過去
退勤後、私はコンビニで大好きなおつまみ缶を選りすぐる。(今日は、さば缶かなぁ…でも、この貝も捨てがたい。。)そんなことを考えながら、私はチーズと鯖缶を手に取り、帰宅した。ドアを開けた瞬間、彼の声がする。
「ごめんね。遅くなっちゃった。今ごはんにするね。」
ご飯といいつつも、先ほど買ってきたつまみを皿にわける。もちろん彼の分の缶も彼の皿へのせる。
「あ!」
すっかり忘れていた。慌てて洗面所に行き、メイクを落とす。化粧をしたままでは、ゆっくりできない性格なのだ。いつもなら帰ってきて一番にすることなのだが、お腹がすきすぎてすっかり忘れていた。
その後部屋着に着替えたら、冷蔵庫からキンキンに冷えたビールとワインを取り出す。おまけに余っていた生ハムがあったので、気分は赤ワイン。グラス一杯分あけ。お気に入りの映画をつけて、部屋を暗くし、小さな明かりを灯して、雰囲気は十分。彼もいつもの定位置である私の隣でゆったりしている。彼のために用意したものを渡すと、とても幸せそうに食べていた。彼は本当に幸せそうに食べる。私もビールを開け、缶詰の魚を口に運ぶ。
「ん~~!ビールと合うわ。幸せ。」
二人でおいしいねって言いながらいつも食べる。
食べ終えると、彼は飲んでもいないのにすぐ私に寄りかかりごろごろ寝だす。なんて愛おしい。まぁ、これは食後に限らず彼は寝るのが好きだから、日常茶飯事だ(笑) 愛おしくて、ついつい頭をそっとなでてしまう。彼もそんな私をまた見つめる。彼と一緒に暮らしてもう3年くらいかな? 本当に幸せだ。彼、とても無口ではあるけど、愛情表現はするし、甘え上手、それでいて私一筋。
「大好きよ、アキ…」
*
*
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23時過ぎ。ふと見上げると月が綺麗な静かな夜。
「真中~~~…。次行くわよ~~~・・・・。」
「だめですよ。宮村さん、もう酔い過ぎです!!毎回これだから、桐生さん来ないんですよ?!もう…しっかりしてくださいよ!」
「椿…。よし。椿んちいくわよ!!!!!!ここから近いし、飲み直すわよ!!!!」
「え?!!!」
本気なのか…?僕は、こういう時だけしっかりしている宮村さんの後についていった。(歩くのはやいな…。)決して、桐生さんの家に言いたいわけではないが、ああなった宮村さんは止めようがない。15分ほど歩くと、あるマンションの前についた。白い色をしたマンションで、周りには植物も植えられていて清潔感があり、なんといってもオシャレだった。
「ここが…」
宮村さんはにやりと笑い、三階までエレベーターで昇る。三階の一番端の部屋「305」と書かれた扉の前に来て、「つっばき~~~~~~!!!!!」と叫んで、インターホンを鳴らしだした。
「ちょっ!宮村さん!!!それはまずいです!!!!!!!」
「あけなさいよ~~~~~!」
(これはやばい。。。そういえば彼氏さんもいるのに、押しかけたらめちゃくちゃ迷惑じゃないか!!!宮村さんが酔っているのと、家を見たい好奇心ですっかり忘れていた…。)
すると、すぐに
「あ~、うるさいわね。やっぱり来たのね。ったく、静かな夜が台無しよ。」
と桐生さんがでてきて、宮村さんの肩を持って中へ入った。
「あのっ…!桐生さん!すみません、とつぜ…」
「いいから。真中くんも入りな。この子のことありがとね。」
そういって、優しく笑ってくれた。仕事の時とは服装が違うからだろうか。優しい…いやもともと桐生さんは優しいが、なんかもっと柔らかい感じがした。
しかし、もっと重要なことを思い出す。
「あっ…でも彼氏さんいるから僕は上がらないほうが…」
「今ねているから、安心して?笑」
そんなのでいいのかと思いつつも、まぁいいかといった感じで僕もお邪魔した。宮村さんもいることだし、問題ないだろうと。
宮村さんは慣れた感じでソファーに横になる。
机にはさっきまで1人で飲んでいたのであろうか。飲みかけのビールが置かれていた。辺りを見回しても、彼氏の気配がない。
「あの桐生さ....」
ふと気がついた。部屋着だ。いつも束ねている長い髪を下ろし、ショートパンツ姿の部屋着でいる。白い肌と黒すぎない髪のコントラストが綺麗だった。
そんな彼女に見たらていたら、
「ん?どしたの?」
「あ、いや。。彼氏さんは。。」
そこまで言って彼女は笑った。
「あの酔っ払いの隣よ笑笑」
宮村さんの隣を見ても誰もいない。ソファーは彼女が占領中だ。一体なんなのか???
不思議に思って近づいてみると、たしかに彼はそこにいたのだ。
灰色と黒と白のフワフワの小さな彼。
なるほど、これはたしかに小さい。
「にゃぁ〜〜」
僕の存在に気づいたのか、彼は目を覚まし、僕を警戒しているかのような目で見つめる。
「僕、警戒されてますね笑笑」
「男なんてこないからね笑 珍しいんだと思うわ。」
そうなのか。と内心安心する。彼氏はいないんだと。
もうしかして、部屋に入るのも僕が初めてだったりするのかと考えていた。