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迷宮のウルトラブルー  作者: 津島修嗣
第一章 リトルドラゴン
20/36

☶ -艮- 〈前〉

幕間 〈後〉



 


 ☶ -艮-




 どこかで滴の零れ落ちる音が響いた。

 意識の端に拡がる波紋を感じ取る。今度はすぐ近くで音がする。

 ゆっくりと寄せてくる水の気配に眼を開くと、漂ってきたなにかが腕にぶつかった。

 黄色い胴体に橙色のくちばし。なんの変哲もないアヒルの浮き人形だった。トワイライトお気に入りのお風呂用玩具である。湯船を漂う様を無心で見つめるのがなんとなく楽しいので複数個を買いこんで、こうして湯浴みの度に浮かべていた。


「……ンあ、ちょっと寝てたかァ」


 手のひらで掬って顔を浸すと、とろみを帯びた湯のぬくもりが眠気を拭い去ってくれる。そのまま伸びとあくびを同時にすれば、意識はさらに明瞭さを取り戻していく。

 浴室は濃い花の香りで満たされていた。それは心地良くもあったが、同時に頭の芯を甘く痺れさせるようでもあった。

 久々の休息とはいえ緩みすぎかね――そう思った時だった。


「風呂で寝るのは気絶じゃよ」

「……ア?」


 投げ掛けられた言葉にぎょっとして顔を上げると、すぐ向かい側で女が湯船に浸かっていた。

 柔らかく甘い花の芳香は、浴湯に混ぜた薬のためだけではなかったらしい。

 花の中の花と称されるイランイラン、それに素馨の香気。それらは彼女がそこに在る証となって浴室に立ち籠めていた。


「おはよう、トワイライト。……湯加減はどうじゃ?」


 情欲を掻き立てる姿態に一瞬だけ目を奪われたが、すぐにジト目になって女を睨む。目が合うと、既にこちらを見つめていた紫水晶の瞳が愛しげに細められた。これもまた、花のような可憐な笑顔だった。

 

 彼女は待っていたのだろう。

 艶やかな黒髪の肉感的な美女。東洋系の顔立ちはどこか物憂げにも見えるが、今はリラックスした様子で足を伸ばしている。

 にごり湯なので湯の下の輪郭は不明瞭だ。それでも浮力で立派な双球の半分がのぞいている。湯に濡れた肌はつやを帯びて瑞々しく光り、(ぬく)められて薄く紅を含んだ白い胸は、ふんわりと熟した果実のようでもある。頂は肌に近い薄桃色。

 というか、なんかもう谷間しか目に入らない。まさに絶対的な視線吸引力。たとえ誰が目にしたとしても、その匂いやかな肢体に触れたいという欲を抱かざるを得ないような。

 ……どうも全力でそういう方向に誘導されている気がした。いや、気のせいではない。このまま流されてはいけないと頭を振って邪念を追い払い、舌打ちして目を逸らす。

 トワイライトは漸くそもそもの疑問を投げかけた。


「っていうか、なんでおまえまで湯船に浸かってンのォ? ちょっとふつうに怖いんだけど」

「脱衣所で服を脱いで浴室に入ってきたからだが」

「それ全然理由になってない。せめて会話を成立させる努力をしてくれよ」

「ふむ。ええとな、久しぶりにお風呂ックスしようと思っての? 一応外から声は掛けたが返事が無く、心配して覗いたら気絶していたので、こうやって湯浴みしながら文字通り全裸待機していただけじゃ」

「あー、ハル。おまえに色々言いたいことはある……あるけど、とりあえずこのコンディションでイタしたらおれが死んじまうだろが」

「なに、水分補給すればいける。そこに全部用意してある。トワイもなるべく休暇中に気を蓄えておいた方がよかろ? 迷宮で気力が尽きたと話しておったじゃないか」


 バスタブの横に置いた水差しとコップの一式を視線で示すと、ハルはにっこりと微笑んだ。そのままぎゅっと抱きついて頬に額に惜しみなく口付けをふらせてくるが、トワイライトはさも邪険に扱った。

 一人で入ると前もって断っておいたのにこの有り様だ。

 今は女の体温を慰めとするより、穏やかな休養の時間を過ごしたかった。


「あのなァ、なんつーか、今はそういう気分じゃねえのォ。召喚術ってのは頭も体も超酷使すンだよ。だから今夜はこう、ゆっくり休んで明日いろいろ……」

「まだ賢者タイムか? 相当無理を働いたのは知っておるが、いいかげん腑抜けている場合ではないぞ? ほら、がんばれ、がんばるのじゃ」

「ひどい! がんばれとかそういう問題じゃない!」


 それでもハルはお構いなしに腿の上に圧し掛かり、しっとりと濡れた手指で首から背中、背中から腰へと刺青の一つ一つを丹念になぞりながら触れてくる。

 魔法の効力を確かめるように、紋様の刻まれた肌を指先が滑り、通り過ぎていく。触れられた箇所がじわりと熱く、過ぎ去ってしまう指の感触が狂おしい。互いの隙間を埋めるようにきつく肌が寄せられ、熱く濡れた舌が耳の裏にまで施された刺青に這わされる。


「てめぇこら、ハル! どさくさにまぎれておっぱいを押しつけるんじゃないよォ! ちょ、やめっ、タンマタンマ!」

「……これしきで?」


 淫蕩とした笑みを浮かべ、ハルは耳許で囁きかけてくる。長い睫毛が上気した頬に翳を落としていた。とても艶やかな表情だった。そのまま耳朶を食まれ、耳孔を舌でねぶられる。濡れそぼった肉が体の中に入ってくる感覚に背骨が疼く。

 これは、かなり、やばい――。

 外れそうになるタガを抑えつつ、ざぱっと飛沫をたてて立ち上がる。


「離せよ! おれはもう上がるってコラてめどこを掴んでやがるぁッやめろ、やっ、やめろってぇっぁうあぁッ、タッケテー! 近所の誰かァ! この家には痴女が住んでいますよ、痴女ですよ、色情狂ォ! こわい! 犯される!」

「アホウが、戸を開けてこれみよがしに裸体を見せびらかすんじゃない。ご近所迷惑じゃろうが、露出魔め」

「どっちがだよ!」


 浴室の窓を意味もなく盛大に開け放ち、漫画のキャラクターのように叫んでみたが、そもそも裏通りは閑散として人がいない。

 漏れた明りがトワイライトの影だけを切り取り、階下の水路に虚しく揺らめかせた。ちらつく光をとらえ、跳ねた魚がその影を砕く。

 波紋。水音の後には沈黙。


 深夜の黒数(くろす)市・懺骸(ざんがい)地区。


 その裏路地街は喧騒が遠く風に紛れて聞こえるのみで、ひっそりと静まりかえっていた。夜闇の底に昼間の熱気が押し込められて、肌に触れた外気は生ぬるかった。風は無い。


「知っていると思うのだが、ここらへんはアトリエ街じゃ。夜間であれば滅多に人は来ぬ。だからトワイライト、おぬしがいくら叫んで助けを呼ぼうと無駄なのじゃよ……?」

「言ってることが誘拐色魔のアレだよぉ」

「トワイが焦らすのが悪い。ほれ、湯冷めするから先ず窓を閉めろ」

「わかってぅぶえっくしょい!」


 不格好にくしゃみをするトワイライトの様子をみて、ハルは頬を膨らませながらも絡ませていた腕を離す。

 その隙にそろりと手をのばし、浴室の硝子戸を閉じる。古い朱色の窓枠がガタガタ音を立てて軋んだ。風と水、夜の気だるい匂いがいつの間にか浴室に混じっている。長風呂に夜気は心地よく、ほんの少しだけ窓を開けたままにした。


「おれだってちょっとそれっぽく喚いたり叫んだりしてみたかっただけだよ、全裸で、思いっきり、仁王立ちで外に向かってさァ……」

「おぬしは時々よくわからぬ性癖を発揮するよな。やはり無理のしすぎでそうとう神経にキているのではないか? 明るく楽しく狂っておるのは知っているが、全裸で拡声器持って役所前で演説とかやらかし始めたら、さすがに私も一切の縁を否定するぞ」

「ねえよ! おれはもともと裸で過ごすのが好きなんだ、ほっとけ」


 裸族発言をよそに、ハルは再びくつろいだ体勢に戻っていた。

 惜しげもなく裸身を晒しながら、女は手を伸ばして水差しからコップに液体を注ぎ入れ、ゆっくりと飲み干していく。動きに合わせて乳がいちいち盛大に揺れ、それがこっちの理性にも激しく揺さぶりをかけてくる。一挙一動一投足が恐ろしい威力を秘めた攻撃だった。


「まったくもう、トワイライトは意地悪じゃの~。ぜんぶ冗談なのになぁ」

「どこがだ」

「まあなんだ、腕がその状態では洗いにくかろ。お背中流してやろうと思ってな?」

「何が背中だ……ッてェ言ってるそばから足で弄るンじゃねえよ! 冗談もなにもないし、お行儀が悪いぞ」

「偶然じゃ。あ、そんな露骨に体勢を変えなくても」

「変えます!」


 ハルから身を守るように斜めを向いて膝を抱える。大きなバスタブを満喫できず、微妙に損をしている気がした。

 トワイライトは今、ハルの工房で休息を過ごしていた。

 彫り師である彼女のアトリエの浴室はトワイライトの自宅のそれよりもよっぽど充実している。おとな二人で入っても十分なほどの広さが確保されており、ゆったりと脚を伸ばすことだってできるのだ。寝室その他の居住スペースも小奇麗で快適であった。

 それに比してトワイライトが所有する個人病院は古く、雑多で珍奇な蒐集物で溢れかえっていた。その模様はある種の迷宮のようでもあった。別に過ごせない事はないのだが、やっぱりこちらに比べると生活スペースが少し手狭である。そんな事情もあり、いつもは専らトワイライトの方からハルの許を訪ねることが多かった。

 ……もっとも今後はそういう問題もどうにかしなければならない。

 二人分、ブルーのための場所をも確保する必要があるのだから。


「おれはお風呂は一人でゆっくり入りたい派なの。それに右腕だって自分でしっかり洗える程度には治ってンだよ」

「つまらんの」

「なに、心配とか気遣いとかそういうのと違ったわけェ?」

「トワイは弱っているときの顔が可愛いのにのう。昔はよくボロボロになって帰ってきたのを洗ってやったものを」

「昔を持ち出すなって、余計萎えるわ」


 召喚術を駆使すれば、気力と体力の両方を激しく損ずる。

 流れ込む膨大な情報量に神経が灼かれ、血を吸い上げられ、己の命を対価としたやり取りを自らに強いることになる。

 まして、先の事件の場合は召喚した対象に喰われかねない瀬戸際で戦っていたのだ。今度のことで心身ともに相当の負荷がかかっていたことは確かだった。だからこそ、こうしてたっぷり休息を取り、英気を養う必要があった。


 ……けれど、同時にトワイライトはあの一線に恍惚と陶酔の向こう側をみた。

 ブルーがもう一段上へ、おれを引き上げた。心のどこかでそう感じていた。


 トワイライトの悪夢は醒めて、ブルーは今ひとたびの微睡みの中にある。

 しかし、彼女の永い夢もトワイライトが奪い去ったことで終わった。

 されど誰の夢が終わろうとも、この街は悪夢で溢れている。良い夢も悪い夢もすべて詰め込んで、竜の亡骸の上に聳える巨大都市は拡張を続けている。今、この瞬間も別の誰かが夢を見ている。起きていようが眠っていようが、本質はあまり変わらない。この街では誰も彼もが夢に沈み溺れていく渦中にあるのだ。そこから浮上し、這い上がることができるのは、ほんの一握りの人間だけだ。


「それで」とハルが一呼吸おいてから切り出す。タイミングを計るのは残念ながらハルの方が上手かった。


「トワイが拾ったというお嬢ちゃんはその後どうじゃ」

「相変わらず眠ったまんま。じゃなきゃ、こうして気晴らしに来ていない」

「目が覚める兆しは無いのかえ?」

「あれから三日経つけど起きだす気配、ないんだよねェ。でも身体は健康そのものだから、きっと近いうちに眼が覚めるさ」

「……そうか。トワイが言うならそうなんじゃろうな」


 そうかもね、と頷いて天井を見上げる。立ち昇る湯気ですべてはおぼろげだ。

 ブルー。蒼い銀翼のような髪を持ち、幾億もの星を瞳に宿した少女。先日、機構の要請を受けて迷宮に潜った際に連れ帰った子どもである。連れ帰ったというべきか、掻っ攫ってきたというべきか、正直微妙なところだったが。


 ブルーは人間ではなく、迷宮の底を彷徨う精神生命体であった。「自分は迷宮竜の魂の一部だ」といっていたが、真偽の程は定かでない。彼女を召喚し、名前を与えたのは他ならぬトワイライト自身だった。そして、仮初の存在である彼女がこの世で形を得られるよう、ほんの少しだけ術の構成に手を加え〈壊した〉張本人。気を練り合わせ、交換することで二人は生き延び、奇しくも召喚術によって深く強く結びついてしまった。

 奪って〈壊した〉。あるいはむしろ与えたというのか。

 あの場を乗り切るための選択肢は他になく、また二人の我侭を同時に叶える術も無かった。

 しかし、幸か不幸か、それで生じた奇妙な繋がりがトワイライトに彼女の目覚めを予感させていた。どうしてか自分のことのように分かる。多分もうすぐだ。起きないなんてことはありえない。絶対に。


「しかし、こんな時分に医院に置き去りはまずいのではないかえ?」

「おれにだってメンテは必要だよ」

「それは、まあ……そうじゃろうがなぁ」


 無我夢中で編み上げた魔術によって喚び入れたが故か、ブルーの状態はとても不安定だった。触媒として用いた血も肉も、そして魔力も、到底十分とは言えなかった。トワイライトも自分の右腕を噛みちぎって贄としたが、それでも足りなかったのだ。

 咄嗟に組んだ術の構成自体が不味かったのか、それとも触媒不足が原因か。あるいは元々ブルーという存在自体に何らかの制約があるのか。ともかく何が原因か判然としないが、ブルーからは記憶や経験といった重要な要素が最終的に抜け落ちてしまっていた。

 元々何をどの程度知っていて、また、何を忘れてしまったのか。そもそも本来の自分が何者であるかを彼女自身が知っていたかすら謎である。本人が目覚めるまではなんとも言い難い状況だった。


 核心については微妙にはぐらかしつつも、ハルには既にある程度の事情を説明してあった。この女であればよそに話が漏れる心配はない。どの道、迷宮での出来事は遅かれ早かれ彼女の耳にも入っていた筈だ。だからこれからのことを考えた上でも、黙っておくという選択肢は無かった。

 それでもハルはやや疑わしげな――あるいは心配だという目をするので、トワイライトは敢えてもう少しを付け足しておく。


「地下の培養槽に入れて全身ケアしながらリアルタイムで経過を監視しているし、傍に見張り用の看護キョンシーを置いているから、変化があればすぐに分かるさ。符呪回路を仕込んであるから、よっぽどのイレギュラーでない限りおれの命令どおりに動いて対処してくれる」

「うわあ……」


 一応説明を試みたのはいいが、やはりというか、ハルは微妙な生ぬるさの滲む表情になった。


 〈符呪回路〉は道術を利用した仕掛けのようなものだ。

 道術と科学技術の融合により思い通りの使い方を実現したツール。

 呪符でもマイクロチップでもその他のナノバイオデバイスでもいい、(まじな)いを施した媒体を埋め込む――あるいは直接彫りいれることで対象に魔的エネルギーを送り、命令を出すことができる。

 使い方によっては殭屍(キョンシー)に役割を与え、遠隔から思いのままに操作することも可能である。死体に魄を埋め込む伝統的な符呪の手続きと同様に、術者の血を混ぜ込んだ宝珠を埋め込むことで肉体をその檻とし使役するのだ。

 これは師父である女仙リンレイから受け継いで改良を重ねた技術であり、現在は洛家のブローカーを通じて闇市場へ商売用の改良品が出回っていたりする。それも取引が上手くいき、今までにけっこうな額を儲けていた。


「また悪趣味な。手厚いことはわかるが、なんかそれビジュアル的にすごくかわいそうじゃな。どうみても変態闇医者の人体実験の図だ。そのまま目覚めたらトラウマになるのでは?」

「させないし、趣味と実益を兼ねてるだけだもん」

「……まあどちらもお主の本業じゃからなぁ。不足は無いということか」

「ン、そゆこと」

「しかし拾った死体を死んでなお無賃労働させるとは、業が深いの。医院の表向きの仕事なら、どこかで融通のきく看護師を雇えばいいだろうに」

「えー、何かめんどくさいしィ。ワケありの奴を探して面接して……とか、けっこう時間かかりそうじゃん? それに、まともな生者を相手にするおまえのお仕事とはぜんぜん勝手が違うンだよ」

「トワイは生者相手にだって穢い商売をしておるだろう」

「それとこれとは別だろォ?」

「そうか? どこかの外法道士が洛家に葬屍歩兵技術を提供したという噂を耳にしたのじゃがなぁ。トワイは黒社会の勢力争いにまで首を突っ込むつもりかえ? そのまま素ッ首もっていかれても何も言えないぞ」

「さあねぇ、何のことだかァ。それにハルが知るべきことでもないと思うぜ。(ヤクザ)絡みのえぐいゴシップなんて聞いてもつまンないだけだろ? おまえは流行の刺青の図柄でも追ってろよ。流行ってンでしょ、すっごい派手めの……」


 ハルの言葉はどれも真摯な心配からくるものだったが、それだけに耳が痛かった。だから大抵はいつもはぐらかして、話題を逸らしがちになる。


「ふん。トワイはリンレイ師父(せんせい)の悪いところばかり見事に受け継いだというわけじゃな」

「失礼だなァ」


 リンレイ。彼女は異端の女仙だった。かつて、ハルやトワイライトの師傳であった邪仙だ。

 業界の情勢が変化した今だって、彼女は十分に異端のままだ。

 世界は未だ、彼女に追いつけていない。

 リンレイは現代科学と道術、そして西洋魔術を融合させた研究に日夜励んでいた。多くの亡者、生者、あるいは弟子で下僕で犬同然のトワイライトを実験台として。


 気功の応用。生命科学と仙術の融合。

 それによって、リンレイは誰よりも死者を生者に近づけた。同様に生者を殺し続け、もっとも死に近づけた。彼女は魂魄と肉体の両方に容赦なくメスを入れたのだった。

 もしかすると、リンレイ本人は不死などにはあまり関心がなかったのかもしれない。だからこそ、徹底的にやった――。それも今となっては誰にも分からないことだが。

 兎も角、彼女はおどろおどろしくも新奇な技術の数々を生み出し、運用した。

 不老不死を目指した煉丹術と現代の高度科学技術を互いに補い合わせた新技術の開発。

 人造魂魄、強化殭屍に、迷宮生物を解体・培養して製造した人工臓器。人間そっくりの屍鬼人形。

 リンレイは間違いなくこの街の、そして世界の裏側である魔術社会の在り方に変革をもたらした魔女の一人だった。

 〈黎明の魔女〉に〈降魔妖姫〉――そういう通り名まで与えられていた。


 しかし、リンレイはもういない。いってしまった。


 ……彼女は永遠に去ったのだ。他の誰でも無い、おれのせいで。




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