プロローグ 私が引きこもったエルフの理由。
美形年下武人殿下の許嫁らしいです。(辞退いたしますー。)で出ていた、絶世美形エルフ(本人は自覚なし)が主人公の新連載です。
よろしくお願いいたします。
今日は何を作ろうかな……
いもがあるからポテトグラタンとか?
そんなことを思いながら自作の紺のエプロンを棚から出してかけた。
食品保存庫を確認しようかと地下室の扉をあけた。
「パルらーん、ご飯何にする? いるよね」
厨房部屋の扉が元気よく開いて水藍髪の女性が背中に赤子を背負ったまま入ってきた。
「エメルさん、いつもいません」
「いつもいるじゃない」
「……ごはんはポテトグラタンの予定です」
これ以上いっても無駄だと思ってため息をついた。
きゃー、パルらーん、私、それ大好きとエメルさんがウキウキしだした。
「それなら手伝ってやんなよ」
再び厨房部屋が開いて薄紫色の髪の中年女性が呆れたように言った。
「も、もちろん手伝いに来たんだからね」
慌ててエメルさんもエプロンをかけだした。
「私もやるよ、芋剥けばいいんだろう? 」
「ありがとうございます、ヤリアーゼおばさん」
私は食料庫に入って山盛りいっぱい芋と玉ねぎを入れて出した、ついてきたエメルさんに自家製ベーコンと小麦粉を渡す、保冷庫からミルクとバターを出してついでに葉物野菜も持って厨房部屋に戻ると食事担当者たちが集まってた。
「今日は息子たちも帰ってくると連絡来たし頑張るぞい! 」
レモン色に白髪がたくさんのルシードおじいちゃんが張り切って芋を調理台においた。
「やれやれ……無理するんじゃないよ」
ヤリアーゼおばさんが芋をクルクル剥きながらため息をついた。
「パルらーん、私、鍋出すね」
息子のギルアス君を背負ったままエメルさんが勢い良く動いてる。
ギルアス君、寝てて全然泣かないや……将来有望だね。
「パルちゃん、なんか……手伝おうか? 」
青緑の髪のウニクス君が顔を出してくれた。
「ありがとう、玉ねぎヨロシクね」
武術訓練帰りなのに良い子だなぁ。
あ、いい忘れてました、ここにいる人たちは私も含めてみんなエルフです。
村のみんなもすべてエルフです。
ここは剣の民のエルフが住むゼゼル集落です。
村はエルフらしく深い森の中にあります。
うちの村、出稼ぎ労働者がほとんどなんで家事は共同でやるんですよ、家も集合住宅だしね。
え? なんか可笑しいって この世界のエルフは戦闘民族なんですよ。
だから、戦場とか商隊の護衛とかでほとんど村人いないんです。
村のみんなはそこいらへんもんに負けないくらい強いです。
私ですか? 全然ダメダメですね……弱すぎて家業にでられないので村に引きこもって出稼ぎ労働者なみんなのサポートしてます……情けないよね。
まあ、平和が一番という性格な上に体力と戦闘能力がまったくないので仕方ないんですけどね。
そもそも、この世界に産まれる前の記憶あるんです、私。
あれは…いわゆる『神様転生』なのかな?
昔……って言っていいのかな、私、高校生でした。
行ってた高校は家庭科系の高校で案外大変でしたよ、栄養に被服に手芸と常に課題が盛りだくさんでした……よくやってたよ、私。
事故に遭ったんです。
道を歩いていたところを自転車のエリート進学校の高校生にぶつかられ道路に転倒、そこを自動車に跳ねられ……まあ、そう言うことです。
運動神経ゼロだったし、疲れもあったし……人間無理はいけないよね、最後に激痛の中見えた青空が印象的で……
次に目を開けた時も何故か青空が見えた。
『ヤッホー、元気? 』
やたら能天気な銀の髪と金の目の綺麗な男性が目の前にいた。
『だ、誰? 元気じゃないけど』
私、ひかれたよね、元気だったらおかしいよね? 医者? なんか違う?
ええ? 元気じゃないの〜? ちゃんと治したよね?
となんかワタワタしてる男性を冷静に観察した。
華やかな金刺繍の白地のギリシアみたいなズリズリした衣装をまとってる中性的な男の人……だよね、知り合いにいないし……髪の毛も中途半端に肩までの長さで長くて少しくるくるしてる。
本当に誰なのさ〜。
困って上を見たら空が見えた…抜けるような青空?
ついでに寝てるところを見たら身体の下はなんか硬い崩れかけた石の床だ。
建物内に居るのに廃墟テイストなんですけど……確かめてみようかな……誘拐じゃないよね?
私は身体を起こした、いつもより軽い。
神殿みたいな建物が見事に崩れまくっていた……よく言って遺跡、現実的には廃墟してた、よくあの噴水くずれてるのに水出てるなぁ……
そこにたたずむのーてんきな美形な男性……シュールだ。
『えーと本当に誰ですか?』
私は小首をかしげた。
『僕はこの世界の最高神グラソドールだよ! ……といっても誰も覚えてないだろうけど。』
男性が勢い良く言って少し寂しそうな顔をした。
か、神様? ちょっとこの人やばい?
『そうなんですか?神様がなんのご用ですか?』
こういう人を刺激しちゃいけないよね。
私は少したじろいだ。
『うーん、その反応し、ん、せ、ん。』
自称神様がウフフとわらって両手を胸の前で組んだ。
『新鮮って……本当に神様なんですか? 』
女子高生みたいなのりだなと思いながら聞いた。
『う……ん、そうだよ、みんなに忘れさられてるけどね。』
グラソドール様? が儚い笑みをうかべた。
は、騙されちゃいけない。
『その神様なんのご用ですか?』
帰らせてくれるんならうちに帰りたい……しんじゃってるのかな? 私。
涙が出そうになって目元をさり気なく拭った。
『うん、大したことじゃないんだけどさ……』
自称神様が話し出した。
どんな世界にも神様と別に世界の意思っていうのがあるらしい。
グラソドール世界の意思に選ばれた王の一人がなんの因果かこのままいくと覇王になりそうなんだそうだ。
世界平和のために戦乱の世にさせない為に覇王を癒やす伴侶として私を呼んだらしい。
『これ、決定だから』
グラソドール様がそうに言った瞬間に殺意をおぼえたよ私は!
世界の意思に選ばれた王? 覇王になる?
つぎの瞬間、私の脳裡に某日本史戦国時代武将が浮かんだ。
そう言う人の嫁になれと? いや~怖いの嫌い〜。
『その為に、わざわざ、グローバル世界『地球世界』の神に交渉して君の魂をもらってきたんだよ。』
グラソドール様がエッヘンと胸をはった。
地球世界の神様~なんてことをー。
抗議します! どうして地球に戻してくれなかったのさ〜。
まさかこの為に私、交通事故にあったんじゃ……
違うよ〜君は元々あそこで亡くなる運命で……とグラ様が良いタイミングで言った。
『嫌です』
怖いもん、結婚するなら顔より優しい人ってきめてるんです。
アイドル? 俳優何それの人だしね。
『決定だからね、大丈夫怖くないよ~多分……転生すると美形になる予定だよ? 覇王を魅了しないとだし、能力……なんかほしい? 』
グラ様が小首かしげた。
能力ってあれかちーととか弟が言ってたのかな?
あっても活かせないと苦労しそうだし……
『え?別にいらないです』
余分な運動神経とか魔法とか絶対に持て余す。
美形もいらないなぁ……覇王嫁回避したいし。
『もちろん、前世の記憶つきだよ、つかえる能力もつけるし、ちゃんと両親もいるしね』
グラソドール様が妙に嬉しそうに笑った。
この人きっと久しぶりに人と話してルンルンなんだろうなぁ
『困ります……本当なら、来月、誕生日にタブレット買ってもらう約束だったのに……やっぱり、電気とか水道とかまだない世界のかな? 』
ファンタジーでセオリーだよね。
それで改革しちゃったりって言うの読んだけど。
『あのさ……うちの世界、タブレットみたいなのあるよ』
何故か生暖かい目で私を見てグラ様が微笑んだ。
『成人のお祝いに送ってもらえるようにしておくね、灯りも火じゃないし水道あるし井戸から水汲みなんてよっぽど自然主義者以外してないから、だ、い、じょ、う、ぶだよ』
だから問題なし〜剣と魔法の世界だけじゃなくて期待はずれでごめんね〜と生暖かい目継続でグラ様が笑った。
期待してません。
『困ります』
うん、自己主張は大事だよね、特にボケボケ神様にはね。
『大丈夫、困らせないよ、本当は明正和次元の方にも魂の派遣頼んだんけど…あの世界ケチだからダメだったんだ、その点地球世界はいいよね、ともかくよろしくね』
グラのアホが内情をバラした。
私は第二候補かい! そっちがんばってよ〜どういう差があるか知らないけど〜。
もうこれ以上話したくない……どうせ返してくれないんだろうし。
『ハア……この次に会うときは死ぬときでしょうが、私が使命を果たせなくても、文句は言わないでくださいね』
絶対に覇王の嫁回避して平穏無事な人生送ってやる。
『死ぬときは別の担当だしなぁ……あわないかも、大丈夫きちんと、伴侶になれるから! でも寂しいから僕との会話機能もつけちゃおうっと、また、お話ししようね、よろしくね』グラ様はニコニコと微笑んで私の額に触れた。
こ、この無責任男〜。
とたん意識が遠くなる。
別に、いいのに…会話機能つけなくても~。
話すことなんてないもーん。
となどと思いながら意識は再び闇のなかに沈んだ。
そしてゼゼル村に生まれました……なんということでしょう……種族はエルフだったのです。
覇王ってエルフなのかなぁってちょっと思ったけど、今のところ話聞かないなぁ。
グラがいってた条件はそろってました。
前世の記憶、私が覚えてない分まで残ってたよ。
テストの点数なんて役に立たなーい。
両親は剣の一族のパリアスお父さんと魔法の一族のラランお母さんで二人とも優しいです。
私、エルフが戦闘種族だって知らなかったよ……
森の中に住んでるのは敵に見つからないためだったらしいし、尖った長い耳は敵の音を直にわかるように発達したらしい。
エルフ〜何があったんだぁ〜。
ちなみにエルフでも色々得意分野があってウチの一族は剣が得意らしい。
お母さんの種族は戦闘魔法が得意らしい。
二人共強いのに……強いのに~私全然ダメなんです。
剣の一族としても、魔法の一族としてもか弱いと見なされてるんです。
魔法……魔力普通よりありますよ……攻撃出来ないので日常生活に使ってます。
武術はまったくダメダメでした、剣を持てば持ち上がらず、体術は蹴った瞬間転がり……全くダメダメで鍛錬場の床に体育座りでのの字書いたのはいい思い出です。
武術訓練の師匠にうちにいた方がいいと言われました。
それ以来飲食物を届けに行く以外行ったことがありません。
届けた飲み物を飲みながらパルラは良い嫁さんに慣れそうだなと師匠に頭を撫でられながら思うのは……わーんやくたたず〜ってことですよ。
一族の人たち優しいんですよ〜こんなごくつぶしを養ってくれてパルラちゃんはできることやればいいんだよって言ってくれます。
家業できないのに〜
だから、せめて食事とか衣服とか前世の技能でつくってたら……
かこわれすぎてなぜか引きこもりエルフに!
私、前世、引きこもってません、普通の高校生でした! まあインドアでしたけど。
この世界、食生活、弟が持ってた小説みたいに悪いって言う事ないんですよ、食材あるし味噌、醤油みたいのもネットで取り寄せればあるし米も以下同文……ウチの一族はほら出稼ぎ労働者だから自給自足より他から購入なので……葉物野菜くらいは自家菜園でつくってますが……だからきっと役に立たない私を落ち込ませないために任せてくれてるんですよ、優しいなぁ。
『ポテトグラタン美味しそうだね』
グラの脳天気な声に少しだけ殺意を覚えた。
間違いなくしっぽふってる、無いくせに。
出来たら神棚にそなえてあげるから、静かにしてね。
わーい嬉しいなぁとますますしっぽを振るグラ。
まったく、うるさいな、うちのグラは……
『なんか、ワンコ扱い?』
グラが小首をかしげた。
そうに決まってるでしょう! 菓子箱で作った神棚に供えられて喜んでる最高神様。
めんどくさくなって作業を再開した。
「パル、ベーコン切ったよ」
いつの間にか増えてた深緑の髪のハストさんが静かにボールを持って脇にいた。
わ……グラの話し聞いてて少し意識が飛んでたとはいえ全然感じないなんてさすが潜みの一族出身のエルフだよ。
「パルらーん、玉ねぎに粉振っていい? 」
すごい勢いで玉ねぎ炒めてるエメルさんが振り向いた、寝てるギルアス君がブランと頭をのぞけらせたけど……おきる気配がない……本当に大物だよ。
ちなみにエメルさんは簡単ホワイトソース制作中。
「小分けにふりいれてね、ハストさんありがとうございます」
さて、みんなが帰ってくるまでに仕上げないとね。
サラダにかけるアンチョビドレッシングを混ぜながら思った。
グラの言った通り確かに美形エルフに転生しました……エルフはみんな整った顔立ちしてるけど、その中でも美人さんってみんなに言われます。
若草色の足首まである髪をゆるく三つ編みにチェリーピンクの瞳と華奢で小柄な身体。
これで女性なら完璧なんですが。
美形エルフ……男に転生しました。
わーん、前世普通の容貌だったけど女なのに~。
グラのばか〜。
読んでいただきありがとうございます。