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16話 ダンジョン脱出の巻物

 ザシュリ


 神殿の奥に続く一本道を、リリの身体が宙を舞い、それと同時に複数の魔物の身体がリリの鍵爪で切り刻まれていく。


 切り刻まれた魔物は、ポシュー と間抜けな音をたてて、霧散するとポトリと宝箱を落とした。


 私たちはまっすぐにリリの居たと思われるボス部屋に向かっていた。

 リリが敵を倒し、私は、リリが倒した敵の宝箱をアイテムボックスに回収する係りだ。

 ここに現れる敵はレベルが400以下のため、既に私たちの敵ではない。


『リリ 神殿の中に入ってなにか思い出せた?』


『うーん。思い出せない』


 リリが首を横に振り

『リリ、この景色は知らないと思う』

 キョロキョロ辺を見回した。


 私もつられて、辺を見回すが、不思議なのはこの通路。

 人間ならかなり広く感じるが、ドラゴンであるリリが通るには少々――というかかなり狭い。

 神殿の柱をなぎ倒さないと、通れない狭さなのである。

 なのに入口へと続く通路の神殿の柱は劣化はしているが、一本も倒れた様子がないのだ。


 リリはどうやってどうやってこのダンジョンを出たんだろう?

 別の出口でもあったのだろうか。


『ネコ、リリ居た場所 たぶんここ』

 

 そう言ってリリは豪華に装飾された扉の前で止まった。


 もういかにも、この先ボスの部屋です!と言わんばかりの扉がそこには立ちふさがっている。

 まぁ、ゲームでは、ボスに備えて回復したりするようにと、ボス前はわかりやすくそれらしい雰囲気になっているのでここもその一つだろう。


 しかし、本来のボスであるはずのリリがここにいるのだから、このボス部屋、今誰がいるんだろう?


 私は念の為、【魔力察知】を発動させ――






 ――気づく。



 うん。何もいないっぽい。

 

 ですよねー。だってボスモンスターのリリがここにいるんだもんねー。


 誰もいないとわかりつつ、それでも私は慎重に扉を開けた。

 そこは、見るからにボス部屋といった感じの豪華な装飾の部屋だった。

 リリが動けるようにだろう。

 他の部屋に比べるとずっと天井が高く、部屋もかなり広い。


 

 そしてその部屋の奥にはリリが言っていたダンジョンに続く扉があり、――奥の方にぽつんと何故かテントがあった。


 ――へ?


 それは私もよく知っているテントだ。

 プレイヤーが、ダンジョンや森などでも安全にログアウトや寝泊りできるように、設置するテントで課金アイテムである。

 もちろん課金アイテムだけあって、あの中なら魔物に襲われることもなく、100%安全に過ごせる。

 私も何個か持っているが――


 これがあるってことはプレイヤーがいる!?


『ネコ、あれって?』


 リリも不思議に思ったのかテントを指さしてきいてきた。


『プレイヤーのアイテムだね。

 でも、【魔力察知】した時、人の反応はなかったし中は空なのかな?』


 言って、私は慎重にテントの中を覗き――



 絶句した。


『これ、人の骨?』


 同じく中を覗いたリリが首をかしげる。


 そう、そこにあったのは人の骨。何日かそこで生活したのであろう、食事をしたあとのお弁当箱などのゴミが散乱した中にそれはあった。


 骨が身に付けていたと思われる装備を見やれば、コロネにあげたものと同じ精霊シリーズの法衣だ。

 コロネの言うことが本当なら、こちらの世界の人間では手に入らないと言われる伝説級の装備である。

 そしてこの中身空っぽのお弁当箱。

私はこのお弁当箱に見覚えがあった。

 ガイアサーバーで、料理スキルでお弁当を作ると、このお弁当箱に入った状態ででてくる。

 ガイアサーバーではお馴染みの弁当箱なのだ。もちろんプラスチック製で、この世界で手に入れるのは考えにくい。

 つまりこの骨はプレイヤーだったのだ。


 ――んぐ。


 つい吐き気がこみ上げてくる。

 神威が死んだときには何も感じなかったのに。

 同じ日本人だったはずのプレイヤーの死体に、私はなにかモヤモヤしたものがこみ上げてくるのを感じた。


『ネコ、大丈夫?』


 リリが心配そうに顔をのぞき込んできた。

 

 正直、大丈夫とは言い難いが、こういう世界だ。

 これから先は他のプレイヤーの死にも対面しなければいけない事があるかもしれない。

 こんな事でいちいちメンタルをやられるわけにもいかないと、私は大きく息を吐いた。


『大丈夫、ちょっと驚いただけ』


 私は改めて白骨死体を見やると【鑑定】を使用した。

 何かわかるかと期待したが


 出てきたメッセージは


「返事はない、ただの屍のようだ――」


 だけだった。


 うおぉぉぉぉつかえねぇぇぇ!?見ればわかるわ!そんなこと!

 そういえばこのゲームの鑑定は 人、モンスターと魔道具やアイテム武器装備以外の鑑定はすごく適当だったわ!

 

 からっぽの樽など鑑定すれば たぁる♪ などとフザケたメッセージがでてくるほど、適当っぷりなのである。

 まぁ、適当なメッセージの中には何個か元ネタがあって、ネットでは●●が元ネタだ!などと話題にはなったが、使えないものは使えない。

く、運営が手を抜いた結果がこれだよ!


 そして私はあるものを見つけて、ハッとする。

 テントの片隅にはいまいましげに破られた、巻物が転がっていた。

 私はその巻物に覚えがあったのだ。


『ダンジョン脱出の巻物』

 

 課金アイテムで、アイテムボックスに一つだけ入れる事のできるアイテムである。

 一度使うまでは課金で買い足す事もできないため、常に一つしかもてない。

 またこの巻物は一人にしか使えないため、本当に緊急脱出用のアイテムなのだ。

 ちなみにこの世界では課金アイテムを買う事はできない。

 ボタンを押しても反応しなかったのだ。

 


 そして、巻物を見やれば、既に使われていて、その効力を失っていた。




 ここで、ひとつの仮説が生まれる。

 もしかして、このプレイヤーをこの世界に呼び出したのは、ボスモンスター時代のリリだったのではないだろうか?

 リリが、何気なく使った召喚魔法に、このプレイヤーは呼び出されてしまったのだ。


 精霊アイテムを装備していたところをみると、このプレイヤーも、恐らくレベルが200くらいだったはず。

 レベル400のリリに敵うわけなどない。

 だから、慌てて『ダンジョン脱出の巻物』を使ったのではないだろうか?


 だが、慌てすぎたため、本来自分に使うはずのダンジョン脱出の巻物をリリに使ってしまったのでは?

そのせいで、リリはダンジョンの外に追いやられ、システムから開放された。


 だが、プレイヤーはリリを外に出すことには成功したが、レベル200ではこの神殿の魔物達に敵うわけもなく、ボス部屋からでられなくなったのではないか?

 そしてボス部屋に閉じ込められたまま、過ごすうちに何らかの理由で死亡してしまった。



 これなら、とりあえず説明がつく。


『この人 リリのせいで 死んじゃったの?』


 泣きそうな顔でリリが聞いてくる。


 うおおおーしまった念話したままだった!!

 リリに私の思考が伝わちゃったらしい


『や、まって。さっきのなし!

 さっきの説明だと、何点かおかしいこともあるし!』


『おかしい事?』


『だって、プレイヤーも敵のいない状態なのに、ボスモンスターだった、リリが召喚術使うってのも変な話じゃない?

 ボスモンスターの時はプレイヤーと闘うまでは、棒立ちしてただけなんでしょう?

 呼ばれたのは別の理由かもしれない


 別の理由で召喚されたのがたまたまリリの前で、リリは普通に戦闘しようとしただけかも』


『でも、リリに巻物使ってなければ、この人外出れた』


 目にいっぱいの涙を貯めてリリが下唇を噛み締める。


『んー。外に出れたとしても、結局同じだったんじゃないかな。

 装備から察するに、私と同時期にやっていた人っぽいからレベル200のプレイヤーだと思う。

 外のモンスターも神殿のモンスターと同じでレベル300以上だし。

 レベル200のプレイヤーじゃ太刀打できなかったと思うよ。

 結局、怖くてその場から動けなくて、結末は変わってなかったと思う』


 そう、プレイヤーの装備や散らばっている荷物を見ると、どうやら『ガイア』サーバーの人間らしい。

 正直、ターン制で、自分たちが攻撃する時は敵が棒立ちして、ご丁寧に攻撃をうけてくれる戦闘に慣れていたプレイヤーが、この世界の格上モンスター相手に勝利を収められるとは思わない。



『……でもっ』


『責任を感じなくていいとは言わないよ?


 でも、それが本当にリリのせいかわからないでしょ?

 いま、勝手に責任を感じるのも違う気がする。

 もしかして、このプレイヤーを殺すために、別の誰かがリリの前に呼び出した可能性だってある。

 もしそうなら、悪いのはそいつだし


 結論はもう少し調べてからにしよう?コロネを連れてくればもう少し何かわかるかもしれないし』


 私の言葉に


 ぐしっ。


 リリが必死に涙を拭い、無言で頷いた後


『……うん。わかった 泣かない』


 と、頷くのであった。

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