表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

合戦二日目:少女、弟子となる。




 あれから五日後。

少女が俺の前に姿を表すことはなかった。

初めて少女に会った時、少女が着ていた布切れだけが、部屋に取り残されていた。

それを見るたび、少女と過ごした時間を思い出した。


「無事に家に帰れたかな」


 少女の家は山を一つ越えたところにあると言っていた。五日もたってれば、もうついてるだろう。

……そろそろ時間か。

今日、俺はとある人物と会う約束をしていた。

昨晩、家の壁を貫いて矢文が届いた時は、本当にびっくりしたけど。

その人は家にきてくれるみたいで、矢文には時間と、話す内容について書かれていた。


「きたぞぉ」



 外から、矢文主であろう人物の声が聞こえてきた。俺はすぐに戸を開けた。



 彼の名は長宗我部盛安。西軍として大阪夏の陣に参加した一人だ。西軍主要人物の一人でもある。彼は大阪夏の陣後、3000の兵を引き連れて中国地方を横断。無事に九州まで逃げ延びることに成功した。

現在は俺と同じで政府にばれないように身を潜めている。

盛安は指貫を履き、上半身は中に小袖を着込み、その上に松の絵が描かれた胴服を羽織っていた。


「あいかわらず何もねぇ部屋だな」


「ほっとけ。そこら辺に適当に座ってくれ」


「そうさせてもらうわ」

 

 がははと豪快に笑う。盛安は畳に座りあぐらをかく。向かい合うように俺もあぐらをかいて座る。


「話を聞かせてくれ」


「十兵衛はんはあいかわらずせっかちやな。ほら、酒持ってきたし、これでも飲んで少しは楽しもうや」


 盛安は酒坏に酒を注いだ。俺はそれを貰い、一気飲みする。うっめぇ……


「でぇぇ……話ってなんだよ盛安ぅぅ」


「十兵衛はん、酔うの早すぎや……まぁええ」


 そういって、盛安は真剣な面持ちで話し始める。


「最近、政府が新しい政策を打ち出したみたいでなぁ。農民から武器を没収しているみたいやで」


「それって」


「そうや。政府は農民が反抗できないように手を打ってきた。これは本格的にまずいで」


 そう言って、盛安は俺が飲んで空になった酒坏に再び酒を注ぎ、酒を飲む。


「ぷはぁ……それでだな。わいらはある作戦を考えたんや」


 作戦?今度は俺が空になった酒坏に酒をつぐ。


「おぉ、ありがとな。作戦っちゅーのは、それが江戸に持って行かれる前に取り戻すことや」


「……もしかして、革命を起こそうとしてるのか?」


 待ってましたと言わんばかりに、家盛は声を上げる。


「察しがよくてたすかるわぁ。そうや、うちらはいずれ藤川政権と決着をつける。それで、手始めに武器調達をしたいってわけだ」


「それに俺も参加しろってことだよな」


「そりゃそうさ」


 そう言って盛安は姿勢をただし、俺に向かって土下座した。



「頼んます。どうか力をかしてくだせぇ!」



その時だった。


ガララ__!


声と同時に戸が開いた。

盗聴か!?

俺と家盛は抜刀した。そこにいたやつを凝視する。


 不格好な小袖を着て、手には見慣れた木刀を持っていた。だがその木刀は、俺達に向けられてはいなかった。

 そこにいる少女は、俺たちに向かって言った。


「私も、その作戦に協力させてください!」


「つる……」


 俺は初めて少女の名を呼んだ。

俺と鶴を交互に見た盛親は刀を鞘に収める。


「なんだ。十兵衛はんの知り合いか」


「いえ、その」


「わっ私、十兵衛師匠の弟子の鶴です!」


 少女ははっきりとその言葉を口にした。


「えぇッ!?嬢ちゃん、ほんまに十兵衛はんの?」


「はい!そうです」


「えっ!?えぇぇぇぇ!?ちょっ、鶴!」


 俺は鶴を連れて表へ出た。ひと目のつかない物陰に鶴を連れてくると、俺は強い口調で言った。


「鶴、どうしてまた戻ってきた?」


「だって、私……」


「どうしてあんなことを言うんだ」


 鶴は「うぅ」とうめき声を上げた。下唇を噛み、目からは大粒の涙がいっぱい流れていた。




「私、やっぱり諦めきれない。師匠の弟子になりたい。師匠じゃなきゃ嫌だっ!」




「つる」


 自然と名前を呼んでいた。

本当は、心のどこかで鶴を弟子にしたかったのかもしれない。

あの戦いの後、俺は鶴が放った一撃の感触を忘れられなかった。

相手を一瞬で射抜く弓の矢のように速く、そして巨大な岩よりも重いその一撃を。

あの時俺はきっと、鶴の刀術に恋をした。

もう一度、いいや何度でも、あれを間近で感じたいと。

気がつけば、俺は鶴を抱きしめていた。


「ごめん」


 ただその言葉を何度も、何度も繰り返した。


「……ししょう?」


 胸の中の鶴は、不思議そうに俺の顔を見上げていた。

俺は鶴と向かい合い、ここ五日間、ずっと言いたかった言葉を鶴に言った。



「鶴は俺の弟子だ。これからずっと、いつまでも」



「じぃ……、じじょぉぉおおおお」

 俺は何も言わず、大泣きする鶴の頭をそっとなでた。






「用はぁ、済んだぁみてぇえやなぁ」


 俺と鶴が戻ると、盛安は残った酒を全て飲み干し、べろんべろんに酔っ払っていた。

一方鶴は、俺の胴服の袖を掴んで、俺の後を追うようについてくる。なにこれかわいい。


「酒くせえ、近寄んな」


「そう冷たいこたぁぁいうなよぉ」


「いいからさっきの話の続きをしろ」


「しゃぁねーな。ええっとどこまで話したっけ」


「俺と、その、鶴が協力するから、 作戦の内容を話すんだろ」


「おぉぉっ十兵衛はんがいれば百人ひきやぁ」


 呂律が回ってねぇ……酔いすぎだ。


それと、鶴が協力することについて何も言うことないのか。一応7歳の女の子だぞ。


「作戦を話すまえに水をくれぇぇ……」


 俺は酒坏に水を汲み、それを盛安に渡す。盛安はそれを豪快に飲み干した。


「はぁ……酔がちょっと冷めたわ。そんじゃ、作戦についてだが、決行は七日後。政府のやつらが九州で集めた武器を江戸に移動させるちゅう情報がある。その武器を移動させている最中に、わいらは奇襲を行う」


「それなら俺達は必要ないじゃないか」


 チッチッチと人差し指を交互に振ると、盛安は話を続ける。


「それがな、わいらの部隊の武器も、かなりの数を取られちまってな。実際に戦える兵士は100人いるかいないかって感じだ」


「100人……ちなみに敵兵数は?」


「2000だ」


「「2000!?」」


 いままで黙っていた鶴も、敵との圧倒的人数差に思わず声を漏らす。


「だから手練が一人でも多く欲しいんや。それに十兵衛はんからしたら、兵2000なんて一人でも蹴散らせるやろ?」


「馬鹿言わないで下さい。俺でも……」


「がっはっは。夏の陣で兵20000相手にしといていまさら謙遜されても。というわけで、頼んまっせ」


「はぁ」


「それで、奇襲をかける場所についてなんだが、五街道の長崎路のどこかで奇襲をかけようと思う」


「長崎路かぁ……ここからかなり距離があるな……」


 五街道は、1601年頃から藤川家盛によって作られた主要道路だ。盛安はここを通るだろうと考えているらしい。


「前日にはここを出てもらって、夜のうちに長崎路周辺で待機していてほしい」


「わかった」


「それじゃあわいはそろそろ退散するとするかな」


 立ち上がった家盛の足取りは、まだおぼつかないように見えた。


「それじゃあ鶴の嬢ちゃん、よろしく頼むよ」


「鶴。ちょっとそこまで送ってくるから、ここでまってろ」


 鶴は正座のまま、「はっはい!」と返事をして、嬉しそうな表情を浮かべた。

俺は盛安に肩を貸す。


「おっと。すまねぇ」


「いや、別にいいけどさ」


 俺は家盛に聞きたいことがあった。


「どうして鶴の参加を断らなかった。あいつはまだ小さくて、戦場なんかとても……」


 盛安は俺の言葉を笑い飛ばした。


「半兵衛はんが心配する気持ちはわかるけどよ。半兵衛はんが弟子と認めた子や。きっと腕がたつにちがいねぇとわいは思ったんだわ」


「まぁ、確かに技術はすごいけど」


「せやろ?それに……半兵衛はんのあの告白を聞いちまったら……わいわなぁ……」


「ばっ!?」



 聞かれてたのか!?



 体中が茹でダコのように熱くなった。うわぁぁぁぁ恥ずかし恥ずかし恥ずかしいぃぃぃぃぃ。


「そういうわけやから、鶴ちゃんにも頑張れっていっといてや」


「あぁ……」


「西軍はまだ本当に敗北したわけじゃない。この独裁政権をわいらの手で終わらすんや……皆が笑って暮らせる世を、わいらでつくるんや。その第一歩となるんが、7日後や……」


 盛安はどこか遠くを眺めながら、己の野望を口にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ