嬉しそうにえへへーと、さらに顔をうずめて甘えてくる。
いや、本当リリ天使。
に、しても……
コロネの方を見やれば、きちんとレベルも515まで戻っているので心配なさそうだ……が。
何故か、いまだに気を失っているが、リリが大丈夫といってるので大丈夫なんだろう。
鑑定の結果も失神となっているだけだし。
――それにしても、許せないのは自称女神だ。
女神に属さないプレイヤーは皆殺し方針なのか何なのかは知らないが、私達に喧嘩を売ってくるとはいい度胸だ。
思えば最初からおかしかった。
レベル1200の敵といきなり遭遇だよ?おかしくね?
女神とやらがハナから私を殺すつもりで召喚させたとしか思えない。
わざわざ魔族を使ってあんな手の込んだやり方で私を殺しにくるくらいだ。
リリの召喚に、私を無理やり押し込めたとか、絶対何かやってるだろう。
大体、性格のよさそうなハルトというプレイヤーを殺したのも気に食わない。
彼に何の罪があったというのか。
そして、こちらの行動を監視している節がある。
監視してなければ、あのレシピ本に呪いをかけたタイミングが説明つかない。
何か対策したほうがいいのかもしれないが、女神とかいうくらいだから、水晶とかでどこからでも様子が見れるよ✩
とかいうオチだったら手のだしようもないしなぁ……。
何か監視を妨害する魔道具とか存在しないのかな?
こうもこちらの行動を読まれてるのは正直面白くないし。
相談しようにもチラリとコロネを見やれば、いまだに気絶したままである。
私ははぁーとため息をつき
『とりあえず一回帰ろうか。なんだか物凄く疲れた』
言って私はコロネを持ち上げるのだった。
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気が付けば、何故かあれから三日経過していた。
リリが言うには三日間ベットでぐっすり眠りこけていたらしい。
精神世界というのは予想以上に負担が大きいようだ。
うん。レベル1になったコロネが急にぶっ倒れたのはこういう事か。
まだちょっと頭がぐらんぐらんする。
出来ればもう行きたくないなぁ精神世界。
精神攻撃系を防御するスキルもなかったか後で見直しておこう。
『ネコ 具合悪そう 大丈夫?』
心配そうに顔をのぞき込んでくるリリに
『大丈夫。ちょっと頭痛がするくらいだから』
と、ぽんぽんと頭を撫でる。
『に、しても三日も経過か――。
やりたいことはいっぱいあったんだけどなぁ。
エルフ戦士部隊強化とか、カルネル山の敵のレベル下げるとか、レア装備堀とか』
私の言葉にリリはぷぅっと頬を膨らませ
『ネコ、働く事ばかり 考えてる 少し 身体休めたほうがいい』
と、怒られる。はい。すみません。
時間があれば、狩りにでる気満々なのはゲーマーの性です。
とにかく三日も何も食べてなかったのでお腹がすいた。
『とりあえずご飯にしようか?』
言って、私は勝手知ったる他人の家とやらでコロネの別荘の食堂へ向かった。
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「ああ、これは猫様、
寝込んでいたと聞き及びましたが
お身体の方は大丈夫ですか?」
私とリリが食堂につくと、そこにはすでに二人の先客がいた。
優雅にお茶を嗜む王子のリュートとグロッキー状態で突っ伏してるコロネだ。
リユート王子がにっこりとこちらに微笑む。
「ええ、お陰様で。
ご心配おかけしました」
「それはよかった。
何分我が師はあの状態でして」
チラリと王子がコロネを見やる。
「エルフである師匠でこの状態でしたから
プレイヤーとはいえ人間である猫様がなかなか目を覚まさないので。
もし今日目が覚めないようなら医者に診てもらおうと相談していたところでした」
「お心遣い感謝します」
私がペコリと頭を下げると、王子は人懐っこい笑で微笑む。
相変わらずのイケメンだ。
「コロネ 具合悪いなら 寝てれば?」
リリが心配そうにコロネの隣にぴょこんと座ると
「いえ、まだ猫様に助けて頂いたお礼を言っていませんでしたので……。
寝ているなどと恐れ多い事は……」
今にも死にそうな顔で頭を上げる。
いや、そんな重いお礼いらんわ。
たぶんレベル1になってた分、コロネの方がダメージでかいんじゃないだろうか。
「そんな事は気にしなくていいから、きちんと寝ててくれ」
「そうですよ、師匠。休んでいてください。
猫様とリリ様は私がきちんとおもてなし致します」
「……それが心配なんですよ……」
どさくさに紛れて言うリュートにコロネがジト目で睨む。
う、確かに私も嫌だわ。この王子。
性格悪いわけじゃないけど、何企んでるかまったくわからん。
この間もカマかけられたばっかだし。
確かにコロネなしでこの王子の相手は嫌だなぁ……あ、そうだ。
「コロネ、少しくらい食べ物は食べられるか?」
「……はぁ、少しくらいでしたら……
そういえばまだ食事の用意をしてませんでしたね。
今すぐ用意させますので」
「いや、用意しなくていい。私が持ってる」
言いつつ、私なアイテムボックスの中から食べ物を取り出した。
その名も愛しのカンナちゃんの愛妻手料理。
や、命名は勝手に私が言ってるだけなんだけど。
これはゲームをやってた頃ギルメンであるカンナちゃんが料理スキルの熟練度を100にするために作りまくった料理の数々だ。
スキル熟練度95から100になるまでの間、死ぬほど料理を作りまくった結果、余ったので私が貰っていた。
料理は、料理スキルが高いものが作ると魔法効果が付与されたりする。
確かこの中に「精神的ダメージを回復する」という、料理があったはず。
ゲーム中では精神ダメージなど存在しなかったので、バグアイテムか?とネットでは話題になっていた。
当時はまさか役にたつとは夢にも思わなかったが。
確かデザート系だったような気がするので、片っ端からデザート類をバックから取り出したのだ。
どら焼き、あんみつにショートケーキ、エクレアにドーナッツ、マフィン、チョコレートにゼリー、プリンなどなど
思いつく限りを取り出すと
「おおぉ!」
と、リリちゃんが目を輝かせながらそのデザート類に見惚れていた。
そういえば、コロネの家の食事ってデザートっていつも果物だったからリリちゃんはお菓子初体験か。
くまの形をしたドーナッツとかうさぎ型のケーキとか見かけも可愛いデザート多いし、そりゃ心踊るよね。
この間のお詫びもかねていっぱい食べさせてあげよう。
「これはすごいですね。
見たことのないお菓子もあります」
と、リュートが感嘆をもらす。
「ねね ネコ リリも食べていい?」
もしリリに尻尾がついていたらはちきれんばかりに振ってるんじゃないかというほどのワクワク顔でこちらに尋ねる。
「もちろん、リリも一緒に食べよう。
ただ、その前に確か精神ダメージが回復するデザートがあったはずだから、それはコロネと私の分ってことで」
「……料理にそんな効果が?」
げっそりした顔でコロネが聞いてくる。
「ゲームの世界では料理スキルの高い者が料理を作ると魔法効果が付与される。
……こちらの世界ではどうなんだろう?」
「こちらの世界でもし、料理に魔法効果が付与されていたとしても、誰も鑑定できませんから
気づかないかもしれませんね。
で・す・がそれよりもお二人はまず、それを食べて、回復する事を考えていただけると助かるんですが」
すぐに話が脱線する私とコロネにリュートが苦笑いを浮かべた。
小難しい事はあとで考えればいいから、とりあえず体調を本調子にしろということなのだろう。
……もっともである。
私は鑑定して、精神ダメージ回復の効果があったどら焼きをコロネに渡し、自分の分も確保する。
あとは全部リリちゃんに……というわけにもいかないので
「王子は何か召し上がりますか?」
と、尋ねる。
「よろしいのでしょうか?」
「可愛い系は出来ればリリにとっておいて頂けると嬉しいです。
あとはお好きな物をお選びください」
王子は礼を言うと、気になっていたというあんみつに手を伸ばす。
アンコは知識として知ってはいたがエルフでは小豆が手に入らないため、食べたことはないらしい。
「ねね りりはどれ?」
「残ったのは全部食べていいよ。
ただ、無理して全部食べなくていいから、腹八分目で」
パァァァァァと背景に花を咲かせそうな勢いの笑顔でリリはこくこく頷くと、ずっと目線で追っていたクマさんドーナツに手を伸ばすのだった。




