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海の声

作者: イチ

ホラーは初めて書きます。

よろしくお願いします。

海の声



完全な闇夜の下、静かに一本の航跡を残す一隻の護衛艦。

天候は晴れ。波は比較的静かだ。


時刻は0200。月も星も見えぬ闇の中、吉川紀仁よしかわのりひと海士長は、右ウィングで見張りをしていた。

彼は入隊して三年目の海上自衛官である。

艦艇生活にも慣れ、少し余裕が出てきた頃だ。


今夜は目を凝らさねば水平線は確認できない。

どこが空で海なのか。前直と交代したばかりの彼の眼は、それを判断するのが難しい。


彼が装着しているのは船舶用の無電池電話。電源を必要とせず、船体にある取り付け口に電話線を取り付けるだけで、送受話ができる。

ヘッドセットをイメージして貰えば差し支え無い。


「艦橋1番」

「はい、艦橋」


「マスト灯、造形灯、右舷灯、右視界内 以上なし。」


見張り範囲内に異常が無い事を艦橋に伝える。


「左舷灯、左視界異常なし。」

左ウィングの後輩も報告する。

「艦橋了解。」


(今日みたいな暗夜は苦手だな。…よりによって夜間見張りか…長いな。)


そんな事を思いながら、

彼はまだ自分が2等海士だった頃を思い出した。


◇ ◇ ◇ ◇


あの日は、今日と同じような暗夜だった。


「吉川!今日は真っ暗だろ?こういう日を暗夜というんだ。

なあ、こういう日は

一度名前を呼ばれただけでは振り向いちゃいかん。

返事もならん。

って教わったか?」


一緒の直の若手3等海曹、松下3曹がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「し、知らないです…怖い話は苦手ですよ…」


まだ部隊に配属されて、そんなに日が経ってない私は、先輩と闇夜の2つの恐怖に怯えながら答えた。


「何だ!教わって無かったのか?…いいな?絶対振り向くなよ!」


「は、はい!」


「振り向いたら連れてかれるからな。」


それだけ言って、松下3曹は艦橋へ入ってしまった。



(あの人、意外と冗談なんて言うんだな。)

そんな事を思ったものだ。




30分程経った時


「吉川!」


後ろから名前を呼ばれた。


自衛官ならば、名前を呼ばれれば瞬時に反応せねばならない。

返事をしようと振り向きかけたその時



振り向くなよ。返事をしちゃいかん。



松下3曹の言葉が頭をよぎった。

咄嗟に返事を飲み込む。


グッと望遠鏡を握りしめ、前方を直視する。


どうしよう

どうしよう


胸に掛けてるマイクで艦橋を呼ぶか?

そもそも声を出して良いのか?


汗が額を流れ、体が強張る。



その瞬間


ガシリ


肩を掴まれた。ビクッと体が震える。




「…吉川、俺だよ。」


肩を掴んだのは松下3曹だった…


「すまんすまん、あれは嘘だ。騙されたな!」


これほど満足そうな松下3曹を見たのはこの日だけだった。



◇ ◇ ◇ ◇


ふふっ


昔を思い出し、思わず笑みがこぼれた。


良い先輩だったな。

あの人は元気だろうか。



視界内は相変わらず変化無し。


海面は良く見えず、ただ艦が波を切る音しかしない。


波浪もうねりも見えない時は、海の顔が見えないと誰かが言ってたな。


そろそろ報告するか。


「艦橋1番」


「艦橋1番!」

…返事が無い。


「艦橋1番?感度どうか?」


…何か聴こえる。

相変わらず返事は無いが、騒めき…ざわめきが聴こえる。


ザーざわざガ コココ



何だ?今まで聴いたことが無い。


艦橋の中で伝令と航海指揮官が話してるのか?

いや、艦橋とは通じなかった…

CICか…?


「各部ー1番!感度どうか!」


ゾー ザワザわ ザワざワ


返事は無い。

すると、さらなる異音が聞こえて来た。


ザワ 二チャッ ベチャちょ


…水っぽいような…

何かを…食べている?


気持ち悪い…全身から冷や汗が滲み出る。


きっと左見張りの後輩が、なんか食べている…そうに決まってる。

後で叱らなくては!



そう決めつけ、恐怖を紛らわせるも異音は止まらない。


グチっ ざ ワ ニチッ


何だ何だ何なんだ!?

何故だろう、何故か後ろは振り返りたく無い。


艦橋に飛び込むにも足が動かない!


ジュチッ チチチち キェエエエ


急に音のボリュームが上がり、非常に高い音が頭に響き出した。


…悲鳴だ。これは悲鳴、絶叫?

汗が全身から吹き出す。


たまらず受話器、ヘッドホンを外そうと頭に手をかける。



そこで、1つ疑問が浮かんだ。


これは 本当に 受話器から 聞こえているのか?


受話器器は決して外部の音を遮断する訳ではない。



外してはならない。そんな気がする!

しかし、


キイアアギギイイイィィ‼︎!!


奇声は止まらない。

もう頭が割れる!だめだ!


「ああああ‼︎‼︎」


覚悟を決め、受話器を外した。

ギュッと目を瞑る。


…聴こえるのは、艦が波を切る音のみ。


「ハーッ、ハーッ、はー…」

急に虚脱感に襲われた。

息が切れる。



キイ…ガチャ

「おい吉川!さっきから呼んでるんだぞ!

感度無いんじゃないか?

…どうした?」


航海指揮官補佐だ。


安堵し、軽く息を整える。


「すいません、大丈夫です!」


「そうか…っておい!電話線抜けてるじゃねぇか!

ったく、そりゃ応答もせんわ。

海士長だろ?頼むぞ。」


本当だ。…いつの間に。


濡れた電話線を近くの雑巾で拭き、付け直す。


「各部、1番電話ついた感度どうか?」


各部から感度良好が伝えられる。


もうあの異音はしなかった。


◇ ◇ ◇ ◇


あれは何だったのか。

受話器から聞こえていたのか、それとも…



いや、もう何も考えまい。


彼の頭は既に次の出港、任務の為に切り替わっていた。

稚拙な文章でありましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。


指摘等あればよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短い文章に、恐怖が詰まっていてよかったです。
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