第15話 退院
事故という悲惨な出来事から翌日、退院したという連絡がきた。また、部活には復帰するかもという不確かな情報も書いていた。
「退院したって連絡きた?」
「うん、来てたよ。 しかも部活に戻るかもしれないんでしょ」
「これで綾ちゃんと舞衣ちゃんが仲良くなってくれればいいね」
長谷川さん、岩井さんの会話を傍目から見ていた原田さんは驚いた顔をしていた。
連絡がきていなかったというのもあるだろうが、まだ心の準備ができていなかったのだろう。
でもなんで、今になって急に部に復帰するんだろう? 確かに、戻ってきてくれるのは嬉しいけど、あんなに話題にされたくなかった原田さんがいると分かっているのに、なぜそんなことを思ったのだろう? 誰かが仲良くなるように催促したのかな? でもクラスが違うのに、どうやって知り合ったんだろう。
まぁ、久しぶりっていうか、木下さんの元気な姿を見られるのなら、僕としても嬉しいんだけどね・・・。
でもクラブに顔を出さなくても、同じ教室の中に居るのだから、美月や真司と一緒に雑談が出来たら、もう満足だけどね。
そして、しばらく通院していたが、数日経って「もう大丈夫です。くれぐれも事故や病気には気をつけてくださいね」と忠告も受けて戻ってきた。 正直、木下さん本人よりも喜んでいたかもしれない。
その後、部活に戻ることを決心した彼女は学校に向かった。
久しぶりに部活に顔を出すためか、緊張しているような感じがした。 その理由に、途中から体が震えていて、ボソボソと呪文のように何かを言っていたものの、話しかけて驚かせるわけにもいかないし、何より怖かったので、後押しや緊張をほぐすような言葉はかけられなかった。だがメールには、「部活に戻ってくるの?」というのがきて、返信すると「ちゃんと木下さんを落ち着かせてね」と返ってきて、プレッシャーというか、変な緊張感というか、そういったもので変な汗をかいてしまって、いつの間にか頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなった。
そんな姿を見て落ち着いたのかは分からないが、部室の前に着くころには、さっきまでの姿とは別人みたいになっていて、逆に「どうして心ちゃんが緊張してるの?」と笑顔で言われて励まされていた。そのときに情けない姿を見せてしまったと思ったが、木下さんの顔を見ていると、そんなこと気にしてたのかと思うようになり、自分の顔も綻んだ。
ドアを開けると、いつもの光景が… とはいかず、原田さんだけ居なかった。 想定はしていた事態ではあったが、やっぱり全員揃っていないと悲しい。
僕も相手に傷つけてしまったときは後悔の念に囚われてしまう。多分、相手が傷ついている以上に傷つけてしまったと思うからだ。
なぜそうなるかと言えば、おそらく他の人よりも立ち直りが遅く、そんなこと思われていたんだと、ショックで魂が抜けて、まともな考えが出来なくなってしまうからだろう。
でも、これは原田さんが修学旅行のことを謝って仲直りしたいと言っていたはず。
ならば、今までで一番のチャンスだと思う。 その絶好の機会を逃すことになるのに、なぜ居ないんだろう?
「原田さんは?」
「え? 来てないよ。 せっかく来たのにごめんね」
「仕方ないですよ。 舞衣ちゃんは友達のことを大切にする人ですから」
そう言った木下さんは、誰が見ても落ち込んでいるというのが分かった。 その瞬間に2年の人達がタイミングを合わせるかのように頷き始めた。 そして…
「皆、トイレ行きたくない?」
「あ、丁度行きたかったんだ」
「実は俺も」
「じゃあ私も行こうかな」
あからさまにも程がある。 こんなの誰が見ても何かあるとしか思えない。 でも、この流れから察するに、僕も部屋から出たほうが良いだろうと思い、皆に合わせて出ていった。
部屋を出てから、なぜそんなことをしたのか聞いた。だいたい想像はできるが、憶測だけでは勘違いの可能性もあるかもしれないからね。
結論から言えば、予想通りというか思っていたことがそのまま返ってきた。 僕的には、もっと別の回答を待っていたのだが、この状況ではこれが一番適当かもしれない。でもこれは、いかにも岩本さんが思いつきそうな案だった。 まぁ、うまくいくことを信じよう。
その頃、部室では木下 綾が取り残され、 彼女は椅子に座りながら考えていた。
「どんな感じで顔を合わせればいいかな?」
まだ、考えがまとまっていないのか、部室に入る前の状態を再現しようと意識すればするほど、心拍数が上がり、体が固まってしまいそうになっていた。
その頃の舞衣も同じことを考えていた。
部室の前までは来たものの、ドアを開けようとすると、大きな不安感に襲われて、ドアノブに触れずにいた。 そこには磁石が反発しあっているかの如く、これ以上近づくなと何かに言われているように感じたからだ。
数秒の間、考えこんだ後に意を決して部屋に入った。 この間は二人からすれば、きっと何分も経ったかのように感じていただろう。それほどまでに嫌な、時の流れ方だった。
「あの、綾…………ちゃん?」
「えっ? あ、ああ舞衣ちゃん。 居たんだ」
話しかけられて驚いた。 急に話しかけられると、びっくりする。 それに状況が状況なだけに、時間差で反応していた。
「あの… ごめんなさい!」
「えっ? な、何が?」
謝らなければならないのは、こっちの方だ。
舞衣ちゃんが、この部に入った瞬間に、当てつけのように行かなくなっていて、修学旅行のことを未だに気にしてるなんて、結構、根に持つタイプで、性格悪いんだなあと自己嫌悪になりそうになった。
そこで、事故に遭って、先輩たちに心配をかけてしまった。 その時、隣に居たおばさんに、「こんなに心配してもらってるなんて、幸せ者ね」と言ってもらい、こんなにも想ってくれる人がいるのに、その人達を傷つけていたんだと気付いて、仲直りして部活に戻ろうと思ったんだ。
だから、ここは舞衣ちゃんに謝らせるわけにはいかない! ちゃんと自分で区切りをつけないといけないんだ!
「いや、悪いのは私の方だよ。 いつまでも、あの出来事を気にして、クラスの友達、先輩たち、そして…舞衣ちゃんを傷つけてしまって」
「……」
「だから、私に謝らせて」
私は、出来るだけ短い言葉で思いを表した。
もう、これ以上言うと感情が爆発しそうだったから。
それで、彼女の返事は………………
「じゃあ、二人で謝ろう?」
「え?」
涙を浮かべながら、キョトンとしてしまった。 でも、これを言った舞衣ちゃんの目も真剣だった。 もう過去のことは、これを機に水に流そうとしてしているのだろう。 これは、私も思っていたことなので、小さく頷き、返事をした。
「じゃあ、いくよ?」
「うん」
準備を整わせて…
「綾ちゃんに悪口を言って…」
「舞衣ちゃんに、嫌な態度をとって…」
「「ごめんなさい!!」」
お互いに大声で謝った二人は、笑顔を浮かべていた。




