合戦五日目:武器奪還作戦前夜。
月明かりのみを頼りに俺と鶴、盛安の兵士100人は五街道沿いにある森を目指して移動していた。
星が落ちてきそうなほど夜空には雲ひとつなく、一際輝く満月が俺達の足元を照らしていた。
奇襲作戦が気づかれないために、俺達は整備された道ではなく、木々が茂る道をひたすら真っすぐに進んだ。
「なぁ兄ちゃん」
後ろからついてくる家盛の部下の一人が声を上げた。
「何だよ」
「この小さな子はお前さんの連れか?」
「そうだけど」
俺が言うと、周りが急に騒がしくなった。
「こんな小さな子がどうしてここに?」
「この子女ん子じゃねーか。まさか戦わせる気か?」
「顔全然似てないし。まさか……誘拐」
「囮に使うつもりでここまで連れてきたんだろ」
好き放題言いやがって。俺は立ち止まって、隣を歩く鶴の肩に手を回し引き寄せて言った。
「ふぇ!?しっ、ししょう!?」
「こいつは俺の弟子だ。言っとくけど、こいつはお前らより数倍強いぞ」
俺を囲む周りの兵士の合間からさらに大きなどよめきが上がった。
「十兵衛さんの弟子……?」
「こんな小さい子が……?」
「十兵衛のお墨付きか。そいつは期待できるな」
「てことは、こっちは十兵衛が2人いるようなもんじゃね?」
「化物が2人いるだと……!?」
「ならもう俺たちいらねーな」
「2人に任せて俺たちはもう帰ろう」
最後の方、やる気なさすぎだろ。確かに夜の出兵ってすごい疲れるけどさ。一応俺たち頼まれて参加してる側なんだよね。その言い方はちょっとひどくない?
「……師匠が私のこと弟子って……ふふふ♥」
隣にいる鶴は、ここまで言われても嬉しそうな顔をしていた。
まぁ、鶴が嬉しいなら別にいいか。
林を抜けると、整備された道に出た。地図だとここがおそらく五街道だ。
「このままこの道を少し進むと森がある」
しばらく道を歩くと、目的地の森が姿を表した。
逆光で漆黒に染まる森の麓まで着くと、俺達はその中に入る。
「師匠ししょう!星が綺麗です!」
「そうだな」
「えへへ」
森の木々に星の実がなり、それは今にも落ちてきそうなほど、大きく、重く見えた。
鶴は野原を駆け回る犬のようにはしゃぎ、木々の間を駆けていく。
部隊内の雰囲気は比較的穏やかで、合戦を備えた兵士たちの姿ではなかった。
「十兵衛さんと鶴ちゃんがこんな感じだからね。僕達も緊張しなずにすんでるんですよ」
部隊内の大半がおじさんを占める中、その中でも比較的若そうな男が言う。
「そうですかね。俺はいつも通りなんだけど」
「いつも通りがいいんですよ。ピリピリしてると、僕達も不安になりますし」
そういうものなのか。
「明日が、僕達の最後の戦いになるかもしれませんし、鶴ちゃんを見ていると、それを忘れられます」
「………」
この作戦が失敗に終わった時。おそらく俺たち全員、政府によって処刑されるだろう。
それはおそらく、鶴も例外ではない。
俺はそれを忘れていた。いや、違う。きっとその事実から目を背けていただけだろう。
「なにしけたつらしてんだ。十兵衛!」
「お前さんがいれば大丈夫だ。きっと作戦はうまくいくさ」
「部隊長がそんなんでどうすんだ」
いつの間にか、俺の周りには沢山の仲間がいた。
俺は一人一人の顔をしっかり確認する。
俺は明日、こいつら全員の命を背負うんだ。ここに、心に、深く刻んでおかなければならない。
「師匠!」
視線の少し下から、弟子の元気な声が聞こえる。俺は鶴を見る。
弟子の命を背負う。こんなに小さな女の子の命を。
俺に、ここにいる全員を守ることができるのだろうか。
そんな俺の心配を吹き飛ばすかのように、敦が言った。
「絶対勝ちましょう!師匠ならできます!」
「……」
俺が黙っていると、部隊のやつらが次々に大声を上げた。
「よく言った!鶴ちゃん!」
「おいおい。十兵衛よりよっぽど肝の据わった子じゃねーか!」
「十兵衛が心配するほど、俺達は軟な連中じゃねーぜ!」
ははは……こいつらは。
俺は深呼吸をする。高ぶる感情をなんとか落ち着かせる。
部隊長らしく、ここはしめますか。
「よしお前ら!明日が俺たち、十兵衛隊の初陣だ!きっちり戦果を上げて、盛安に褒美をもらおうじゃねーか!」
「「「おぉぉぉ!!」」」
_____さぁ、合戦の始まりだ。




