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20話 精神世界

『コロネが おかしい』


 リリが私を引っ張りながらそう言った。


 え?おかしい?それは前からのような。

 リリに言われてコロネを見てみれば、確かにその周りにうっすらと黒い霧のようなものが立ち込めている。


『そうですね何故、私はその考えに至らなかったのでしょう?

 考えもしませんでした。

 私はその可能性すら考えなかったのです、本当にエルフはゲーム化の前もあの地を守っていたのでしょうか?』


 私に答えるよう、コロネは話す。

 だが、その目は何故か虚ろで、私に話すというより独白しているといった感じにちかい。


 えと、これはどういう事だ?


『コ、コロネ?』


『ええ、思い返せばおかしいのですよ。

 私は極端に結界に関する知識が乏しかった。

 おかしいと思いませんか?神殿で一度神官長まで務めた私が結界の知識が乏しいなどありえない


 なのにその矛盾にすら、私はまったく気付かなかった


 それに、私は神殿で務めていた事すら記憶になかった』


 言葉とともに、コロネの身体から、黒い霧のような何かが湧き出る。

 ちょ!?なにこれ!?

 ただ事ではない自体に


『コロネッ!!もういいっ!!』


 私が彼の肩をぐいっと引っ張り顔を近づけるが、すでにその瞳には色がない。

 そう、虚無に近いのだ。


 私はこの瞳の人物を知っていた。

 NPCだった頃のコロネだ。


『私はなぜ……ね…こさ…ま……』


 コロネの手がまるで助けを求めるかのように、私に伸ばそうとし……


 ぶわっ!!


 一気に黒い霧がコロネの体を包み込んだ。

 まるで彼を呑み込むかのように。


「コロネッ――!!」


 リリが絶叫にちかい悲鳴をあげながら、コロネに手を伸ばすが、黒い煙に阻まれ――姿が消える。


 そう、そこにいたはずのコロネの姿はそこになかったのだ。


『どう、なってる?』


 私はコロネのセリフを思い出す。


――ある一定条件を満たすとまたシステムに組み込まれてしまうという可能性もありますから――


 確かに彼はそう言っていた。そう、私たちはその条件とやらを満たしてしまったのだ。

 

 迂闊だった。もっと慎重になるべきだった。


 何故ここで話し込んでしまったのだろう。何故ここで結界について思いついてしまったのだろう。


 私の思考を読んだのか、


『違うっっ ダンジョンのせいじゃない

 コロネ、あの日記の中から出てきた何かに連れて行かれるの感じた!!

 誰かに、コロネ 精神世界に体ごと連れていかれた!!』


 リリが叫ぶ。


 私はその言葉に、すぐさまコロネが解読していた日記を鑑定する


 ――異世界のレシピ本――

 異世界の料理レシピが記載されている本だが魔道具でもある。

 精神世界を通して直接記憶が、記憶されるため、登録者にしか解読は不能。


 状態:呪い

 アイテムを使ったものは精神世界へと連れ込まれる。


 ――くそっ!!

 原因はこっちか!?

 鑑定したらおもいっきり書いてあるじゃん!?

 え、何で私鑑定しなかったの!?

 コロネが知ってたアイテムだから安心してた。――ってああ、言い訳だよ!!


 自分の馬鹿さ加減に無償に腹がたつが、いまはそんな事を言ってる場合じゃない


 結局、これは罠だったのだ。

 マリア達がもっていた日記も私たちにワザと読ませた 恐らく女神が。

 でなければ説明できない。マリアの身体はこちらにあるのだ、彼女は精神世界に連れ込まれたりはしていない。

 つまりマリアの死後、呪いはかけられたことになる。


 では誰を狙って呪いをつけたか――アイテムを使用できるのはマリアの血筋の皇族。だがこれはない。


 こんな400レベルの敵が闊歩する場所に、人間の皇族がこれるわけがないのだ。


 つまり、最初から狙いはコロネ。


 そしてたぶん、本当の狙いはコロネと一緒に行動している女神に属さないプレイヤーである自分のはず。


 だったら―― 


『リリ、私を精神世界の中に入れる事はできる!?』


 私の問いにリリが何か言いかけて――言葉を詰まらせた。


 答えは――出来る。


 ただ、死ぬ可能性が高い所に、私を行かせたくない。

 でも、コロネも見殺しにしたくはない。

 行って欲しいけど行って欲しくない。

 二つの答えの間でぐらぐらと揺れている感情が私にも伝わってくる。


『リリ、できるよね?』


 私はリリに覚悟を決めるようにキツめの口調で問う。

 リリは諦めたようにコクりとうなずいた。


『念話、まだコロネと繋がってるからできる

 でも 行けるの カエデだけ

 リリ 行けない』


 ――やっぱり行ける手段はあった。

 つまり女神さんは助けたかったら、お前がこいと誘っているのだろう。


『わかった。じゃあコロネのところまで連れてってくれる?』


 私が言うと、リリはぎゅっと下を向き、押し黙り、そして首を横に振る。


『コロネ死ぬのヤダ…でもカエデもコロネも二人とも死ぬのはもっとヤダ』


『大丈夫。私は死んだりしないから。

 絶対コロネを連れて帰ってくる』


『嘘っ!

 カエデ、対策あるわけじゃない!リリわかる!

 精神世界何もわからないのに、行こうとしてる!!』


 泣きながら、リリ。


 うん。確かに反論できない。

 でも


『大丈夫。やれる。私を信じて、リリ』


 その両肩に手を添え、リリの目をまっすぐ見つめる。


『でもっ、リリ やだよ!!

 コロネいなくなって、カエデまでいなくなったら!

 コロネの中入っていったの、リリいままで感じた事のない気だった。

 カエデでも勝てるかわからない!!』


『リリ』


 私はそっとリリの身体を抱きしめた。一瞬リリはびくっとしたが、すぐに手を背中にまわして、胸に顔を埋める。


『大丈夫。何となくだけど、あの古代龍倒せた時みたいに、漠然と勝てる気がしてるから

 だから信じて?』


『そんなのっ そんなのっ 理由にならないよ

 リリ、もう嫌なの、一人になるの 嫌なのっ』


 えぐえぐ泣きながら言うリリに


『大丈夫、自慢だけど、私のカンはいままで外れた事ないから。

 時間がないの、お願い。


 絶対コロネも連れて二人で帰ってくるから』


 言って強く抱きしめる。

 震える小さな身体が、まだこの子は幼いのだと教えてくれる。

 ――確かに、この子を一人にするわけにはいかない。

 もとより罠なのだから行くべきではないのだ。


 でも、それでも――


 私は行く。

 きっとここでコロネを諦めたら、後悔するから。

 リリだってそう。気が動転しているせいで、今は私を失いたくない一心だがこれで月日が過ぎれば、どうして自分はあの時コロネを見捨てたのかと、苦しむだろう。

 そんな思いをリリにはさせたくない。

 それがどんなに辛い事か、私は知っているから。



 正直、私はメンタルが弱いのだ。そりゃもう、めちゃくちゃ。

 あーあの時、ああしておけばよかったと、一生後悔しながら生きていくくらいなら、今度こそちゃんと行動して、死ぬほうを選びたい。

もう、後悔するのはまっぴらごめんだ。


『お願いリリ』

 

 もう一度耳元で囁くと、 私の願いに、リリは泣きながら――頷いた。

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