13話 レベル上げ
「ネコ ここでなにするの?」
リリが不思議そうな面持ちで、尋ねる。
コロネを仲間にした次の日、私たちはカルネル山脈の麓にいた。
いろいろ試したい事があったからだ。
すでに私とリリ、コロネはパーティーを組んでいる。
「昨日話していたレベル上げだよ。
さっき三人でパーティーを組んだろう?」
「うん! リリ メッセージ ウィンドウ 「はい」 おした!」
「そう、それ。
パーティーを組んだ状態では
私が倒した敵の経験値が二人にも配分される」
「ほう、他人が倒した敵の経験値が手に入るとは、面白い仕組みですね」
コロネが顎に手をあてて、……にやりとにやけた笑を浮かべる。
今こいつ、絶対「猫様の経験値ハァハァ」とか考えたろ。
顔はせっかく私好みのイケメンオヤジなのに中身が変態すぎて全然萌ない。
「二人とも、敵を倒すにあたって注意がある」
「ちゅーい?」
「基本パーティーを組んでいると、その人数分、均一に等分されるが
経験値は獲得できる範囲があり、
敵を倒した人が目視できるくらいの範囲が経験値範囲となる」
「見えないとこ いる どうなる?」
「倒した人がその魔物の経験値を100%もらえる。
二人とも私が敵を倒すのを見れる範囲内にいてくれ」
「リリとコロネ なにもしないの?」
リリが首をかしげて尋ねる。
「そうなるかな。
昨日コロネとも相談したんだが、いつ結界が破れるかわからない。
もし結界が破れて野に放たれたら困る、高レベルの魔物から倒す事にした
まず600レベルあたりの敵を倒す事にする
リリとコロネには少々キツイので安全な所で見ていてほしい」
以前の私なら絶対引き受けない提案だったが、スキルポイントを割り振ったおかげで、、【魔力察知】のスキル熟練度が80になった。
前は、何となくここに敵がいるなーと察知できるレベルから、敵のレベルまでわかるようになったのである。
この山をざっと調べた所、一番レベルが高い敵で700。
レベル50差もあればほぼ敵からのダメージが通らないはずなので、楽勝レベルの敵しかいない。
「リリ ネコの 役に たちたかった」
リリが不満そうにぷくぅっと頬を膨らませる。
「じゃあ、コロネの護衛を頼もうかな?出来るかリリ?」
コロネは一応エルフ族の中では最強レベルの143だが、申し訳ないが私達から見ると雑魚の部類。
下手をすれば流れ弾で死んでしまうのだ。
「コロネ まもる オシゴト?」
「そう、それがリリのお仕事」
私の言葉にリリはパァァァァァっと顔を輝かせ、にっこりと微笑むと
「うん! ガンバル!」
と、コロネに抱きつくのだった。
△▲△▲△▲△▲△▲
『いやぁ、冷酷な笑みを浮かべながら、モンスターを惨殺していく姿はさすが猫様。
その姿は神々しいまでに美しい!
ああ、レイド時代の数々の思い出が蘇ります!!』
――興奮してんな変態。
『ネコ たのしそう こういうの なんて いうんだっけ
えーっと、プレイヤーが 昔 言ってた 気がする
たしか…… 呉越同舟?』
――なんでだよ!?
なんでいまその四字熟語でてくるかな!?
全然違いますリリちゃん。
一人、モンスターを倒す私からちょっと離れた所で呑気に見学している二人の会話がパーティーチャットを通じて私にも聞こえてくる。
ちなみにパーティーチャットは念話に近い。
パーティーを組んでいる人にしか聞こえない会話だ。
口を動かす必要もないので、読唇術などの心配もない。
本来なら、戦闘中なので二人の会話など聞いている余裕などないのだが、レベル500で獲得できるスキル【並行思念】で同時に二つのことまでなら考える事ができるようになったのだ。
熟練度をあげていけば、最大五つの事まで考えられるようになるっぽい。
とりあえず私は大量の魔物達の間隙を縫うように駆け抜ける。
すれ違いざま、モンスター達に糸を巻きつけながら。
そして――
モンスター達の群れから抜け、間をとると
ピンッ!!
【糸使い】のスキルを使い糸を張り詰めた。
途端――ビシュッ!!
モンスター達の首やら胴体やらが、真っ二つ引きちぎられる。
巻きつけた糸によって骨ごとまとめて切断されたのだ。
うおぉぉぉぉぉぉ!!これだよ!!これっ!!
私の求めていたものはこれだ!!
私はレベル300から獲得できる『トラップマスター』のスキル【糸使い】の広範囲攻撃に感激の声をあげた。
いや、だって、ほら、みんなの憧れる糸使いだよ!?
ぴんっと引っ張って、敵が一斉に倒せるとか漫画っぽい!
颯爽と敵の間を掻い潜り、最後に決めポーズとともに、糸を引っ張ると敵を倒すとか、中二心をくすぐられまくりだよね!
前も糸使えたけど、こんな広範囲には使えなかったし!!
ゲームではレベルが足りなくて、スキルを獲得できなかったが、いまこうしてスキルを獲得できたのである。
感動もひとしおだ。
ドコォォォン。
体躯の一部を失い、事切れたモンスター達が一斉に地面に崩れ落ちる。
リリ達に経験値が行くように、ワザとモンスターをこの場所まで誘い込み、一斉に倒した。
MMO用語でいう、経験値範囲まで敵を釣ってきたというやつだ。
≪ ホワイトドラゴン リリのレベルが上がりました ≫
≪ エルフ コロネ・ファンバードのレベルが上がりました ≫
≪ ホワイトドラゴン リリのレベルが上がりました ≫
≪ エルフ コロネ・ファンバードのレベルが上がりました ≫
≪ ホワイトドラゴン リリのレベルが上がりました ≫
≪ エルフ コロネ・ファンバードのレベルが上がりました ≫
敵の経験値が入り、システムメッセージがリリとコロネのレベルアップを告げる。
二人には課金アイテムである経験値増加のオーブを持たせているので、面白いようにレベルがあがっていた。
ちなみに二人は精神世界に耐性があるとかで、私のようにレベルアップしすぎて意識を失うとかはないらしい。
うらやましすぎだろ。私もキャラ作成の時、種族をエルフにしておけばよかった。
に、してもこれがゲーム内なら「レベルアップおめ!」だの「おめおめ!」だのコメントを言うところだが、二人ともレベルの上がりがすごすぎていちいち声をかけていられない。
ゲームと違って自分より高レベルの敵を倒すと通常より経験値を多くもらえるせいで信じられないスピードでレベルがあがっている。
気づけばリリがレベル552 コロネがレベル493 と、なっていた。
種族の違いか必要経験値の違いなのか、コロネの上昇っぷりが半端ない。
私も気づけば777というキリのいい数値だ。
うん、どうやら張り切りすぎたらしい。
もうこれ環境破壊レベルよね。殺戮しすぎて生態系変わるレベル。
まぁ、今回はそれが目的だったりするのだが。
まず、魔物は何故生まれるのか。
魔素と呼ばれる魔力が一定濃度集まると魔物が発生するらしい。
いま人間やエルフの住んでる地域は、ゲーム時代より魔素濃度がぐっと低くなっているため、森や山などモンスターの発生地域でもせいぜい生まれる魔物はレベル30止まりなのだそうだ。
で、何故このカルネル山脈にレベル700とかいう規格外の魔物がいるのかと言うと、古代龍カエサルが魔素を放ちまくってたせいだ。
なので、カエサル亡き後、この山にいる魔物を倒して死体を放置せず回収していけば、山脈の魔素濃度がどんどん下がり、生まれるモンスターのレベルも低くなっていく。
と、いうわけでアイテムボックスにはいまモンスターの死体が盛りだくさんだ。
私が殺戮しまくったせいか、確かに後から発生するモンスターのレベルはどんどん下がっている。
最初はレベル700クラスの魔物が結構いたのに、今ではチラホラ600レベルの魔物がいるかいないかだ。
ほとんどがレベルが400以下の魔物になっている。
そろそろ二人もレベルが上がって、敵のレベルもリリ達に丁度いいくらいだし、明日は二人に任せてみようかな?
そう誓って、私は二人に今日の狩の終了を告げるのだった。




