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第三話

SIDE-ライカ


 二階へと続く階段を上っていくと、オフェリアの部屋の扉が姿を現す。

 ドアノブに手をかけ、部屋に入ろうとするが、私はドアの小さな変化に気が付いた。


「……またドアが新しくなってる。オフェリア、またやらかしたのかな」


 これで通算一五回目だっけ、と苦笑して、ドアノブを回しゆっくりと部屋の中に入った。

 カーテンがしてあるせいか、部屋の中はまだ薄暗く、空気は少し淀んでいる。

 私は窓へと近づいていき、カーテンと窓を開ける。

 同時に朝の心地よい風と日光が入り込んでくる。

 部屋の中は明るく照らされ、少しばかり散らかった机や少女趣味全開のかわいらしい人形など色々なものが姿を現した。

 部屋の端のベッドに居座るこの部屋の主人も同様に。


「……毎度毎度、気持ちよさそうにお眠りで」


 ベッドの上に無造作広がる金色の髪、私の薄い胸の壁がみじめに見えるようなその豊満な胸。

 彼女を知らない者がみれば、ベッドで眠るこの姿を天使と勘違いするかもしれない。

 昔からずっと変わらない極悪な寝相に掛布団ははぎ取られて、無残に床に転がっており、布団としての意義をなくしていた。


「ふみゅ~……ふみゅ~……」


 いつも通りの私の親友、オフェリア・ランバートはのんきな声を出しながら、すやすやぐうぐう幸せそうに眠っていた。


「……起きるかな。ま、試しに」


 私はベッドに近づき、オーソドックスな攻めを展開してみることにする。


「おーい、オフェリアー。朝だぞー」


 作戦その一、ゆさゆさと身体を揺らし声をかけてみる。

 大抵の人ならしばらくこうしていれば起きるのだが、オフェリアの場合は……


「ふみゅぅ……」


「……ま、起きないよね」


 まあこれくらいなら序の口で腹を立てる私ではない。

 すぐに次の作戦に移るとしよう。

 私は手を、指をオフェリアのおでこに構え、渾身の力をこめ、今解き放つ。


「……えい!」 


 要するにデコピン。

 ぺちーんっ!と気味のいい音を響かせ、オフェリアのおでこに直撃する。

 昔は割とこれで起きてくれてくれたのだが、最近は耐性でもできてしまったのだろうか、効果が薄くなってきており起きなくなっている。

 まあ、これで起きなくても、次の作戦を実行すれば起きてくれるはず……、


「……ふみゅ?」


「……あれ? 起きた?」


 目は半開きながらも、オフェリアはじーっと私の顔を寝ぼけた顔で見つめてくる。

 思ったより早く起きたことに、少し拍子抜けしたが、起きたら起きたで一安心、無駄な労力を払わずに済む……、


「…………ラーちゃん」


「え? あっ、うん、何? オフェリア?」


 まだ寝ぼけているので、声をかけられることはないだろうと高をくくっていたところに話しかけられ、少ししどろもどろな返事になってしまった。

 ちなみにラーちゃんとは、オフェリアが私を呼ぶときのあだ名のようなものだ。

 その名前で呼ぶなと何回も言っているのだが、本人が呼ぶのを頑なにやめないので、こちらがあきらめてしまっている。

 そして、寝ぼけたオフェリアから一言。


「えへへ~、ラーちゃんのおっぱい、きれいで、やわらかくて…………とっても小さくて……すごくかわいいよ~」


「…………」


「ふへへ~、小さくてかわいいおっぱい……略してちかっぱい…………ふみゅぅ……」


「……………………」


 ひどいセクハラ発言で、私の心に軽くひびを入れ、わずか数秒で再び眠りにつく。

 ……そうか、いいだろう。

 それは、無理やりにでも、どんな方法でもいいから起こしてくださいという意思表示と取らせてもらう。

 私はバッグに入れておいた丸い球体を取り出し、オフェリアの枕元に置く。

 ついてあるスイッチを押すと同時に、ジジジ……日常生活ではあまり聞くことのできない怪しい音が発せられる。

 そして素早く、バッグに入れてあった耳栓、サングラスを名も止まらぬ速さで身に着けた。


「……いい加減……」


 サングラスをつけ終わると同時に、球体からの音が止まる。

 部屋の中にこだましているのは、何も知らない少女のかわいらしい寝息のみ。

 そして、


「起きろー!」


 私が声を発した瞬間、球体が破裂し、すさまじい音と光が部屋の中を支配した。





SIDE-オフェリア


 ……昨日の夜、確かに窓とカーテンを閉めたはずなのに、窓からは光が燦々と入り込み、心地よい風が部屋の中に入り込んできている。時間はすでに八時を回っていた。

 普段の私なら、こんな心地の良い寝起きを迎えていたら、間違いなく二度寝、三度寝は間違いなく受け入れていただろう。

 しかし今の私なら、そんなことは断じてすることはないと断言できる。

 何故かって? 理由は簡単。

 一つは、ひどい耳鳴りが原因だ。まるで耳元で爆発物が爆発したような感じで、キーンと音が鳴り続いている。寝ている間に変な所でも寝違えて耳がどうにかなってしまったのか、真相は闇の中だ。

 そして、もう一つの原因は……私の目の前に佇む一人の少女が、素敵な笑みを浮かべて、こちらを見つめていたことにあった。


「……」


「おはよ、オフェリア。よく眠れた?」


「…………」


「うん? オフェリア、顔面蒼白だよ。その様子じゃ、あまり眠れなかったみたいだね」


「………………」


「オフェリア、駄目だよ。どんな状況でも睡眠はしっかりとらなきゃ。これ、母さんが活きてた頃、ずっと言ってたことだから」


「……………………う、うん! 睡眠は大事だよね! 私って、絶対に九時まで寝とかないと頭がぼんやりしちゃってね! た、大変だよ~! あはは~!」


「あはは、そうだね。…………でも」


 目の前の少女は、私の頭をすさまじい力で掴み、その笑顔を崩さぬまま、


「……母さんは言ったんだ。時間すら守れない奴はそれ以前の問題だ……って」





 その後、通算五九四回目、今年三九回目、ライカ・ヴァンヴァーレの拳が、オフェリア・ランバートの頭の真上に突き刺さった。


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