合戦四日目:作戦会議
奇襲作戦二日前。
三日前くらいから、鶴が我が家に住み込むことになった。内弟子というやつだ。
剣豪の世界では、内弟子は言うほど珍しくない。特に戦国時代に入り、貧しい時期が続いていたため、剣豪や武将の家に弟子として住み込むことは普通のことだった。
鶴が来てから変わったことといえば、まずは食事だ。
鶴は家にある数少ない食材をどうにかして上手に調理し、朝、昼、晩と料理を作ってくれた。鶴の作った料理は、俺が作るものとは比べ物にならないくらい美味しかった。本当に同じ食材を使って作ってるのか疑うレベルだ。
次に、毎日鶴に稽古をつけるようになった。
初めて教えた日から数日しか経っていないが、教えた動きは体に染み付き、みるみるうちに上達している。
強くなっていく弟子の姿を見るのは、指導者としても嬉しかった。そのほうが教えがいもある。
今日も昼から鶴と稽古に出かける予定だった。だが、
「でっ、……なんで盛安さんはうちにいるんですか?」
俺は、我が家で平然とくつろいでいる家盛に言った。
「まぁまぁ十兵衛はん、そんな怖い顔せんでも」
いつものようにがははと笑うと、家盛は言う。
「今日は弟子の嬢ちゃんに会いにきたんだわ」
「油打ってないで、明後日の作戦でも練って下さい」
「ほな、せっかくだしここで練ろうか」
……それが目的か。
鶴は盛安が持ってきた野菜や肉を使って、食事の準備をしている。
俺と盛安は机を囲み、その上に地図を広げた。
「情報によると、没収した武器を保管してる場所は、久留米城付近の蔵の中らしい」
「久留米城か……」
久留米城は五街道に比較的近い城だ。そこの付近に蔵があるのであれば、保管する場所としては絶好の位置だ。
「まず部隊編成なんだが。部隊は2部隊に分ける。奇襲をかける部隊が、十兵衛はん率いる100人部隊。わいの部隊の中でも、選りすぐりの精鋭や」
「それで、もう1部隊は?武器も無しに何をやらせる気だ?」
「もう1部隊、つまりわいの部隊は、十兵衛はんの部隊が奇襲を成功させた後、倒れた兵士や、運んでいた武器を奪い一気に久留米城を目指す」
「城を落とすきか?」
「んなわけあるかい。目的は蔵や、それにあそこの城をとっても用はなさん。もっといい城はほかにいくらでもある」
「はぁ」
一通り作戦の内容を聞くと、大鍋を抱えた鶴がおぼつかない足取りで机の前まで来ると、それを置く。
「できました」
「おぉ!流石鶴の嬢ちゃんやな」
「おいおい……そこ地図の上……」
あわわと慌てる鶴を俺達は笑った。
「鶴の嬢ちゃん。これは何の料理だい?」
「ええっと、料理の名前とかはないですが……お肉と野菜を入れて、あとは味噌で味を整えただけです」
「へぇ……けど、味噌汁とは全然匂いが違うな」
「ほなはよ食おう。せっかくの料理が冷めちまう」
俺達は各自おわんにそれをよそい、鶴の作った料理を食べる。
「……うまいなこれ」
俺はまじまじと味噌汁らしきものを見る。これは本当に味噌汁なのだろうか。肉の旨味が口いっぱいに広がり、それでいて体全体を包み込むかのような優しい味。
「……わいの嫁にほしい」
このおっさんは何を言ってんだ。
「そうそう、さっきの話なんだけど、奇襲のかけ方ってなんか作戦とかあるのか?」
「んん。そうやな。特にわいのほうでは考えてない。作戦っていっても結局は力勝負でうちが負ければ奇襲失敗や。だから十兵衛はんの器量にかかってるでぇ」
無茶苦茶だ。作戦の肝となる奇襲の仕方は全く考えてないのかよ。俺が考えるか。
「まるで、俺が大将みたいだな」
「それを言うなら軍師やろ」
「確かに」
「師匠が軍師様!?」
さっきまで黙々と食べていた鶴が、軍師と言う言葉に反応して、素頓狂な声を上げる。
「刀の腕が立つだけでなく作戦も考えられるなんて、やっぱり師匠は天才です!」
師匠への尊敬の眼差し。眩しすぎる!!
「………いや、俺作戦を考えるのは得意じゃないよ。実際に大阪夏の陣の時は幸正ってやつに任せてたし」
「あぁ、あいつは本物の天才やな。やつがいなければ大阪城は冬の陣で陥落しただろうなぁ」
盛安さん。その言い方だと俺が偽物みたいになってますよ。
「そうなんですか……」
ほら、弟子がすごくがっかりした顔してるじゃないか。
「でもでも十兵衛はんも大阪夏の陣で幸正と共に西軍最大の活躍をしたんやで。わいはその功績を見込んで今回の作戦に十兵衛はんを入れたんやからな」
「………さすが師匠っ!」
楽しそうに話す盛安と、山の天気のようにコロコロ表情を変える鶴を交互に眺めた。
こいつらのためにも、今回の奇襲作戦は絶対に成功させないとな。
俺は2人の会話を聞きながら、奇襲作戦の内容を考えていた。




