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迷宮のウルトラブルー  作者: 津島修嗣
第一章 リトルドラゴン
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四. Puppeteer

 


 四.




 薄暗い坑道を音も立てずにひたすら進む。

 この先の玄室から五層に降りることができるとネロは言った。だからとりあえずそこを目指して歩き続ける。

 数メートルおきに取り付けられた粗末な照明器具が景色を単調に見せており、トワイライトは途中で何度も欠伸を噛み殺した。

 これでも一応緊張感は保ったままだ。魔物の急襲に備えて魔術的措置を施した例の糸を展開させているが、一向にそのような気配は感じられない。

 べつに好き好んで魔物をブチ殺したいとかいうわけでもないけれど、静まり返った四階層はそれなりに不気味なだけで正直かなり味気ない。

 目新しい情報が特にないのであろう。退屈なのはネロも同じのようで、今までおしゃべりを辛抱していた彼女の化身(アヴァター)がつと口を開いた。


『ねー、トワイライト』

「ア?」


 こういうときに何かしら気の利いたジョークを交わすことができるナビは、なかなか貴重な存在だ。

 自分の相手がネロで良かったと思いながら、トワイライトは素直に返事をする。


「どうしたよ」

『トワイは彼女とかつくらないの』

「…………オマエさんは何だって今そういうことを聞くのかね」

『うん? うーん』


 沈黙。ややあって、


『退屈だから?』


 前言撤回だった。

 投げかけられた言葉は全然気が利いていないし、冗談でもなかった。

 TPOをまるっと無視した問いかけと、それがよりによって他人の恋愛話に微塵も興味が無いであろうネロの口から発せられたことに面食らう。


『それに今のキミには決まったひとがいないようだし、なんとなく? で、どうなの』

「……別に、今んとこそのつもりはないけどね」

『ほんとに? 昨日なんか一晩中女の子たちとイチャくさしていたみたいだし、昼間だって彫り師のおねーさんと仲良くしていたじゃない。ね、あのひとは違うの?』

「なっ、お、オマエ最悪っ! さては覗いてやがったな!? 通信システムの悪用は控えると約束した筈だろうがよ」

『悪用じゃないよ、トワイライト』

「は、どこがァ?」


 トワイライトは不機嫌に舌打ちして悪態をつく。

 ネロの声色は幾分か言い訳めいていたが、それよりは駄々をこねる子供みたいな調子だった。それに少し寂しげでもあった。


『……キミは滅多に連絡くれないし、次の診察だってだいぶ先でしょ。だからその、どうしてるかなって思ってさ』

「だからってオマエ、他人の意識に不法にアクセスするんじゃねえよ。声かけろよ、声を。ふつうの電話みたくしろ」

『それこそお邪魔だし、そういうタイミングでふつうの通信にはまず出ないでしょ。ボクなら無視する』

「当たり前だろが。当然すぐにやめただろうな?」

『……えへへ、それが超エロかったからつい、ね? トワイっておっぱい大好きだよね~、あと舌でアレを』

「てめえは全然反省の色がなかったね!? えーとそうだ、うん、今すぐ通信を切ろう。そして自力で進もう」

『わ、ちょっ、冗談だよ! さすがにプライベートすぎると思って覗き(ピーピング)は即座にやめたし、接続もすぐに切ったって』

「アー、どうだかねぇ」


 冗談にしても行き過ぎである。それに、性癖をそっくり見抜かれているのも怖い。


 ぱたぱたとコミカルな動きで否定を繰り返す黒妖精。

 蛇のような下半身が手の動きに加勢して六又くらいに分かれ、同様にぱたぱた――この場合はにょろにょろと動いて弁解の意を示す。

 それぞれの頭が申し訳なさそうな顔をしていたり、慌て顔だったり、牙をむいて逆ギレしているものまであって、無駄に凝ったプログラムで動いているのがわかる。もっとも「過剰に」リアルなだけであって、ネロのプログラムには無駄なところなんて殆どないのだろうが。

 トワイライトはジト目になってネロの奇妙な化身を睨みつけた。

 ネロは漫画のような汗を出してうろたえて見せる。


『ほんとに肝心なところは何にも見てないよ! いや、超見たかったけどね? トワイのセックス』

「正面切って他人の房事が見たいとか、かなりはしたないですよネロちゃん!?」

『どうしてもダメなの? ぼくはトワイライトのセ』

「いい加減切るぞサヨナラまたね!」


 恐ろしいことに魔都には――というか俺の周りには痴女しかいない。

 トワイライトは半ば本気で通信を切ろうと意識を向ける。


『だから、冗談だって言ってるでしょ。だいたい四六時中エッチなことされてちゃ連絡もろくに取れないじゃんか』

「俺もそこまでアレじゃないわい!」



 ネロはもともと地上の黒客(ハッカー)だ。


 〝彼らの世界〟では恐ろしく有名……らしいがトワイライトにはよく分からない次元の話だ。コンピュータ技術は彼にとって殆ど専門外である。

 しかし、こうしてネロは彼と同調(リンク)し、遊び半分の会話をしている間も電網にアクセスして膨大な情報を集め、解析している。おまけに自身の化身を操ってもいる。もしかすると全然別の仕事をも裏ではこなしているかもしれない。

 そしてその全ての処理を同時に造作無くこなしてしまう。


 ネロは人間離れした規格外の情報処理能力を持っている。

 彼女は大抵の場合、「人より少しばかりコンピュータに詳しいんだよ」の一言で済まそうとするが、これはどう考えたって凄いことだった。実際、ネロの能力には過去に何度も助けられている。

 逆にトワイライトには想像もつかない方法で不正な操作を行い、今の会話の通りの悪戯を働くこともあるのだが。

 トワイライトは文字通りの魔術を使うが、ネロだって彼女の属する社会においては「魔法使い」と呼ばれ、畏怖される存在なのだ。


 彼女は皮肉屋で空気もろくすっぽ読もうとしないけれど――雰囲気を察しても敢えて気にしないのがネロだ――とんでもなく賢くて、それに鋭い。

 寝台探偵ベッド・ディテクティヴさながらに、彼女は部屋から一歩も出ることなく的確な導きを与えてくれる。

 それはいつもどんなときでも変わらない。


『トーワーイー、ねえったら! ほんとはね、ちょっと羨ましいなぁって思ったから意地悪を言っただけ。

 実際は何にも盗み見てないし、ズルをする気もないんだって。ねえ……』

「冗談なんだろ。わかってるよ」


 少しの隔たりがあって、「……そう?」とネロは聞き返す。

 どうやら少しはやりすぎたと反省しているらしい。通信が切られないかを心配しているようだ。

 トワイライトは渋々頷いた。


『でもさ、どうなの彼女は。ええと、ハルさん……だっけ? きみの刺青の』

「なァんでそこだけ繰り返し聞くのかね」

『だってすげー美人じゃないの。なかなかいないよ、あんなひと。や、綺麗っていうならキミだってそうだけどさ? 何かトワイにしてはイイ雰囲気だし、元々付き合い長いんでしょう』

「……別にあれはそんなんじゃねーよ。ただの腐れ縁」

『そうなの? おっと、そこは左。勾配があるから頭上には注意だよ。次の照明を過ぎたらもう少し。辺りに何も反応はない』


 ネロは適当な会話の折にも、しっかりと指示を織り交ぜてくる。憎たらしくもあるが、やはり優秀だ。

 それに、気が滅入るような地底の闇の中で軽口を交わす相手がいることは正直とても心強い。


「お前こそ、男の一人や二人作っちまえばいいんでないの。それなりに別嬪だし、なんたって家柄があんだろ。

 この際、男囲っちゃえばァ? 逆ハーレムつってな」

『もう、下世話なこといわないでよね』

「てめえとどっちが下世話だよ」

『だってボクって他人に興味ないし? 今は迷宮だよ、なんといっても』

「ひとの頭ン中乗ってるくせして何を言う」

『まあねぇ。あ、でもね、トワイライトが付き合ってくれるんだったら、それもいいかな?』

「ハァ? なんだそりゃ。……いや、なんか面倒くせぇし」

『だよね~。ボク、身体なんかこんなだし。だいたい趣味じゃないもんねえ、貧乳っ娘は』

「おま……そうではなくて、医者と患者の範疇越えるのはさすがにな」


 現実のネロは、白魔半島の空中楼閣に棲む大富豪の末娘だ。

 黒数の闇市場を牛耳る(ルゥオ)家の娘。深窓のご令嬢。


 ネロの名も本人が勝手に名乗っているハンドルネームで、本名は別にある。ありふれているわけでもないが、ごくふつうの女の子の名前だ。

 トワイライトは最初に会ったきり、その後一度も彼女を本名で呼んだことが無い。

 いい名前だと、少なくとも彼はそう思っているのだが。

 多分これからも口にすることはないだろう。ネロ自身にそう請われているからだ。


 ネロは自室に篭りきりで、外に出ることは滅多にない。

 生身のコミュニケーションが苦手だからでもあるが、病気でまともに出歩くことができないのが主な理由だ。

 進行を遅らせることはできても治療は望めぬ難病で、彼女の余命はそれほど長く残されていない。

 原因不明の、不治の病というやつだ。

 現状、どんな名医も技術にも彼女の運命を覆すことはできないだろう。今までに何回もカルテを見たが、これはどこまでいっても真実だった。


「……元々そんな深く人付き合いするタイプじゃねぇだろ、お互い」

『ほら、そうやってまた都合良くはぐらかすんだから。トワイはボクのこと超便利な患者一号としか思ってないんだものね』

「あのね、万が一オマエに手出ししてごらんなさいよ? オマエの親父か兄貴に痕跡なく消されちまうよ」

『ああ、それは言えてる』


 ネロの父親は、世界に生身で触れることの叶わぬ娘を哀れんだ。

 末っ子であり、唯一の女子である彼女はとりわけ大切に育てられてきた。

 女であること。実際はそれだけではなく、ネロが優れた頭脳をもつ子供であったから……そういう部分が大きいだろう。

 それにネロは彼女の母親に良く似ていた。ネロの母親は彼女と同じ病で早くに亡くなっていた。


 だから、彼女の父親は世界中を望むことのできる眼を――代わりの展望を娘に与えた。

 それが最新鋭のブレインマシンインターフェイスによる疑似経験学習だった。

 ネロは難治性疾患の治療プログラムとして提供されるBCIを用いて、シミュレーテッドリアリティ、いわゆる仮想領域の中で多くの時間を過ごしてきた。彼女の情報技術もそれを通して培われたものだ。

 彼女は電脳空間に対する目覚ましい適応力をみせ、コンピュータ技術や情報処理の専門家として活躍出来るまでに成長した。


 ……ただし、中身は皮肉屋で奇妙な冗談を口にする捻くれたクソガキのままで。


『でもね、ボクのこと袖にしても同じ結果が待っていると思うけど』

「というと?」


 ネロの反論は内容のわりに嫌味のないさらっとした調子で紡がれる。だから怖い。


『簀巻きで港もいいけどさ。兄さんが飼ってる犬、いるでしょう? そう、あのでっかい子。

 もしもボクの申し出を断って、そんでもってボクがそれを言いつけたとしたら、どうなると思う?

 トワイライトは生皮引っぺがされて塩まぶされて、あの犬の餌になっちゃうかもしれないネ』

「おまえんちの教育方針ぜったいおかしいよね」

『そういう家柄なもので』


 冗談として判断しないと恐ろしくてやりきれないが、とてもそうは聞こえない。

 それでもネロが洛家の権力を使って攻めてきたことなんか、これまでに一度たりとも無かったのだ。それをすぐに思い出す。

 物騒な言動の裏には、狡猾で知略に長けたこの娘なりの真摯な想いがあるのかもしれない。

 ネロは脅しや権力では相手の心が手に入らないことをきちんと知っている。


『兄さんも父様も過保護だからねぇ。でもさ、ボクがそこそこ役に立っているのは本当でしょ? ん?』

「それは、まあ。ツオルギにも忠告されるほどには、な。もっとしっかり休ませてやるべきだと言われたよ」

『冗談! 他に娯楽無いの知ってるでしょ。それこそ退屈で死んじゃうよ』

「……退屈が原因で死なれるのは困るなァ」





 肉体の躍動や精神の昂ぶりを体感することのできるトワイライトとの仕事が、思った以上にネロに活力を与えている。

 

 ――もしかするとネロは俺を通して「生」とやらを実感しているのかもしれない。

 

 これは最近になって気がついたことだった。


 勿論、ネロは初めからこんなに危険な仕事をしていたわけではない。

 最初のうちは電脳遊戯にふけり、多人数参加型のオンラインゲームに登録してはあちこちで暴れまわっていたそうだ。たいそう有名なプレイヤーだったとのことだが、やっぱりトワイライトにはその辺がよくわからない。

 でも、そのうちに飽きがきたらしい。それらが所詮虚構でしかなく、自分の手に入らない紛い物であることを悟ったのだ。


 彼女は自らのフラストレーションを晴らすかのように、きわめて悪質なクラッキング行為に及ぶようになった。

 意味も目的もない盗みや破壊、その他の不正を幾度も働き、現実社会からも仮想空間からも何かを奪って壊す側に回っていた。気まぐれに義賊的な行為を行うこともあったが、それはごく稀なパターンだった。

 ネロ本人だって自分の行為に意味がないことを自覚していた。

 それでも彼女は止まらなかった。自分の力を持て余し、それに引きずられるように。ままならない自分の運命や死の影から逃げ続けるために、半ば恐怖に駆られながら壊し続けていた。

 彼女がしょっぴかれなかったのは自身の実力とそして主に家柄のおかげだ。

 娘の悪事は全て父親が揉み消していた。


 ネロの父親は闇商いによって莫大な財を築き上げた黒社会の権力者。トワイライトが外法道士として闇商品を取引する際の仲介も彼の組織が請け負っていた。

 トワイライトは秘薬、反魂、キョンシーや屍人形、臓器に人体強化など、いかがわしい商品ないしは技術を売って儲けている。買い手がつくなら、どんなにえげつないモノでも提供してみせる。


 ある日、トワイライトは取引を見物にきた洛家の次男から秘密裏の依頼を受けた。

 それは医術士としてではなく(都にはもっと優秀な医者が大勢いるし、ネロには既に主治医が何人かついていた)、トワイライトの迷宮召喚師としての腕を見込んだ依頼だった。

 それがネロと出会うきっかけとなった。

 彼の頭の中でどういう思惑が働いたのか漠然としか分からない。でも、彼はきっと期待していたのだろう。トワイライトがどんな人間かしっかりと読み切った上でああいう選択をしたに違いない。

 ネロの兄は、妹の機嫌を取って真面目に治療プログラムを受けるよう「説得」させるために、トワイライトを楼閣へ招き入れたのだ。


 はじめて彼女の部屋を訪れたときのことは、おそらくこの先も忘れられないと思う。

 ネロは初見のトワイライトを暫く値踏みするようにじっと見つめたあと、痛烈な皮肉を言った。

 それは硝子細工の百合のような儚い美貌の少女から発せられたとは思えない、ひどい言葉だった。

 ネロが本心でどう思っていたかはさておいて、人形のような不健全な美しさを持つ少女をトワイライトは一目で気に入った。

 歪んでおり、それでいて綺麗ものを見るとどうしようもなく焦がれて、放っておけなくなってしまう。

 これは昔からの悪癖だ。悪癖というより、ある種の倒錯だと言える。


 それから、そこそこ時間をかけて手の付けようのなかった悪童を改心させ――というよりも本人と共謀する形で丸く収めて、真面目に治療を受けるように説得をした。

 説得、というのはあくまで表向きの話だ。

 専門家による最善の治療プログラムを受けるという約束のかわりに、トワイライトはまた別の約束を提示した。


『おとなしく良い子のふりを続ければ、俺がホンモノの迷宮に連れて行ってやってもいいぜ?』


 要するに、トワイライトとネロが交わしたのは交換条件だった。





『どんなゲームでも味わえないリアルな体験させてやるって、本当だったよね』

「悪ガキを寝かしつけるには相応の代償を提示するしかなかったんだよ」

『それで大正解だったと思うけど?』

「……どうだかねぇ」

『少なくともボクにはさ。ボクはね、トワイにはホント感謝しているんだよ?

 何より眺めのいい部屋をきみはボクにプレゼントしてくれた』


 トワイライトの目線の先をふわふわ漂いながら語りかけてくるネロの口調は少しだけ熱っぽかった。

 眠る前に枕元で読まれるような退屈な御伽噺。そういう安い子供騙しなんか、勿論ネロには通用しなかった。

 頭の良い捻くれ者の少女はほとほとウンザリしきっていた。彼女はこれまで散々稚拙な気休めに晒され続けてきたのだから。


 少女が真に欲していたもの。


 それは、肉体の躍動や生の本能を満たしてくれる本物の物語。血の通った現実そのものだった。

 その欲望だけは、ネロが馬鹿にして見下している探索者たちのそれと変わらない。

 思うように動かない体と限られた命の時間。

 自らの悲運を受け入れはしても、どこか諦めきれない少女の葛藤。

 ネロの言動にはそういう感情が垣間見えるときがある。それは仕方のないことだ。それを責める資格は誰にもない。

 それでも彼は時折自分の提示した方法が正しかったのか、自問せずにはおれなくなるのだ。


「……俺は少し後悔しているんだけどね」


 俺は苦痛を和らげるための薬を与えたつもりで、その実、ただ甘いだけの毒を与えたに過ぎないのかも知れない。

 生まれながらに殆どすべてを〝持っていない〟いたいけな子供。その手から死への恐怖までをも奪い去り、こちら側へと引きずり込んだ。

 トワイライトは、本当はひどく惨い行いをしただけなのかも知れない。


『それ、きみのなけなしの善意のせいで、ボクが余計深みに嵌まったかもってこと?』

「なけなしってオマエな」

『あのね、トワイ。変なとこだけいい人ぶったって無駄なんだよ? キミの悪い癖だって、ボクにはちゃんと分かっているんだから』


 ご丁寧にこんな時までネロは核心を突いてくる。

 本当にどこまでも勘のいい子どもだ。大人の顔色を伺い、空気を読んで行動をわきまえること。それに慣れきっている。

 自分ではどうしようもない、明けない夜のような運命に一人で向き合ってきた少女。ネロはこの齢にして既に残酷な視点を自分のものにしていた。

 トワイライトは自分同様、彼女もほんの少しだけ気が違っているんじゃないかと疑っている。きっとそうだ。

 ネロは自分のことでも他人のことでも、知らなくていいことまで鋭く察知してしまう。そしてそれをきれいさっぱり俯瞰する。

 トワイライトはこの少女をとても気に入っていたが、この点だけはどうにも気に食わなかった。

 彼女が自分の首を絞めているように思えてならないから。


『トワイが気に病むことじゃない。意味合いはちょっと違うけどさ、キミもボクもとっくに落ちているでしょう? 泥沼ならさ』

「見も蓋もないこと言うなっつーの」

『なんだかんだでトワイは迷宮に潜りつづけるでしょ。ボクはボクで、たぶん死ぬまできっとこのまま変わらないだろうし』


 死に急ぐようなネロの言動は、やっぱり的を射ていた。


 確かにネロがゲームを荒らし、悪質なクラッキング行為に及ぶことは無くなった。トワイライトが約束を守りつづけているからだ。

 だが、それがいつか彼女の命取りになるのではないかと危惧している。

 高刺激な同調は神経系に多大な負荷を与えるし、何よりトワイライトは少女の根幹を一つも変えていないのだ。

 時間は限られているが、未来がないわけではない。彼女を死なせては元も子もない。


「いい加減しょっぱい話はやめような、クソ餓鬼ちゃん」

『失礼ね。ボクはクソじゃないし餓鬼じゃないよ?』

「じゃ、俺のクソ餓鬼ちゃんで」

『……バカにしてもすぐ分かるんだからね!』


 怒り顔になったネロの黒妖精が頬をぺちぺちと叩いてくるけれども、当然痛くはない。

 視界が燐光でぼやけて危ないので手で払う。ネロもすぐに意図を理解して、再び肩へと腰を下ろして共に進む。



 指示通りに玄室へ辿り着くと、すぐに階下への梯子を発見した。

 トワイライトは五層入り口へと降り立った。







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