10話 葬魂の宝珠
「やはりあのプレイヤーから話を聞かないとダメですか?」
私はコロネに尋ねた。
既にあれから場所を移動して、神威の石像が保管してある村の神殿に向かって歩いている途中である。
「はい。
しかし、あまり気分が乗らないご様子ですが
何かありましたか?」
「リリ サリーの きおく ネコ に
オクッタ ネコ とても カナシクナッタ」
コロネの言葉にリリが答える。
って。そんな重要な事までバラすかリリちゃん。
心を詠めるとか、超秘密事項じゃないか。
「……ああ、なるほど。
ホワイトドラゴンも記憶転写が使えるのでしたね。
サリーの記憶を猫様に送ったということは記憶読み取りまで可能ということですか。
なかなかどうして。リリ様も規格外の力をお持ちです」
と、頷くコロネ。
いや、あれだけの説明でそこまで察する事ができるあんたも、なかなか規格外っていうか。
頭はいいよね。変態のくせに。
コロネはぽんぽんっとリリの頭を叩くと
「昨日、猫様が急に顔色が悪くなった理由も何となくわかりました。
リリ様、記憶や映像を送る念話は、エルフやドラゴンなど精神世界に生まれながら耐性を持っている種族には問題ありません。
ですが人間や獣人、プレイヤーなどには使わないでください。
下手をすれば、精神崩壊し、死に至る事もあります」
えええええ!?そんなにやばい代物だったの!?
通りで気持ち悪かったわけだ。
記憶が詠めるなんてすごくね!? とか、私も安易に考えすぎてた。
コロネの言葉にリリが泣きそうな顔になる。
「リリ、ネコ コロス トコロ ダッタノ?」
コロネはしゃがみこんでリリと視線を合わせると
「否定してあげたい所ですが……。
今後のためにも、正直に言わせていただきます。
死んでいてもおかしくない事を貴方はしてしまっています。
強大な力を持っているドラゴンの常識は、脆弱な人間種には通じません。
幸い、猫様はレベルが高かったため無事でしたが、普通の人間なら即死です。
今後は、力を使う前に私に相談してください」
リリがぐしぐしと涙を我慢しながら、コロネの言葉にぶんぶんと頷いた。
「リリ、ネコ しぬ イヤダ もう シナイ!」
「それが解れば十分です」
コロネがぽんぽんとリリの頭を撫でてあげている。
「そ、そうだぞリリ。
次から気を付けてくれれば、自分は気にしてないから」
私が言うと、リリは堪えきれなかったのだろう、目から大粒の涙を流しながら抱きついてきた。
「ゴメンナサッィっ リリ ネコ ダイスキ
シンジャいやダ キヲツケル キヲツケル から」
私の胸でわんわんと大声で泣き出す。
ええっと。困った。小さい子の扱いって慣れてないんだよな。
なんとか慰めてあげたいのだけれど、いい言葉が浮かばない!
「飴あげるから泣き止んで!」とか通じるのは3歳くらいまでだったかっ!?
どうすりゃいいのよこの状況。
「大丈夫、大丈夫だからっ!」
私は泣きわめくリリの背中を一生懸命撫でた。
しかし、そんな私達にお構いなしに
「いやぁ、しかし、念話で他人の記憶を見せられても精神崩壊をおこさないとは!!
さすが猫様!!このコロネ感服いたしました!!」
空気も読まず、また感動しはじめるエルフのおっさん。
うん。お前だけはぶれないわ。
コロネって意外とまともじゃんと思った自分を責めてあげたい。
△▲△▲△▲△▲△▲
「ここです」
泣きはらした顔のリリと、涙でベタベタになってしまったマントを着込んだ私達にコロネが案内したのは、神殿内の牢屋だった。
そこには勝利を確信した顔でオーブ片手に固まっているプレイヤーこと、神威の石像があった。
魔方陣の上に金の鎖でぐるぐる巻にされた神威の石像がちょこんと置かれている。
うーん。顔見るだけでもムカつくわ。
「猫様は石化の解除だけお願い致します。
聴取は私達にお任せください」
既にコロネから話を聞いていたのか、筆記用具をもった文官のようなエルフや、重装備の騎士達がコロネの隣に控えている。
「でも、石化を解いた後、神威を制御できるのですか?」
私の問いにコロネがニコリと微笑むと、
「この施設の中でこの金の鎖で巻かれたものは聖樹の力で魔法は使えません。
神々が作った施設を再利用しているものですので、プレイヤーにも効果があるとは思うのですが……。
もし何かあった時のために、猫様にもそばで待機していただけると助かります」
ちゃっかりSOS信号をだすコロネに、私はやれやれとため息をついて頷いた。
話を一緒に聞いてたら胸くそ悪くなって、殺してしまう自信があるので、私は石化を解いたら、すぐ隣の部屋に待機しようと心に決めた。
私は神威に手を伸ばすと、『石化解除』。
術を発動する。
これで神威の石化は解ける――はずだったのだが。
ぱしぃぃぃぃぃん!!
それは砕けた。
――へ?
場が固まる。
そう砕けたのだ。
石化していない人間が。
そりゃもうぐっちゃぐちゃに。
あちこち飛び散る血と肉片。
髪や歯だったのだろうなぁとかそういうものが壁中にべったりつきまくっている。
咄嗟にシールドを張ったので、私やそれ以外のエルフ達にも直撃はしなかったが…。
うおぉぉぉぉ!???
グロテスクだよスプラッタだよ!???
いーーーやぁぁぁぁ!??
ゲーム上ではモンスターを倒しても、その場でぽんっと消えて、宝箱一つ残して死体は消えてしまうのでグロ耐性はあまりなかったりする。
「えーーっと、猫様?」
尋ねるコロネの目がジト目で「殺しました?」と問うているが、私はぶんぶんと首をふる。
確かに殺したいとか思っていたけど、私じゃない。
もし殺すとしてもこんな、自分にも精神的ダメージくるような殺し方しないわっ!!
心配してリリの方を見やれば、リリはきょとんとしてる。
『リリ 山で 魔物 死体 よく見てた これくらい問題ない
ネコは こういうのも ニガテ ナンダ?
にんげん ムズカシイ』
念話でそういうと、むむむと、リリはリリで別の事で悩みはじめた。
うう、すいません。最初からこっちの世界に住んでる人なら耐性あるかもしれないけれど、平和ボケした日本人の私には刺激が強すぎます。
「……コロネ様、あれは?」
文官の格好をしたエルフが、牢屋の中央を指さした。
コロネが神威の石像があった場所を見やる。
そこにポツンと置かれた、神威が持ってたオーブがあったのだ。
途端、みるみるコロネの顔が強ばるのがわかった。
どうやらすごくヤバイものらしい。
「皆、絶対にあの宝石に触らないように。
失礼ですが猫様。鑑定はできますか?」
コロネの言葉に私は頷き、オーブを鑑定した。
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【葬魂の宝珠】
すでに宝珠はその力を失い、いまはただの宝石になりはてている。
魔王『エルギフォス』が人間たちを服従させるとき使用したと言われる宝珠
その魂をにつなぎとめ、絶大な力を与えると同時に、魔王ならいつでもその人間の命を奪えるという性質をもつ。
また天に掲げて呪文を唱えると、自爆する。
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oh…NOーー
もしかして神威は、意気揚々と自滅のアイテム使ってたってことっすか。
それはそれで、可哀想っていうか。いや、あんな人間可哀想じゃないけど。強いていうなら哀れ?
女神に貰ったとき【鑑定】すればよかったのに。
ガイアサーバーの人間って攻略サイト見れば事足りる事多いから【鑑定】とってない人多いいんだよね。
意外に鑑定って必要スキルポイント高いからなぁ。
にしても、異界の女神とかわけわかんないワードがでてきたと思ったら今度は魔王までご登場ですと。
あー、でもゲームでも1000年前の魔王関連のクエストあった気がする。
ただ、まだ実装前のイベントだったから、こうご期待!! くらいしか書いてなかったので、詳細はわからんけど。
「どうやら、神威とかいうプレイヤーは口封じされたようですね。
石化させられた時点で殺されていたのかもしれません。
とにかく、私は今までの事を本国の方に伝えてきます。
猫様やリリ様はしばらく私の屋敷で休んでていてください」
私とリリににっこりと微笑み、文官にあとは任せると、コロネは颯爽と立ち去っていく。
どうやらちゃんと仕事はできる方らしい。




